薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
上 下
168 / 198
第3部.リムウル 第4章

11.能力者

しおりを挟む
村の結界を出てから、もうかなりの時間になる。

少々不安を感じながらも、ポルは自分の力を信じ、馬を進めていった。

さすがにギメリックのシールドはしっかりしていて、彼の魔力の気配は感じられない。

しかし敵の気配は間違えようもなく、絶えず行く手からポルを導いた。

敵には気配を消す必要など、ないからだろう。もう、そう遠くはないはずだ。

「ちっくしょー、そろそろ追いついてもいいはずなんだがな……」

天高く登った太陽の光に焼かれ、額ににじんだ汗を拭きながらポルはつぶやいた。


最初は、空を飛んで逃げる敵に対し、馬で追いつけるのかといぶかしんだポルだった。

しかし追っていくうち、森のところどころに激しい戦いの跡があるのを見て、彼は納得した。

ギメリックほどの力の持ち主なら、魔力による攻撃で敵の逃亡をある程度、阻害できるに違いない。


ギメリックは幼少の頃から、歴代エンドルーアの王族の中でも突出した魔力の持ち主と言われていたのだと、姉から聞かされている。

庶民である自分にとってどれほど恐ろしい相手でも、一対一の戦いなら所詮、彼の敵ではないのかも知れない。

“ちぇっ……でもそれにしちゃ、随分と手間取ってるんじゃないか……?”


そう思ったとき、辺りの木々がなぎ倒されてまるで空き地のようになっている場所に出た。

新たな戦いの跡だった。いくつか大きな血痕があることに気付き、ポルはギョッとした。

“どっちが怪我したんだろう……それとも両方……?!”

密集した木々の間を縫って、それでもできるだけ早く馬を駆けさせてきたが、ポルはさらに馬を急かして前へ進んでいった。


ほどなく行く手に強い魔力戦の気配を感じ、何かが激しくぶつかり合う音も聞こえてきた。

そして木々の間から、ギメリックと対峙している一人の男が見えた。


が、果たして“それ”を人と呼べるのかどうか……。

がっしりとした巨大な体は一面に灰色の毛で覆われ、片方の腕はまだ黒い翼のまま広げられている。

もう片方の手は恐ろしく発達した筋肉のついた腕の先で、鋭く巨大な爪を生やしていた。

ものすごい勢いで振り下ろされて来るその爪を、ギメリックは剣で払いながら後ろに飛び退って避けている。

その度に、まるで鉄で出来ているかのような音をたて、爪は激しく火花を散らした。


戦いは、もはや呪文を使っての魔力戦などというまだるっこしいものではなく、息もつけないほどのスピードで展開される激しい肉弾戦となっていた。

それでも時折、強い魔力の気配が起こるのは、どちらかがその合間を縫って魔力を使って相手を攻撃しているのだろう。


ポルにはその全容を知ることすら出来ない、桁違いの能力者同士の戦いだった。

“ヤバいな……これ以上、近づいたら……”

ポルの全身に鳥肌が立つ。

彼らの放つ強烈な攻撃の魔力の波動に当てられ、気分が悪い。

敵に自分の存在を悟られて、万が一攻撃されればギメリックの足手まといになると考え、ポルはギリギリの距離を保って彼らの戦いを見守った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

処理中です...