薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
上 下
154 / 198
第3部.リムウル 第3章

27.暴走

しおりを挟む
「魔力の暴走か……どうしたんだ、いったい? よく眠っていたと思ったのに」

見慣れたトパーズの瞳が、すぐ近くで気遣わしげに自分を見下ろしている。

アイリーンにはそれが、この世にまたとない、尊く美しい奇跡の宝石と思えた。

こみ上げてくる涙を押さえ込むように、アイリーンはまたギュッときつく目を閉じ、ギメリックにしがみついた。

「……あなたがどこかへ行ってしまったかと思って……」

「……」

どうしてこうも余計な時に察しが良いのかとあきれながら、ギメリックは無言で彼女を運び、元通りベッドに寝かせた。

毛布をかけてくれた彼の手をとって、アイリーンは自分の頬に押し当てた。

その温かさに目を閉じて安堵の息を漏らし、小さな声でつぶやく。

「……良かった……生きてる……」

「……バカだな。危なかったのはお前の方だ」

“ウソ!……死のうとしていたくせに!”

アイリーンはそう思ったが、口に出すのがためらわれた。

“いったい、何をどう言えば、この人の心の闇を払ってあげられるのだろう……”


石の力で過去を旅してきたとは言え、訪れた場面はとぎれとぎれで、それらをつなぎ合わせてよくよく考えてみることもできていない。

理解よりも混乱の方が大きく、アイリーンの中で全ての謎が解けたわけでもなかった。

それでも、ギメリックについて、今はかなりのことを知っている。

そのあまりにも悲運に満ちた人生に、自分の方が圧倒され、言うべき言葉が見つからないのだった。


不安そうに見つめてくるアイリーンに、ギメリックはゆっくりと、噛んで含めるように言って聞かせた。

「ここはソルグの村と言って、魔力保持者たちが住む村だ。大きな結界で守られている、何も心配はない。お前のことも頼んでおいた」

「……どこへも行かないで。私のそばにいてくれる?」

一瞬、うろたえた様子のギメリックに、アイリーンはますます不安そうな表情になり、彼の手を握る指に力をこめた。


そんな彼女を見下ろし、ギメリックは考えた。

彼女が不安に思うのは……当然かも知れない。

同じ魔力を持つ者同士と言っても、村人たちのほとんどは一面識もない他国の民だ。

アドニア城の中ですら、ろくに人との関わりがなかった彼女にとって、ひとりぼっちで他人の中に置いていかれるのはどんなに心細いことだろう……。

それに、村人たちのあの様子では、彼女を石の主と納得したかどうか疑わしい。

よもや村から追い出すようなまねはしないだろうが、彼らが本心から彼女を受け入れたと思えるまで、安心できない。


やがて彼は、諦めたようにため息をついた。

「とにかく、もう少し寝ろ!……ここにいるから」

“せめて彼女の体が回復し、村人たちと馴染めるまで……どとまるしかなさそうだな……”

そんなギメリックの想いを感じ取ったのか、アイリーンは少し落ち着いた様子で、ベッドに身を沈めた。

ギメリックは緩んだ彼女の指から手を引き抜き、テーブルのそばから椅子を引き寄せてそれに座った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...