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第3部.リムウル 第4章
14.ポルとギメリック
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「……あんたは、自分一人で村を守ってきたつもりかも、知れないけどな……」
まるで孤高のドラゴンのように……またもやたった一人で敵に立ち向かっていこうとするギメリックを、ポルは何としても村へと連れ帰るのが自分の使命だと感じていた。
「けどおれたちだって、自分たちの手でせいいっぱい、村を守ってここまでやってきたんだ!!
おれたちみんなの村だ、だから全員で守る、それが当たり前だろ?!
あんた一人で何でも決めていいと思うな!!
いい加減、スタンドプレーはやめろよ!!」
“もう、一人で戦わせる訳には、いかないじゃないか……
アイリーンもねぇちゃんも、村のみんなだって……あんたを心配してるのに……”
ギメリックはしばらく、黙ってポルを見つめていた。
何だろう……この感覚は。
アイリーンから与えられた暖かく安らいだ気持ちを、なぜこの少年からも感じることができるのか……。
自分は彼らに受け入れられないと思っていた、だが受け入れていなかったのは自分の方だったのかも知れない……。
無言で踵を返し、馬に乗り込んだギメリックを見て、ポルはあわてて立ち上がった。
馬の前に立ちふさがって叫ぶ。
「まだわかんないのかよっ?!……っと、わっ?! わわっっ!!」
ポルの体が宙に浮いた。
「ちくしょーっ降ろせっ!!」
“こ、こいつ……まさか、おれを魔力でどっかに縛り付けて、行っちまうつもりじゃ……
ジョ、ジョーダンじゃないぞっ”
ポルの額に冷や汗が流れる。
ジタバタしてもどうしようもなく、馬に乗ったギメリックと同じぐらいの高さになってしまった。
「帰るぞ」
「……へっ?」
一瞬、言葉の意味が掴めず、ポルは動きを止めて間近になったギメリックの瞳を見返した。
「お前の言う通りだ。それに、危うくまたあいつに泣かれるところだった……礼を言う」
ギメリックは穏やかに微笑んでいた。
恐ろしいはずのトパーズの瞳に、暖かく優しげな光が浮かぶ。
今までのどこか投げやりで刺々しかった彼とは別人のようで……なぜかポルは頬が火照るのを感じた。
“な……なんでおれが照れなくちゃなんないんだよ!”
ポルはギメリックから目をそらし、宙にぶら下がった格好のまま、不機嫌そうに顔をしかめて見せた。
「……い、言っとくけどお前のためじゃないぞ!
おれだってアイリーンが泣くのは……って、オイ!! 聞けよっ!!」
自分の体が向きを変えるのを感じ、ポルは焦った。
宙に浮いたまま彼の馬の方に進んでいき、そして前と後ろを逆向きにして馬の背に乗っかった。
馬は少し驚いて、ポルを後ろ前に乗せたままトコトコと歩き出す。
「わっ……コラ待て……っっ」
慌てて馬の背にしがみつく自分を見て笑いながら、先に立って馬を走らせて行くギメリックに向かって、ポルは叫んだ。
「テメーコノヤロッ!! 覚えてろよチクショー!!
やっぱりお前なんか……お前なんか、嫌いだーっ!!」
“イルベリウスが帰ってこない……”
“やられたな”
“場所は?”
“中部平原の中程……リムウルのラザールに近い”
異形の者たちが集う部屋に、心話が飛び交う。
「で、どっちにやられた? 石の主か……ギメリックか?」
シン、と冷えた空気に、さらに冷たい声が問いかける。
「肝心なところで役に立たぬ……誰か正確な位置がわかる者は?」
“近くまで行けば必ずわかりましょう。我ら皆、それぐらいの魔力は持っております”
「ふん……よし。石の主はフェリシアの娘、まだ力に慣れておらぬはず。早いうちに手を打つのだ。
ギメリックの他は魔力保持者と言ってもみな庶民、取るに足りない烏合の衆……
小隊を送り込んで一気にたたき潰す。レオン、指揮をとれ」
“はっ……”
「ヴァルサーを残し、後の者は皆、行くのだ。
ギメリックを殺せ!! 必ず!!」
まるで孤高のドラゴンのように……またもやたった一人で敵に立ち向かっていこうとするギメリックを、ポルは何としても村へと連れ帰るのが自分の使命だと感じていた。
「けどおれたちだって、自分たちの手でせいいっぱい、村を守ってここまでやってきたんだ!!
