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マッチング(4)
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鈴は購入したばかりのVRマシンを電源に繋ぐ。説明書を見ながら起動して、ネットに繋いでから、ベッドに横になった状態でゴツゴツとしたヘッドギアを頭にかぶった。
アバターは初期設定ではリアルの自分と同じ容姿になるよう設定されている。説明書によると、そこから好きなように容姿を変えることができるようだ。けれども慣れない鈴にはアバターの設定が難しく、とりあえず簡単に目の色、髪の色、髪の長さを変えて雰囲気だけは変えることにした。顔立ちはほとんど現実の鈴のままであるが、街ですれ違っても鈴だとは分からないだろうという程度に雰囲気を変えてから、コータと待ち合わせをしたプライベートルームにアクセスをした。
プライベートルームというのは、VR上でチャットを行う部屋の総称で、ルームの設定は屋外から室内まで自由に変更できる。VRに慣れているらしいコータに設定は任せていたので、鈴は部屋にアクセスするだけだった。
プライベートルームのアドレスとパスワードを入れると、ブォンという電子音が鳴って鈴の視界が切り替わる。次に鈴が立っていたのは、高級ホテルのスイートルームような部屋だった。部屋の中央に大きなベッドがあって、隣には革張りのソファーとアンティーク調のローテーブルが置かれている。壁にはさりげなく絵画が飾られていて、全体的に高級感のある部屋だった。
そのソファーに座り、優雅にコーヒーカップを傾けている男がいた。
「こんにちは。来てくださったんですね、RINさん」
「コータさん?」
「はい。僕がコータです。よろしくお願いします」
鈴の姿を確認して、コータはカップを置いて笑顔を向けた。彼はアバターらしく、銀色の髪に緑の目と日本人らしからぬ容姿をしていた。どう見ても自然な配色ではないのに、本当の人間にしか見えないあたり、技術の高さに鈴は唸る。
もちろん、鈴とコータは初対面である。けれども彼が浮かべる人懐っこい笑みに、鈴はどこかでみたような既視感を覚えた。
「RINさん、座って下さい。あ、何か飲み物用意しますね」
「VRなのに飲めるんですか?」
「脳に特殊な刺激を送って、五感の再現ができるんですよ。食事だってできますが、栄養にならないしお腹にも溜まらないので、ちゃんと夕食は別に取って下さいね」
コータはそう言うと、環境設定を弄っているのか宙をとトントンと指で叩き始めた。すると、ヴゥンと電子音が鳴って、ローテーブルの上に新しいカップが現れる。
「ミルクティにしてみました。お好きですか?」
「ありがとう」
鈴は短くお礼を言って彼の隣に腰かけた。ソファーの座り心地はよく、心地よい弾力を返してくる。こういうところまで本当にリアルなのだと鈴は感心した。
鈴の好物はミルクティだった。会社での休憩時間には、いつも好んでミルクティばかりを飲んでいる。花の模様が美しいカップを持ち上げて口をつけると、程よい甘さで好みの味がした。ふんわりと香る茶葉の匂いも品が良い。
「美味しい」
「だと思いました」
「だと思った?」
「いえ、女性ってミルクティが好きな人、多いじゃないですか」
そうだろうか。偏見ではないかと鈴は首をかしげたが、あえて口を挟むものでもないと黙ってカップを傾けた。もしかしたら、過去につき合った女性がミルクティ好きだったのかもしれない。
「ずいぶん、慣れてるんですね」
「え、何がですか?」
「女性の扱いが上手いと思って」
嫌味のような言葉が口から零れてしまい、しまったと鈴は顔を顰める。こういう言い方をするから人から倦厭されるのだ。
アバターは初期設定ではリアルの自分と同じ容姿になるよう設定されている。説明書によると、そこから好きなように容姿を変えることができるようだ。けれども慣れない鈴にはアバターの設定が難しく、とりあえず簡単に目の色、髪の色、髪の長さを変えて雰囲気だけは変えることにした。顔立ちはほとんど現実の鈴のままであるが、街ですれ違っても鈴だとは分からないだろうという程度に雰囲気を変えてから、コータと待ち合わせをしたプライベートルームにアクセスをした。
プライベートルームというのは、VR上でチャットを行う部屋の総称で、ルームの設定は屋外から室内まで自由に変更できる。VRに慣れているらしいコータに設定は任せていたので、鈴は部屋にアクセスするだけだった。
プライベートルームのアドレスとパスワードを入れると、ブォンという電子音が鳴って鈴の視界が切り替わる。次に鈴が立っていたのは、高級ホテルのスイートルームような部屋だった。部屋の中央に大きなベッドがあって、隣には革張りのソファーとアンティーク調のローテーブルが置かれている。壁にはさりげなく絵画が飾られていて、全体的に高級感のある部屋だった。
そのソファーに座り、優雅にコーヒーカップを傾けている男がいた。
「こんにちは。来てくださったんですね、RINさん」
「コータさん?」
「はい。僕がコータです。よろしくお願いします」
鈴の姿を確認して、コータはカップを置いて笑顔を向けた。彼はアバターらしく、銀色の髪に緑の目と日本人らしからぬ容姿をしていた。どう見ても自然な配色ではないのに、本当の人間にしか見えないあたり、技術の高さに鈴は唸る。
もちろん、鈴とコータは初対面である。けれども彼が浮かべる人懐っこい笑みに、鈴はどこかでみたような既視感を覚えた。
「RINさん、座って下さい。あ、何か飲み物用意しますね」
「VRなのに飲めるんですか?」
「脳に特殊な刺激を送って、五感の再現ができるんですよ。食事だってできますが、栄養にならないしお腹にも溜まらないので、ちゃんと夕食は別に取って下さいね」
コータはそう言うと、環境設定を弄っているのか宙をとトントンと指で叩き始めた。すると、ヴゥンと電子音が鳴って、ローテーブルの上に新しいカップが現れる。
「ミルクティにしてみました。お好きですか?」
「ありがとう」
鈴は短くお礼を言って彼の隣に腰かけた。ソファーの座り心地はよく、心地よい弾力を返してくる。こういうところまで本当にリアルなのだと鈴は感心した。
鈴の好物はミルクティだった。会社での休憩時間には、いつも好んでミルクティばかりを飲んでいる。花の模様が美しいカップを持ち上げて口をつけると、程よい甘さで好みの味がした。ふんわりと香る茶葉の匂いも品が良い。
「美味しい」
「だと思いました」
「だと思った?」
「いえ、女性ってミルクティが好きな人、多いじゃないですか」
そうだろうか。偏見ではないかと鈴は首をかしげたが、あえて口を挟むものでもないと黙ってカップを傾けた。もしかしたら、過去につき合った女性がミルクティ好きだったのかもしれない。
「ずいぶん、慣れてるんですね」
「え、何がですか?」
「女性の扱いが上手いと思って」
嫌味のような言葉が口から零れてしまい、しまったと鈴は顔を顰める。こういう言い方をするから人から倦厭されるのだ。
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