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第3部.リムウル 第3章
30.懇願~この生が終わるまで
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「いや……!!……行かないで!」
腰に吊るしてあった剣がスルリと抜けたのを感じ、ギメリックはハッと振り向いた。
魔力で引き寄せたその剣を、自分の喉に向けて構えるアイリーンを見て、驚愕の目を見張る。
「私が死ねばいいのよ! そしたら、あなたが石の主になれる!」
金属に触れる痛みで目がくらみそうになりながらも、アイリーンは叫んだ。
「何を……バカな!!」
声と共に強い魔力が襲ってきて、彼女の手から剣を奪った。
そうさせまいとする彼女の魔力は少し及ばず、剣は二人の間に落ちて床に突き刺さった。
「こ、の……バカやろう!! いったい、どういうつもりだ?」
剣を拾おうと近寄りながら、ギメリックはきつく彼女を睨みつけて怒鳴った。
普段のアイリーンなら、すくみ上がってしまうような剣幕だったが、彼女はひるまなかった。
「バカはどっちよ?! 生きる目的がない……それが何なの? 周りを見てよ! 鳥や動物たちは、何のために生きてるの? 生まれたからただ生きてる、それだけよ! それでいいじゃない!」
そこまで叫ぶと半身を起こしていることさえ辛くなり、彼女はベッドの上に手をついて体を支え、肩で息をした。
もう、ダメだ……これ以上、自分には何もできない。
無力感に襲われ、涙があふれる。
ポトポトと自分の手の上に落ちる涙を見つめ、彼女は言った。
もはや彼女には懇願することしか、できなかった。
「……死なないで!……あ、あなたが私を許せないと言うなら諦めるわ、でも……
私はあなたに、そばにいて欲しい……それがだめなら、せめてどこかで、生きていて欲しいの!
お願いよ……死に急ぐのはもうやめて……」
ようやくギメリックにも、彼女が泣いているのは自分を想ってのことなのだという理解が訪れた。
彼女はいつも、自分のことより人のことを気にかけていた。
曲がりなりにも自分を救った男が死の暗闇に引き寄せられて行くのを、黙って見ていられないのだろう。
それにしても……自分の命を投げ出してまで石の力を返そうとするとは……。
彼女がそこまで想ってくれていることに驚きと喜びを感じている自分を、ギメリックは嘲笑していいのか、哀れんでいいのか、わからなかった。
しかしそうまでして自分を引き止めようとする彼女を、もう残しては行けないという気がした。
ギメリックがゆっくりと彼女のそばに歩み寄る。
その気配に、アイリーンは涙に濡れた顔を上げ、不安そうにじっと彼の顔を見つめた。
「許す……? お前が許しを請う必要など、どこにもない……」
何度も自分に言い聞かせたように、彼女を選んだのはヴァイオレットであり、石自体なのだ。
苦しそうに喘ぎ、震えている彼女をベッドに横たえようとして、ギメリックはそっと彼女の肩に手を置いた。
するとアイリーンは彼の胸にしがみつき、泣きながら言った。
「ギメリック……!! 長い輪廻をめぐる魂の遍歴を考えれば、今のこの生などほんの一時よ。
だけどこの生は一度きりのものなの。
何度生まれ変わっても、私が今の私として生きるのは、ただ一度だけ。
そしてあなたが今のあなたとして生きるのも……。
だから私たちがこうして出会うのも、これが最初で最後なのよ。
お願い、私のそばにいて!
