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ふたりの気持ち(1)

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 翌日、鈴はできるだけ平然とした顔を作って出勤した。
 意識して難しい顔を作っていなければ顔がニヤけてしまい、会社の人間に変に思われるだろう。

「おはよ。御影、お前、なんかあったのか?」
「おはようございます、遊間さん。なにがですか?」
「いや、なんかすげぇ怖い顔してるから。今にも誰かを殺しにいきそうな顔だったぞ」

 遊間に顔を顰められ、鈴は頬をひきつらせた。にやけないように顔に力をいれていたら、そんな恐ろしい顔になってしまっていたらしい。

「すみません。顔が怖いのは生まれつきです」
「いやいや、そんなことないって。お前、そこそこ綺麗な顔してるんだから、もうちょっと柔らかい表情にしたら、印象、かなり変わるぞ」

 そうだろうか。怖いだの、近寄りがたいだのという評価しか聞いたことが無い。
人当たりが良いと言われて、いつも周囲に人がいる梶川とは真逆の評価である。

 ――努力すれば、少しは彼に近づけるだろうか。

「柔らかい表情って、どうしたら出来るんでしょうか」
「お、珍しいな。御影もついにイメチェンする気になったか?」
「からかうつもりなら、仕事に戻ります」
「冗談だって。うーん……そうだな。好きなヤツのことでも考えればいいじゃないか? いくら御影でも、好きな男の前でまでそんな仏頂面じゃないだろ?」
「やっぱり、からかうつもりなんじゃないですか」

 鈴はため息を吐いて、パソコンの電源ボタンを押した。

「はは、悪い悪い。まぁ、お前に好きな男なんかいるわけねぇか」

 やはり、鈴は周囲からも恋愛とは縁遠いと思われているのだろう。
 鈴だって、恋愛とは無縁な世界に生きていると思っていた。だけど。
 昨夜の梶川の言葉を思い出すと、自然と鈴の顔に熱がともってくる。

「……え?」
「なんですか、遊間さん」
「いや、なんですかって、その反応……え?」

 遊間は目を丸くして、鈴を凝視していた。

「御影、お前、好きなヤツいんの?」
「は? どうしてそんな話になったんですか」
「無自覚かよ……怖ぇぇっ」

 遊間はからかうような口調でそう呟いてから、席を立ちあがって、何故か鈴の肩に腕を回してきた。

「ちょっと、何するんですか、やめて下さい」
「御影。お前今日、飲みにつき合え」
「は? どうして私が」
「いーから、先輩命令。今繁忙期じゃねぇし、いけるだろ?」

確かに遊間の言う通り、今は切羽詰まった仕事はない。問題はないが面倒くさい。

「業務時間外ですよ」
「いいから、たまにはつきあえよ。こういうつき合いってのも、人間関係を円滑にするために大事なんだぞ?」
「人間関係を円滑に」

 鈴の脳裏に浮かんだのは、やはり梶川の姿だった。
 おそらく彼ならば、こうやって誘われれば、気さくな感じについていくんだろう。
 自分も彼を見習えば、少しは評価が変わるだろうか。

「分かりました」
「え? マジで?」
「どうして遊間先輩が驚いてるんですか」
「いや、誘ったはいいけど、御影が乗ってくるとは思わなかったから」

 そう思うなら最初から誘わないで欲しい、という言葉を、鈴は喉元で飲み込む。

「少し、自分を変えたいと思いまして」
「……マジで珍しいな。明日は雨か?」
「やっぱり、やめておきますか?」
「冗談だってば。じゃあ、今日、仕事終わったら声かけるから」
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