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第3部.リムウル 第3章
16.口移し
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「確かに、ひどい味だな」
ギメリックはそう言って少し笑った。
そしてテーブルから空中を漂ってきたもう一つの器を手に取る。
彼はその器の中身もまた口に含むと、アイリーンのあごに手をかけた。
「やっ……」
アイリーンはあわてて拒もうと身をよじった。
しかしギメリックはおかまいなしに顔を近づけてくる。
間近に迫ったトパーズの瞳に見つめられることが怖くて、アイリーンは目を閉じた。
しかしそれは今までの怖さとどこか違っていた。
再び苦みに襲われると覚悟していたが、予想に反して与えられたのは薬ではなく水だった。
苦みを和らげる為と、もう一つは滋養の為だろう、水には嫌みでないくらいほんのりと、蜂蜜で甘みがつけてあった。
甘みが口の中に広がるのと同時に、アイリーンの心にも、幸福感のようなふわふわとした夢見心地の感覚が広がった。
と同時に、目を閉じているのに、頭がくらくらして目眩がしているような気分でもあった。
アイリーンには、それが体の不調のためなのか、胸の動悸のせいなのか、よくわからなかった。
口の中に流し込まれる水が無くなってしまっても、ギメリックの唇は離れない。
“……?”
熱っぽく続く口付けに、アイリーンはますます胸がドキドキしてきた。
口を塞がれていることもあって息苦しさが増していく。
“……いや、ギメリック……!!”
心の声が聞こえているのかいないのか、彼は全く動じる気配を見せない。
「んっ……!!」
アイリーンが声にならない声を上げ、抗議の身じろぎをする。
ようやく顔を離したギメリックは、片頬だけで笑って見せた。
「役得ってやつだな。……もっと飲むか?」
アイリーンは乱れた息を吐きながら、うつむいて首を振った。
顔が熱い。耳まで、熱い。
たぶん、ゆでられたように真っ赤になっているに違いないと思うと、顔が上げられなかった。
「……いや、飲んでおいた方がいい。全然足りてないはずだ。これっぽっちじゃ脱水症状を起こすぞ」
身構えるアイリーンに、平然と彼は3度目の口付けをし、水を飲ませた。
続いてもう一回、さらにもう一度。
「も、もういい……やめて!」たまらずアイリーンが声を上げる。
気絶しそうなほど、息苦しかった。心臓の音が耳元で鳴っている。
アイリーンが息を整える間、ギメリックは黙って彼女を抱いていた。
「……大丈夫か?」
彼女が落ち着いたのを見計らって、声をかける。
アイリーンはうつむいたまま、うなずいた。
「じゃ、休め」
ギメリックはアイリーンを元通り寝かせ、毛布を整えた。
「寒くないか?」
アイリーンの頭に軽く手を置いて、ギメリックは彼女を見下ろした。
その目に、まぎれもない自分へのいたわりと気遣いが表れているのを、アイリーンは不思議な思いで眺めた。
あんなに恐ろしかった黄色い瞳が、今は穏やかな午後の太陽のように温かく感じられる。
その光に包まれるような幸福感に、なぜか涙ぐみそうになるのをこらえて、アイリーンは首を振った。
ギメリックは一つ頷き、
「早く食えるようになることだ。そうすれば回復も早い」と言って離れていった。
見送る後ろ姿が、涙でにじむ。
“こんなにも満たされていて幸せと感じるのに……なぜ、涙が出るの……?”
ああ、でも、今は考えてはいけないと、心の奥でささやく自分の声がする。
“……今はとにかく、何も考えずに眠ること……”
そうして、アイリーンはまた、深い眠りに落ちていった。
ギメリックはそう言って少し笑った。
そしてテーブルから空中を漂ってきたもう一つの器を手に取る。
彼はその器の中身もまた口に含むと、アイリーンのあごに手をかけた。
「やっ……」
アイリーンはあわてて拒もうと身をよじった。
しかしギメリックはおかまいなしに顔を近づけてくる。
間近に迫ったトパーズの瞳に見つめられることが怖くて、アイリーンは目を閉じた。
しかしそれは今までの怖さとどこか違っていた。
再び苦みに襲われると覚悟していたが、予想に反して与えられたのは薬ではなく水だった。
苦みを和らげる為と、もう一つは滋養の為だろう、水には嫌みでないくらいほんのりと、蜂蜜で甘みがつけてあった。
甘みが口の中に広がるのと同時に、アイリーンの心にも、幸福感のようなふわふわとした夢見心地の感覚が広がった。
と同時に、目を閉じているのに、頭がくらくらして目眩がしているような気分でもあった。
アイリーンには、それが体の不調のためなのか、胸の動悸のせいなのか、よくわからなかった。
口の中に流し込まれる水が無くなってしまっても、ギメリックの唇は離れない。
“……?”
熱っぽく続く口付けに、アイリーンはますます胸がドキドキしてきた。
口を塞がれていることもあって息苦しさが増していく。
“……いや、ギメリック……!!”
心の声が聞こえているのかいないのか、彼は全く動じる気配を見せない。
「んっ……!!」
アイリーンが声にならない声を上げ、抗議の身じろぎをする。
ようやく顔を離したギメリックは、片頬だけで笑って見せた。
「役得ってやつだな。……もっと飲むか?」
アイリーンは乱れた息を吐きながら、うつむいて首を振った。
顔が熱い。耳まで、熱い。
たぶん、ゆでられたように真っ赤になっているに違いないと思うと、顔が上げられなかった。
「……いや、飲んでおいた方がいい。全然足りてないはずだ。これっぽっちじゃ脱水症状を起こすぞ」
身構えるアイリーンに、平然と彼は3度目の口付けをし、水を飲ませた。
続いてもう一回、さらにもう一度。
「も、もういい……やめて!」たまらずアイリーンが声を上げる。
気絶しそうなほど、息苦しかった。心臓の音が耳元で鳴っている。
アイリーンが息を整える間、ギメリックは黙って彼女を抱いていた。
「……大丈夫か?」
彼女が落ち着いたのを見計らって、声をかける。
アイリーンはうつむいたまま、うなずいた。
「じゃ、休め」
ギメリックはアイリーンを元通り寝かせ、毛布を整えた。
「寒くないか?」
アイリーンの頭に軽く手を置いて、ギメリックは彼女を見下ろした。
その目に、まぎれもない自分へのいたわりと気遣いが表れているのを、アイリーンは不思議な思いで眺めた。
あんなに恐ろしかった黄色い瞳が、今は穏やかな午後の太陽のように温かく感じられる。
その光に包まれるような幸福感に、なぜか涙ぐみそうになるのをこらえて、アイリーンは首を振った。
ギメリックは一つ頷き、
「早く食えるようになることだ。そうすれば回復も早い」と言って離れていった。
見送る後ろ姿が、涙でにじむ。
“こんなにも満たされていて幸せと感じるのに……なぜ、涙が出るの……?”
ああ、でも、今は考えてはいけないと、心の奥でささやく自分の声がする。
“……今はとにかく、何も考えずに眠ること……”
そうして、アイリーンはまた、深い眠りに落ちていった。
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