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恋人のように(1)
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鈴が遅刻ギリギリに出社すると、梶川は涼しい顔で仕事を始めていた。
あんなことをしたあとだというのに、よく平気でいられるものだ。まるで今朝の出来事なんて無かったかのような姿に、鈴は呆れてため息を吐く。
「御影が遅刻ギリギリなんて、珍しい」
そう声をかけてきたのは、鈴の先輩で隣の席の遊間だ。
彼は鈴と同じくシステム開発部で、鈴と同じくWEB関係の仕事を担当している。
「すみません。ちょっと、体調がすぐれなくて」
「確かに顔色が悪いな。大丈夫か? 病院には行ったのか?」
「原因は分かっているので問題ありません。例の案件、進展はありました?」
「ああ。やっとクライアントからOKが出た」
「それは良かった。やっと私達もコーディングに入れますね」
遊間と雑談していると、ふと視線を感じて鈴が振り返る。
すると、遠くのデスクで作業をしている梶川と目が合った。彼はもの言いたげの目で鈴を見ていたが、すぐに同じ営業部の女性社員に話しかけられて雑談を始めた。
(相変わらず、おモテになることで)
梶川に熱心に話している娘は、目がハートマークになっている。彼に気があるのだろうと、遠くで見ているだけでもすぐに分かった。
鈴に手を出さなくても、彼ならば女はより取り見取りだろうに……それでもちょっかいを出したのは、あと腐れなく遊べる相手が欲しかったからだろうか。
鈴は梶川から目を反らして、目の前の仕事に集中した。
「お疲れ様です、先輩」
終業後、鈴がパソコンをシャットダウンして帰る準備をしていると、ふらふらと梶川が彼女のデスクまでやってきた。
「梶川くん、なんの用? 見ての通り、もう帰るところなんだけど」
「大丈夫、仕事の話じゃありませんよ」
「嫌な予感しかしないのだけど」
まだ、仕事の用事の方が良かった。
こんな時間に鈴のデスクまできて、わざわざなんの用があるというのか。
鈴が眉根を寄せると、梶川は内緒話をするかのように、彼女の耳に唇を寄せる。
「今日の十時、昨日と同じルームで待ってます」
「は?」
「じゃあ、先輩。お先に失礼しま~す」
「ちょっと待って! あっ……」
梶川は鈴に一方的に告げると、鈴の是非も聞かずにひらひらと手を振って背を向ける。
鈴はまだ行くとは言っていないと文句を言いたかったが、あっという間に梶川の姿は見えなくなってしまったのだった。
あんなことをしたあとだというのに、よく平気でいられるものだ。まるで今朝の出来事なんて無かったかのような姿に、鈴は呆れてため息を吐く。
「御影が遅刻ギリギリなんて、珍しい」
そう声をかけてきたのは、鈴の先輩で隣の席の遊間だ。
彼は鈴と同じくシステム開発部で、鈴と同じくWEB関係の仕事を担当している。
「すみません。ちょっと、体調がすぐれなくて」
「確かに顔色が悪いな。大丈夫か? 病院には行ったのか?」
「原因は分かっているので問題ありません。例の案件、進展はありました?」
「ああ。やっとクライアントからOKが出た」
「それは良かった。やっと私達もコーディングに入れますね」
遊間と雑談していると、ふと視線を感じて鈴が振り返る。
すると、遠くのデスクで作業をしている梶川と目が合った。彼はもの言いたげの目で鈴を見ていたが、すぐに同じ営業部の女性社員に話しかけられて雑談を始めた。
(相変わらず、おモテになることで)
梶川に熱心に話している娘は、目がハートマークになっている。彼に気があるのだろうと、遠くで見ているだけでもすぐに分かった。
鈴に手を出さなくても、彼ならば女はより取り見取りだろうに……それでもちょっかいを出したのは、あと腐れなく遊べる相手が欲しかったからだろうか。
鈴は梶川から目を反らして、目の前の仕事に集中した。
「お疲れ様です、先輩」
終業後、鈴がパソコンをシャットダウンして帰る準備をしていると、ふらふらと梶川が彼女のデスクまでやってきた。
「梶川くん、なんの用? 見ての通り、もう帰るところなんだけど」
「大丈夫、仕事の話じゃありませんよ」
「嫌な予感しかしないのだけど」
まだ、仕事の用事の方が良かった。
こんな時間に鈴のデスクまできて、わざわざなんの用があるというのか。
鈴が眉根を寄せると、梶川は内緒話をするかのように、彼女の耳に唇を寄せる。
「今日の十時、昨日と同じルームで待ってます」
「は?」
「じゃあ、先輩。お先に失礼しま~す」
「ちょっと待って! あっ……」
梶川は鈴に一方的に告げると、鈴の是非も聞かずにひらひらと手を振って背を向ける。
鈴はまだ行くとは言っていないと文句を言いたかったが、あっという間に梶川の姿は見えなくなってしまったのだった。
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