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マッチング(2)
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本番に挑む前にVRでのマナーや基本操作を覚えておこうと、鈴が昼休みにVR機器についてのノウハウを検索していると、ふと背後に影が差す。
「あれ、御影先輩、VRマシン買ったんですか?」
「っ、梶川くん」
突然声をかけられて、鈴は喉の奥で悲鳴を飲み込んだ。
振り返ると、営業部の若手エース、後輩の梶川虎太郎が鈴のディスプレイを覗き込んでいた。とっつきやすい愛嬌のある目に、筋の通った形の良い鼻。容姿に恵まれた上に、それを鼻にかけず気さくであるともっぱらの評判で、まだ独身の女性社員たちがハイエナのように目をギラつかせて彼女の座を狙っている。
従来のコミュニケーション能力のなせるわざか、彼は鈴にまで雑談を持ちかけてくる奇特な人間であった。
「私がVRマシンを買うのはおかしい?」
つい刺々しく返事をしてしまって鈴は後悔する。けれども、梶川は鈴の物言いなど気にした様子もなく、にこりと人懐っこい笑みを浮かべた。
「いいえ、まさか。ちょっと意外だなぁって。御影先輩、ゲームとかするんですね」
なるほど、普通はVRマシンを買うのはゲームが主な目的なのかと鈴は目を瞬く。まさか、鈴がセックスをしたいがためにマシンを購入したなんて彼は気づかないだろう。目的を察されては困ると思い、鈴はなおさら表情を硬くした。
「私だって、ゲームをしたくなることくらい、あるわよ」
「そうですか。俺もVR持っているんですよ。RGクエストって知ってます?」
「聞いたことがないけど」
「VRでゲームするならオススメですよ。もし始めたら、フレンド登録してくださいね」
梶川はそれだけ言って気さくな感じに手をひらひらと降ると、鈴のデスクから離れていった。彼が自分の席に戻ったのを確認して、鈴はほっと息を吐く。まったく、部署も違うっていうのに、どうして彼はわざわざ鈴に声をかけてくるのか。彼と話したい人間など、他にもたくさんいるだろうに。
今度こそ背後に誰もいないことを確認して、鈴はプライベートで使用しているWEBメールにログインした。昨日書き込んだ、セフレ募集の返信が来ているかもしれないと思ったからだ。
鈴がメールチェックをすると、新着メールが二十件も届いていた。そのほとんどが昨夜の掲示板での募集への返信で、ざっと確認したところ大半がスパムのような内容だった。こういう募集には、オートで申込を送るプログラムを作っている人間がいるというのは本当らしい。ああいう掲示板では男性よりも女性の募集が少ないので、申し込みが殺到するのだ。
この中から選ぶのかと、鈴は小さくため息をついた。
あまりに似たような申し込みばかりで、どういう基準で相手を決めて良いか分からず、鈴はすこし困惑する。帰宅してからゆっくり考えようと鈴はブラウザを閉じた。
「あれ、御影先輩、VRマシン買ったんですか?」
「っ、梶川くん」
突然声をかけられて、鈴は喉の奥で悲鳴を飲み込んだ。
振り返ると、営業部の若手エース、後輩の梶川虎太郎が鈴のディスプレイを覗き込んでいた。とっつきやすい愛嬌のある目に、筋の通った形の良い鼻。容姿に恵まれた上に、それを鼻にかけず気さくであるともっぱらの評判で、まだ独身の女性社員たちがハイエナのように目をギラつかせて彼女の座を狙っている。
従来のコミュニケーション能力のなせるわざか、彼は鈴にまで雑談を持ちかけてくる奇特な人間であった。
「私がVRマシンを買うのはおかしい?」
つい刺々しく返事をしてしまって鈴は後悔する。けれども、梶川は鈴の物言いなど気にした様子もなく、にこりと人懐っこい笑みを浮かべた。
「いいえ、まさか。ちょっと意外だなぁって。御影先輩、ゲームとかするんですね」
なるほど、普通はVRマシンを買うのはゲームが主な目的なのかと鈴は目を瞬く。まさか、鈴がセックスをしたいがためにマシンを購入したなんて彼は気づかないだろう。目的を察されては困ると思い、鈴はなおさら表情を硬くした。
「私だって、ゲームをしたくなることくらい、あるわよ」
「そうですか。俺もVR持っているんですよ。RGクエストって知ってます?」
「聞いたことがないけど」
「VRでゲームするならオススメですよ。もし始めたら、フレンド登録してくださいね」
梶川はそれだけ言って気さくな感じに手をひらひらと降ると、鈴のデスクから離れていった。彼が自分の席に戻ったのを確認して、鈴はほっと息を吐く。まったく、部署も違うっていうのに、どうして彼はわざわざ鈴に声をかけてくるのか。彼と話したい人間など、他にもたくさんいるだろうに。
今度こそ背後に誰もいないことを確認して、鈴はプライベートで使用しているWEBメールにログインした。昨日書き込んだ、セフレ募集の返信が来ているかもしれないと思ったからだ。
鈴がメールチェックをすると、新着メールが二十件も届いていた。そのほとんどが昨夜の掲示板での募集への返信で、ざっと確認したところ大半がスパムのような内容だった。こういう募集には、オートで申込を送るプログラムを作っている人間がいるというのは本当らしい。ああいう掲示板では男性よりも女性の募集が少ないので、申し込みが殺到するのだ。
この中から選ぶのかと、鈴は小さくため息をついた。
あまりに似たような申し込みばかりで、どういう基準で相手を決めて良いか分からず、鈴はすこし困惑する。帰宅してからゆっくり考えようと鈴はブラウザを閉じた。
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