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第3部.リムウル 第4章
5.苦渋
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ギメリックの声に含まれる何かが、アイリーンの顔を上げさせた。
トパーズの瞳の中に苦渋の表情を読み取り、アイリーンは眉をひそめる。
「……なぜ、そのことにまであなたが負い目を感じなくちゃいけないの?」
心の中を見透かされ、ギメリックは重く息を吐いた。
まっすぐに見上げてくるアイリーンの瞳から目をそらし、胸に支える塊を吐き出すように言う。
「……助けてやれる、はずだった。
最初に気付いたのは俺で、知らせを受けてヴァイオレットも俺の父も、どうにかしようと考えていた矢先だったんだ。
あんなことさえなければ、お前のティレルはあれほどまでに狂うこともなく、侵略軍を指揮するようなことにもならなかったはず……っ!!」
いきなりアイリーンがギメリックの耳をぎゅっと引っ張り、自分の方に彼の顔を向けさせたので、ギメリックは驚いて彼女を見下ろした。
まだまつげの先に涙の粒を光らせながら、しかし彼女の瞳は怒っていた。
「ねぇ、ギメリック、何もかも自分のせいだと思うのは、やめましょうよ。
あなた言ったじゃない、済んでしまったことを言っても始まらない、って。
もちろん、そんな言葉一つで全てが許されるわけじゃない、それはわかる。
でも、あなたはもう充分すぎるほど苦しんできたわ。
きっとエンドルーアの人たちもわかってくれると思うの……」
ギメリックは無言でまた顔を背けた。
そして彼女を押しやり、腰掛けていたベッドから立って戸口へ向かう。
「ギメリック……?」
ドアの前で振り返り、彼は言った。
「お前には出来ないだろう、たとえ石の魔力を自由に使いこなせるようになっても……。
だから、俺がやつを殺してやる。お前は狂王を倒すことに全力を傾けろ」
背をむけ、ドアを開けて出て行こうとするギメリックを見てアイリーンは慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って! まさか今から彼を殺しに行くって言うんじゃ……」
肩越しに彼がまた振り返る。
「バカか。そばにいると言っただろう。
……外に寝にいくだけだ。お前ももう少し横になって、朝まで休め」
さっさと扉を閉めて出て行ってしまった彼を追いかけようとして、アイリーンはバッタリその場に倒れてしまった。体に力が入らず、動けない。
しかし心の中には、わき上がってきた怒りのエネルギーが充満していた。
「……ギメリックの……」
“バカ~~~~ッッ!!!”
思いっきり心話で叫んだので、またも激しい頭痛が襲ってくる。
しかしアイリーンはかまわず叫び続けた。
“なんでそんな憎まれ口を言うのよ?!
フレイヤの涙なしでティレルを殺せるなら、あなたはとっくにそうしていたはずよ!
それができないから石を捜していたのでしょう?!”
