122 / 198
第3部.リムウル 第2章
13.結界
しおりを挟む
「……どうやら殴り方が足りなかったようだな、アイリーン」
口の端に冷笑を浮かべ、ルバートとにらみ合いながらギメリックが言った。
同時に、アイリーンの頭に彼からの心話が響いて来た。
“アイリーン、結界を頼む。自分を守る結界とは別に、この一帯を包む大きな結界だ。
魔力戦の気配をもらさないように……できるか?”
これまで彼は自分でその結界を張っていたのだろう。
しかしもうその余裕がないのだ。
不安と心配を感じたが、今はそれを言っている場合ではない。
アイリーンは簡潔に答えた。
“ええ、やってみるわ”
“よし、できるだけ離れていろ!”
ギメリックがジャンプし、再び馬車の上に飛び乗った。
ルバートが手に持った杖を突き出す。
衝撃波を受けたギメリックは一瞬顔を歪めたが体勢は崩さず、ルバートに剣で打ちかかった。
ルバートが杖で受ける。
そのままギリギリと力を込めて押し合った後、二人はパッと離れた。
すかさずルバートが魔力を送ると、ギメリックの体が揺らいだ。
追い討ちをかけて振り下ろされた杖を、ギメリックは剣で受け止める。
「……どうした、魔力が尽きたのか?」
あざ笑うようにルバートが言う。
「そのように剣を振り回しては、ますます魔力が奪われる……時間の問題だな」
アイリーンにはわかっていた。
ギメリックは、ルバートの攻撃による魔力の気配をシールドしながら、アイリーンが結界を張るのを待っているのだ。
自分は呪文を知らない。
しかしおそらく呪文は、必要不可欠なものではない。
力を自分の中から引き出す、あるいは周りから集めるための、一つの手段として存在するだけで。
呪文には、言葉の意味と音によって集中力を迅速に高める効果がある、きっとそれだけのこと……。
だから呪文を知らない自分にもできるはず。
体の周りに結界を作る、そのやり方を応用すればいいのだ……。
馬車の上から、誰かがアイリーンのそばに落ちて来た。
しかし目を閉じ、集中していた彼女は気にしていられなかった。
後ろから体を掴まれ、首に杖を押し付けられても、アイリーンは目を開けず、結界を張ることから意識をそらさなかった。
「動くな! こいつを殺すぞ! 剣を捨てろ!!」
肩で息をしながら、絞り出すようにルバートが叫んでいる。
押し付けられた杖が首に食い込み、アイリーンは苦しげに喘いだ。
しかしそれでも、目を開かなかった。
馬車の上からその様子を見たギメリックが一瞬、動きを止める。
その時彼の頭に、アイリーンの声が響いた。
“……できた! ギメリック、いいわ……!!”
“わかった、気を抜くなよ!”
突然ルバートが苦痛のうめき声を上げ、アイリーンから手を離した。
アイリーンは自分の結界の中にギメリックの凄まじい魔力の気配を感じ、シールドを守ることに必死だった。
よろめいた彼女の体を、ギメリックの魔力が支え、運び上げる。
目を開けると、アイリーンはギメリックの腕に支えられ、馬車の上に座っていた。
「初めてにしては、上出来だ」
少し笑って、ギメリックが言った。
「もうしばらく、持ちこたえられるか?」
自分を気遣うトパーズの瞳にのぞき込まれ、アイリーンはなぜか頬が火照るのを感じながら、うなずいた。
ギメリックは励ますように彼女の髪をクシャッとひと撫ですると馬車の扉を開け、
「入っていろ」と中へ促した。
いつの間にか意識を取り戻したり追いついて来た兵士たちが、剣を手に集まって来ていた。
ルバートはイェイツに助けられたらしく、少し離れた場所で彼に支えられて立ち上がるところだった。
口の端に冷笑を浮かべ、ルバートとにらみ合いながらギメリックが言った。
同時に、アイリーンの頭に彼からの心話が響いて来た。
“アイリーン、結界を頼む。自分を守る結界とは別に、この一帯を包む大きな結界だ。
魔力戦の気配をもらさないように……できるか?”
これまで彼は自分でその結界を張っていたのだろう。
しかしもうその余裕がないのだ。
不安と心配を感じたが、今はそれを言っている場合ではない。
アイリーンは簡潔に答えた。
“ええ、やってみるわ”
“よし、できるだけ離れていろ!”
ギメリックがジャンプし、再び馬車の上に飛び乗った。
ルバートが手に持った杖を突き出す。
衝撃波を受けたギメリックは一瞬顔を歪めたが体勢は崩さず、ルバートに剣で打ちかかった。
ルバートが杖で受ける。
そのままギリギリと力を込めて押し合った後、二人はパッと離れた。
すかさずルバートが魔力を送ると、ギメリックの体が揺らいだ。
追い討ちをかけて振り下ろされた杖を、ギメリックは剣で受け止める。
「……どうした、魔力が尽きたのか?」
あざ笑うようにルバートが言う。
「そのように剣を振り回しては、ますます魔力が奪われる……時間の問題だな」
アイリーンにはわかっていた。
ギメリックは、ルバートの攻撃による魔力の気配をシールドしながら、アイリーンが結界を張るのを待っているのだ。
自分は呪文を知らない。
しかしおそらく呪文は、必要不可欠なものではない。
力を自分の中から引き出す、あるいは周りから集めるための、一つの手段として存在するだけで。
呪文には、言葉の意味と音によって集中力を迅速に高める効果がある、きっとそれだけのこと……。
だから呪文を知らない自分にもできるはず。
体の周りに結界を作る、そのやり方を応用すればいいのだ……。
馬車の上から、誰かがアイリーンのそばに落ちて来た。
しかし目を閉じ、集中していた彼女は気にしていられなかった。
後ろから体を掴まれ、首に杖を押し付けられても、アイリーンは目を開けず、結界を張ることから意識をそらさなかった。
「動くな! こいつを殺すぞ! 剣を捨てろ!!」
肩で息をしながら、絞り出すようにルバートが叫んでいる。
押し付けられた杖が首に食い込み、アイリーンは苦しげに喘いだ。
しかしそれでも、目を開かなかった。
馬車の上からその様子を見たギメリックが一瞬、動きを止める。
その時彼の頭に、アイリーンの声が響いた。
“……できた! ギメリック、いいわ……!!”
“わかった、気を抜くなよ!”
突然ルバートが苦痛のうめき声を上げ、アイリーンから手を離した。
アイリーンは自分の結界の中にギメリックの凄まじい魔力の気配を感じ、シールドを守ることに必死だった。
よろめいた彼女の体を、ギメリックの魔力が支え、運び上げる。
目を開けると、アイリーンはギメリックの腕に支えられ、馬車の上に座っていた。
「初めてにしては、上出来だ」
少し笑って、ギメリックが言った。
「もうしばらく、持ちこたえられるか?」
自分を気遣うトパーズの瞳にのぞき込まれ、アイリーンはなぜか頬が火照るのを感じながら、うなずいた。
ギメリックは励ますように彼女の髪をクシャッとひと撫ですると馬車の扉を開け、
「入っていろ」と中へ促した。
いつの間にか意識を取り戻したり追いついて来た兵士たちが、剣を手に集まって来ていた。
ルバートはイェイツに助けられたらしく、少し離れた場所で彼に支えられて立ち上がるところだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説


私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる