薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第3章

5.奈落

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“ギメリック……”
“ギメリック……”


自分を呼ぶ声がする。

おかしいな……あれは父と母の声だ。

父はともかく、母が自分を呼ぶなんて……。


孤独には慣れていた。

ヴァイオレットと父が自分を理解し、受け入れてくれている。それで充分だった。

ただ、自分のために両親の仲がぎくしゃくしていることだけが悲しかった……。



「口さがない者の言うことなど、気にすることはないと言っているではないか」

「ええ、ええ! そうしてきたわ!! でももうたくさん!」

「シルヴィア……!!」

「私がレティス卿と通じてあの子をもうけたのだと……侮辱です!

 あの子が黒髪にさえ生まれなければ……それに、おお、あのトパーズの瞳!」

「母であるお前がそんなことでどうするのだ? あの子を哀れと思わないのか?」

「……あなたにはわからないわ。……恐ろしいのよ!

 いくら魔力の気配を隠そうと、あの、堪え難い恐怖の気配は消えない、まるであの子が直接“あれ”とつながっているような……」

「バカなことを……! お前は繊細すぎる、ただそれだけだ……王宮を離れ、少し休養してくれば良い……」



「あなた……私にもう一人、子をお授けください」

「いきなり、何を言い出すのだ」

「ギメリックは王位を継ぐにふさわしい子、私は十分に務めを果たしましたでしょう?

 ですから、今度は私自身のために欲しいのです、愛情を注ぐ対象が……」

「……すまないが、こらえてくれ。ギメリックのためなのだ。兄弟が出来れば、あの子はますます孤立してしまう」

「……うそですわ。どうしておっしゃらないのです?! あの噂が真実ではないかと、疑っているのだと!」

「何を言う!」

「ではなぜ、私に触れようとなさらないの?!」



あぁ、もうたくさんだ……聞きたくない。

たびたび繰り返される両親のいさかい、母のすすり泣く声。

それでも……母を憎むことなど出来なかった。

母を慕ってずっと見つめて来た自分にはわかっていた、彼女もまた孤独に苦しんでいるのだと……。

そして時折、とても切なげな、悲しそうな目をして自分を見つめていることも……。



「……王子。あなたは強くてお優しい方。

 このような境遇にありながら、人を許し受け入れる、寛容で純粋な心をお持ちでいらっしゃる……。

 だから、大丈夫ですよ。

 今は辛いことが多くても、正しい道を踏み外しさえしなければ……いつか必ず、何もかもが良いようになりますとも……」



ヴァイオレット……!!

しかし俺は……俺は、道を踏み外してしまった……。



激しい後悔の念がギメリックの心を打ちのめす。

そのとたん、底知れぬ闇の気配が周りに渦を巻いた。

奈落の底へと引きずり込まれるような感覚に、ギメリックは声にならない叫び声を上げた。
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