クレイヴは幼い頃からのギメリックの性格を熟知していて、魔力戦となれば必ず彼の心の中にある罪の意識を責め立て、死の安息へと誘いをかける……。
そしてティレルは、かつて彼を弟のようにかわいがっていたギメリックの優しさにつけ込み、弱者の顔をして隙をうかがう……。
自身の中に、どうしようもない虚無の暗黒があることを自覚していたギメリックには、精神戦で彼らに勝つ自信がなかったのだ。
しかし、エンドルーアやソルグの村の人々ために、負ける訳にはいかない戦いだった。
そのために彼は、何年もフレイヤの涙を探してさまようことになったのだ。
アイリーンは床の上で体を丸め、キリキリと頭を締め付ける痛みに耐えてさらに心話を送った。
“私が戦うわ! そしてティレルを殺さなくても薄明宮を取り返せるように、うんと魔力をつけて強くなる!! だから……”
「もういい、やめろ!!」
ギメリックの腕に抱き上げられても、アイリーンはあまりにもつらくて目を開けることすらできない。
しかしその唇から、小さく声が漏れた。
「もう、苦しまないで……」
トパーズの瞳の中に苦渋の表情を読み取り、アイリーンは眉をひそめる。
「……なぜ、そのことにまであなたが負い目を感じなくちゃいけないの?」
心の中を見透かされ、ギメリックは重く息を吐いた。
まっすぐに見上げてくるアイリーンの瞳から目をそらし、胸に支える塊を吐き出すように言う。
「……助けてやれる、はずだった。
最初に気付いたのは俺で、知らせを受けてヴァイオレットも俺の父も、どうにかしようと考えていた矢先だったんだ。
あんなことさえなければ、お前のティレルはあれほどまでに狂うこともなく、侵略軍を指揮するようなことにもならなかったはず……っ!!」
いきなりアイリーンがギメリックの耳をぎゅっと引っ張り、自分の方に彼の顔を向けさせたので、ギメリックは驚いて彼女を見下ろした。
まだまつげの先に涙の粒を光らせながら、しかし彼女の瞳は怒っていた。
「ねぇ、ギメリック、何もかも自分のせいだと思うのは、やめましょうよ。
あなた言ったじゃない、済んでしまったことを言っても始まらない、って。
もちろん、そんな言葉一つで全てが許されるわけじゃない、それはわかる。
でも、あなたはもう充分すぎるほど苦しんできたわ。
きっとエンドルーアの人たちもわかってくれると思うの……」
ギメリックは無言でまた顔を背けた。
そして彼女を押しやり、腰掛けていたベッドから立って戸口へ向かう。
「ギメリック……?」
ドアの前で振り返り、彼は言った。
「お前には出来ないだろう、たとえ石の魔力を自由に使いこなせるようになっても……。
だから、俺がやつを殺してやる。お前は狂王を倒すことに全力を傾けろ」
背をむけ、ドアを開けて出て行こうとするギメリックを見てアイリーンは慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って! まさか今から彼を殺しに行くって言うんじゃ……」
肩越しに彼がまた振り返る。
「バカか。そばにいると言っただろう。
……外に寝にいくだけだ。お前ももう少し横になって、朝まで休め」
さっさと扉を閉めて出て行ってしまった彼を追いかけようとして、アイリーンはバッタリその場に倒れてしまった。体に力が入らず、動けない。
しかし心の中には、わき上がってきた怒りのエネルギーが充満していた。
「……ギメリックの……」
“バカ~~~~ッッ!!!”
思いっきり心話で叫んだので、またも激しい頭痛が襲ってくる。
しかしアイリーンはかまわず叫び続けた。
“なんでそんな憎まれ口を言うのよ?!
フレイヤの涙なしでティレルを殺せるなら、あなたはとっくにそうしていたはずよ!
それができないから石を捜していたのでしょう?!”
クレイヴは幼い頃からのギメリックの性格を熟知していて、魔力戦となれば必ず彼の心の中にある罪の意識を責め立て、死の安息へと誘いをかける……。
そしてティレルは、かつて彼を弟のようにかわいがっていたギメリックの優しさにつけ込み、弱者の顔をして隙をうかがう……。
自身の中に、どうしようもない虚無の暗黒があることを自覚していたギメリックには、精神戦で彼らに勝つ自信がなかったのだ。
しかし、エンドルーアやソルグの村の人々ために、負ける訳にはいかない戦いだった。
そのために彼は、何年もフレイヤの涙を探してさまようことになったのだ。
アイリーンは床の上で体を丸め、キリキリと頭を締め付ける痛みに耐えてさらに心話を送った。
“私が戦うわ! そしてティレルを殺さなくても薄明宮を取り返せるように、うんと魔力をつけて強くなる!! だから……”
「もういい、やめろ!!」
ギメリックの腕に抱き上げられても、アイリーンはあまりにもつらくて目を開けることすらできない。
しかしその唇から、小さく声が漏れた。
「もう、苦しまないで……」
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