薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第2章

13.結界

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「……どうやら殴り方が足りなかったようだな、アイリーン」

口の端に冷笑を浮かべ、ルバートとにらみ合いながらギメリックが言った。

同時に、アイリーンの頭に彼からの心話が響いて来た。

“アイリーン、結界を頼む。自分を守る結界とは別に、この一帯を包む大きな結界だ。
 魔力戦の気配をもらさないように……できるか?”

これまで彼は自分でその結界を張っていたのだろう。

しかしもうその余裕がないのだ。

不安と心配を感じたが、今はそれを言っている場合ではない。

アイリーンは簡潔に答えた。

“ええ、やってみるわ”

“よし、できるだけ離れていろ!”


ギメリックがジャンプし、再び馬車の上に飛び乗った。

ルバートが手に持った杖を突き出す。

衝撃波を受けたギメリックは一瞬顔を歪めたが体勢は崩さず、ルバートに剣で打ちかかった。

ルバートが杖で受ける。

そのままギリギリと力を込めて押し合った後、二人はパッと離れた。

すかさずルバートが魔力を送ると、ギメリックの体が揺らいだ。

追い討ちをかけて振り下ろされた杖を、ギメリックは剣で受け止める。

「……どうした、魔力が尽きたのか?」

あざ笑うようにルバートが言う。

「そのように剣を振り回しては、ますます魔力が奪われる……時間の問題だな」


アイリーンにはわかっていた。

ギメリックは、ルバートの攻撃による魔力の気配をシールドしながら、アイリーンが結界を張るのを待っているのだ。

自分は呪文を知らない。

しかしおそらく呪文は、必要不可欠なものではない。

力を自分の中から引き出す、あるいは周りから集めるための、一つの手段として存在するだけで。

呪文には、言葉の意味と音によって集中力を迅速に高める効果がある、きっとそれだけのこと……。

だから呪文を知らない自分にもできるはず。

体の周りに結界を作る、そのやり方を応用すればいいのだ……。


馬車の上から、誰かがアイリーンのそばに落ちて来た。

しかし目を閉じ、集中していた彼女は気にしていられなかった。

後ろから体を掴まれ、首に杖を押し付けられても、アイリーンは目を開けず、結界を張ることから意識をそらさなかった。

「動くな! こいつを殺すぞ! 剣を捨てろ!!」

肩で息をしながら、絞り出すようにルバートが叫んでいる。

押し付けられた杖が首に食い込み、アイリーンは苦しげに喘いだ。

しかしそれでも、目を開かなかった。

馬車の上からその様子を見たギメリックが一瞬、動きを止める。

その時彼の頭に、アイリーンの声が響いた。

“……できた! ギメリック、いいわ……!!”

“わかった、気を抜くなよ!”

突然ルバートが苦痛のうめき声を上げ、アイリーンから手を離した。

アイリーンは自分の結界の中にギメリックの凄まじい魔力の気配を感じ、シールドを守ることに必死だった。

よろめいた彼女の体を、ギメリックの魔力が支え、運び上げる。


目を開けると、アイリーンはギメリックの腕に支えられ、馬車の上に座っていた。

「初めてにしては、上出来だ」

少し笑って、ギメリックが言った。

「もうしばらく、持ちこたえられるか?」

自分を気遣うトパーズの瞳にのぞき込まれ、アイリーンはなぜか頬が火照るのを感じながら、うなずいた。

ギメリックは励ますように彼女の髪をクシャッとひと撫ですると馬車の扉を開け、

「入っていろ」と中へ促した。

いつの間にか意識を取り戻したり追いついて来た兵士たちが、剣を手に集まって来ていた。

ルバートはイェイツに助けられたらしく、少し離れた場所で彼に支えられて立ち上がるところだった。
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