薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
上 下
173 / 198
第3部.リムウル 第4章

16.意に染まぬ初夜

しおりを挟む
「ギメリック!」

いつものようにギメリックが一人、小屋に帰ろうとしているところを、カーラは呼び止めた。

どう言い聞かされているのか、そばにはアイリーンも控えている。

ニッコリ笑って、カーラは言った。

「今夜から彼女をよろしくね」

「え? もう……いや、その……」

ギメリックは少々うろたえ気味に、カーラの満面の笑顔と、アイリーンの何も考えていなさげな無防備な顔を見比べた。

「約束だったでしょ?」

「どうしても、ダメか……?」

「ええ、もちろんよ」

カーラの笑顔に送り出され、二人は夜道を帰って行った。


見送るカーラの後ろから、ゲイルが声をかける。

「なんか、ギメリック様……あんまり嬉しそうに見えないなぁ。オレの気のせいか?」

カーラは困惑した表情でチラリと振り向いた。

そしてすぐにまた向き直って、腕組みしながら、どこかぎこちない二人の後ろ姿を見守る。

「う~ん……なぜかしら? ただ照れてるだけ、とも思えないのよね……」





「あっ……ギメリック、」

黙って後ろを歩いていたアイリーンが突然、腕に触れてきたので、ギメリックはギョッとした。

「ね、ほらほら、見て!……星が映ってる……」

ギメリックの密かな動揺には気づかぬ様子で、アイリーンは夢中になって彼の腕をひっぱり、もう一方の手で道の脇を指差した。

ちょうど、泉のそばを通りかかったところだった。

見ると、なるほど確かに、暗い水面のところどころに、星の輝きが見える。

「……キレイね……」

アイリーンは美しく神秘的なその光景に魅せられて、ギメリックの腕を掴んだまま、息を詰めて見入っている。


旅の間、手櫛ですいて整えていただけだった金の髪は、カーラの手によるものだろう、以前のようにきれいにブラシがかけられ、一層つやつやとして星明かりの下でも明るく輝いていた。

両耳の上で一本ずつ編まれた細い三つ編みが、後ろで一つにまとめられている。

そのため、白い貝殻のような耳とやわらかそうな耳たぶが目を引いた。

「ああ」

ギメリックは無感動な声を返し、また先に立って歩き出した。

取り残された格好のアイリーンが少し鼻白むのを感じながら、ギメリックは軽くため息を吐く。


イルベリウスが襲ってきたあの日……ポルとともに村へ帰ってみると、アイリーンはカーラの家にいた。

カーラはギメリックに、アイリーンに月のモノが訪れたため、彼女を自分の家で預かると申し出たのだ。

ただし終わったら、ギメリックの元に彼女を返すという条件で……。

ギメリックはできればずっと預かって欲しいと頼んだのだが、断られてしまった。


村人たちが何を期待しているのかは、わかっている。

彼らは、ギメリックがアイリーンと結ばれることによって再び石の主となり、エンドルーアの王となることを望んでいるのだろう。

その気持ちは、わからないでもない。

何と言ってもアイリーンは彼らにとって他国の王女であり、しかも見るからに頼りなげな彼女に、戦いを強いることが忍びないのだ。

ギメリックとて彼女を戦わせるより自らの手で自分の罪をつぐないたい、つぐなうべきだとも思う。

しかし……それは、ヴァイオレットの意志に背くことだ。

彼女がギメリックに何の手がかりも残さずアイリーンに石を託したことが、それを物語っている。

その認識は、いまだに彼の心に鈍い痛みをもたらした。



無言で先を行くギメリックの背中を眺めて、アイリーンはしかめ面をしていた。

ギメリックは以前に比べ、アイリーンやポルやカーラには、随分と和らいだ表情を見せるようになった。

常に彼の雰囲気を支配していた、張りつめ過ぎた糸が今にも切れてしまいそうな緊張感や危うさといったものは、感じられなくなった。

しかし素っ気ない態度や極端に口数が少ないのは相変わらずで、特にポルとカーラ以外の村人たちが同席している場合にはそれが顕著だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...