せめてこの生が終わるまで、私をあなたのそばにいさせて……」
いったい、彼女が何を言っているのか、全てを理解することはできなかった。
けれど彼女が激しく自分を求め、同じ時を過ごしたいと願っていることだけはわかる。
目もくらむような幸福感に打たれ、麻痺したように頭の中が白くなった。
……何も考えられない。そう、今は……今だけは……先のことなど何も……考えるまい。
ギメリックは目を閉じて彼女を強く抱きしめ、つぶやいた。
「……わかった。お前がそう望むのなら……ずっとそばにいる。だから、もう泣くな……」
腰に吊るしてあった剣がスルリと抜けたのを感じ、ギメリックはハッと振り向いた。
魔力で引き寄せたその剣を、自分の喉に向けて構えるアイリーンを見て、驚愕の目を見張る。
「私が死ねばいいのよ! そしたら、あなたが石の主になれる!」
金属に触れる痛みで目がくらみそうになりながらも、アイリーンは叫んだ。
「何を……バカな!!」
声と共に強い魔力が襲ってきて、彼女の手から剣を奪った。
そうさせまいとする彼女の魔力は少し及ばず、剣は二人の間に落ちて床に突き刺さった。
「こ、の……バカやろう!! いったい、どういうつもりだ?」
剣を拾おうと近寄りながら、ギメリックはきつく彼女を睨みつけて怒鳴った。
普段のアイリーンなら、すくみ上がってしまうような剣幕だったが、彼女はひるまなかった。
「バカはどっちよ?! 生きる目的がない……それが何なの? 周りを見てよ! 鳥や動物たちは、何のために生きてるの? 生まれたからただ生きてる、それだけよ! それでいいじゃない!」
そこまで叫ぶと半身を起こしていることさえ辛くなり、彼女はベッドの上に手をついて体を支え、肩で息をした。
もう、ダメだ……これ以上、自分には何もできない。
無力感に襲われ、涙があふれる。
ポトポトと自分の手の上に落ちる涙を見つめ、彼女は言った。
もはや彼女には懇願することしか、できなかった。
「……死なないで!……あ、あなたが私を許せないと言うなら諦めるわ、でも……
私はあなたに、そばにいて欲しい……それがだめなら、せめてどこかで、生きていて欲しいの!
お願いよ……死に急ぐのはもうやめて……」
ようやくギメリックにも、彼女が泣いているのは自分を想ってのことなのだという理解が訪れた。
彼女はいつも、自分のことより人のことを気にかけていた。
曲がりなりにも自分を救った男が死の暗闇に引き寄せられて行くのを、黙って見ていられないのだろう。
それにしても……自分の命を投げ出してまで石の力を返そうとするとは……。
彼女がそこまで想ってくれていることに驚きと喜びを感じている自分を、ギメリックは嘲笑していいのか、哀れんでいいのか、わからなかった。
しかしそうまでして自分を引き止めようとする彼女を、もう残しては行けないという気がした。
ギメリックがゆっくりと彼女のそばに歩み寄る。
その気配に、アイリーンは涙に濡れた顔を上げ、不安そうにじっと彼の顔を見つめた。
「許す……? お前が許しを請う必要など、どこにもない……」
何度も自分に言い聞かせたように、彼女を選んだのはヴァイオレットであり、石自体なのだ。
苦しそうに喘ぎ、震えている彼女をベッドに横たえようとして、ギメリックはそっと彼女の肩に手を置いた。
するとアイリーンは彼の胸にしがみつき、泣きながら言った。
「ギメリック……!! 長い輪廻をめぐる魂の遍歴を考えれば、今のこの生などほんの一時よ。
だけどこの生は一度きりのものなの。
何度生まれ変わっても、私が今の私として生きるのは、ただ一度だけ。
そしてあなたが今のあなたとして生きるのも……。
だから私たちがこうして出会うのも、これが最初で最後なのよ。
お願い、私のそばにいて!
せめてこの生が終わるまで、私をあなたのそばにいさせて……」
いったい、彼女が何を言っているのか、全てを理解することはできなかった。
けれど彼女が激しく自分を求め、同じ時を過ごしたいと願っていることだけはわかる。
目もくらむような幸福感に打たれ、麻痺したように頭の中が白くなった。
……何も考えられない。そう、今は……今だけは……先のことなど何も……考えるまい。
ギメリックは目を閉じて彼女を強く抱きしめ、つぶやいた。
「……わかった。お前がそう望むのなら……ずっとそばにいる。だから、もう泣くな……」
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