おれたちみんなの村だ、だから全員で守る、それが当たり前だろ?!
あんた一人で何でも決めていいと思うな!!
いい加減、スタンドプレーはやめろよ!!」
“もう、一人で戦わせる訳には、いかないじゃないか……
アイリーンもねぇちゃんも、村のみんなだって……あんたを心配してるのに……”
ギメリックはしばらく、黙ってポルを見つめていた。
何だろう……この感覚は。
アイリーンから与えられた暖かく安らいだ気持ちを、なぜこの少年からも感じることができるのか……。
自分は彼らに受け入れられないと思っていた、だが受け入れていなかったのは自分の方だったのかも知れない……。
無言で踵を返し、馬に乗り込んだギメリックを見て、ポルはあわてて立ち上がった。
馬の前に立ちふさがって叫ぶ。
「まだわかんないのかよっ?!……っと、わっ?! わわっっ!!」
ポルの体が宙に浮いた。
「ちくしょーっ降ろせっ!!」
“こ、こいつ……まさか、おれを魔力でどっかに縛り付けて、行っちまうつもりじゃ……
ジョ、ジョーダンじゃないぞっ”
ポルの額に冷や汗が流れる。
ジタバタしてもどうしようもなく、馬に乗ったギメリックと同じぐらいの高さになってしまった。
「帰るぞ」
「……へっ?」
一瞬、言葉の意味が掴めず、ポルは動きを止めて間近になったギメリックの瞳を見返した。
「お前の言う通りだ。それに、危うくまたあいつに泣かれるところだった……礼を言う」
ギメリックは穏やかに微笑んでいた。
恐ろしいはずのトパーズの瞳に、暖かく優しげな光が浮かぶ。
今までのどこか投げやりで刺々しかった彼とは別人のようで……なぜかポルは頬が火照るのを感じた。
“な……なんでおれが照れなくちゃなんないんだよ!”
ポルはギメリックから目をそらし、宙にぶら下がった格好のまま、不機嫌そうに顔をしかめて見せた。
「……い、言っとくけどお前のためじゃないぞ!
おれだってアイリーンが泣くのは……って、オイ!! 聞けよっ!!」
自分の体が向きを変えるのを感じ、ポルは焦った。
宙に浮いたまま彼の馬の方に進んでいき、そして前と後ろを逆向きにして馬の背に乗っかった。
馬は少し驚いて、ポルを後ろ前に乗せたままトコトコと歩き出す。
「わっ……コラ待て……っっ」
慌てて馬の背にしがみつく自分を見て笑いながら、先に立って馬を走らせて行くギメリックに向かって、ポルは叫んだ。
「テメーコノヤロッ!! 覚えてろよチクショー!!
やっぱりお前なんか……お前なんか、嫌いだーっ!!」
“イルベリウスが帰ってこない……”
“やられたな”
“場所は?”
“中部平原の中程……リムウルのラザールに近い”
異形の者たちが集う部屋に、心話が飛び交う。
「で、どっちにやられた? 石の主か……ギメリックか?」
シン、と冷えた空気に、さらに冷たい声が問いかける。
「肝心なところで役に立たぬ……誰か正確な位置がわかる者は?」
“近くまで行けば必ずわかりましょう。我ら皆、それぐらいの魔力は持っております”
「ふん……よし。石の主はフェリシアの娘、まだ力に慣れておらぬはず。早いうちに手を打つのだ。
ギメリックの他は魔力保持者と言ってもみな庶民、取るに足りない烏合の衆……
小隊を送り込んで一気にたたき潰す。レオン、指揮をとれ」
“はっ……”
「ヴァルサーを残し、後の者は皆、行くのだ。
ギメリックを殺せ!! 必ず!!」
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