薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第4章

1.始まりの日

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気がつくと、目の前にギメリックの寝顔があった。

“わっ……!! ああぁっ?! な、何?!……?!”

びっくりして声を上げそうになるのをかろうじて抑え、アイリーンは息を整えた。


彼が思いとどまってくれたことに安心して……どうやら、彼に抱きしめられたまま、眠ってしまったらしい。

そして彼もそのまま寝てしまったのだろう。

時間の感覚がすっかりおかしくなっていたが、窓から差し込む光の様子から、もう夕方になっていると知れた。


“ど、どうしよう……”

離れたくても、彼の腕がしっかり自分の身体に巻き付いていて、身動きすると彼が起きてしまいそうだ。

この状況でそんなことになったらと思うだけで恥ずかしくて、パニックの度合いが段々ひどくなる。

彼女の魔力の気配を隠すため、旅をする間に、何度も経験したはずの状況だった、とはアイリーンはまるで気付いていない。

一人、焦り続けているところに……。


トントン。

扉にノックの音がして、アイリーンは危うく叫んでしまうところだった。

“きゃ~~~~!! だっ、誰っ?! どうしよう……!!”

とにかく何とかしなければ……と、思い切ってギメリックの腕をそっとほどき、ベッドから滑り降りる。

幸い彼は目を覚まさなかった。


アイリーンがドアを開けようとした時、

“……ギメリック、……いるの?”

と、ためらいがちな心話が呼びかけてきた。


扉を開けると、美しい黒髪の、若い女性が立っていた。

アイリーンを見ると彼女は腰を落として敬意を表す礼をしながら言った。

「ソルグの村へようこそ。アイリーン様」


アイリーンはとまどい、尋ねた。

「あなたは……?」

すると彼女は優しく微笑み、

「カーラと申します。お体の具合はいかがですか?」と答えた。

そこでアイリーンは彼女が自分の世話をしてくれたのだと気付く。


「ありがとう……助けていただいたのね」

「いいえ、あなたを救ったのはギメリックです。……彼は今どこに?」


とたんに、ボッと火がついたように顔が熱を持ち、アイリーンはうつむいた。

戸口から一歩身を引き、彼の方を見ないようにして指差す。


「あ、あそこで、……寝てるわ」

「あら、……まぁ……」


カーラは心底驚いたという顔をして、しばらく彼を見つめていた。


「……無理もないわ。

 彼、あなたが眠り続けてた間、たぶん一睡もしてなかったから……

 ここまで来る途中で、何度も戦って魔力も体力も限界だったと思うのに」


アイリーンは血の気も一気に引いて行く思いで、カーラの顔を見た。

カーラはアイリーンに向かってニッコリ微笑んでみせ、言った。


「でも良かった。

 彼、ここに留まる気になったのね。

 だから気が緩んだんでしょ。

 ……あなたならきっと、彼を引き止めてくれると思っていました」
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