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第3部.リムウル 第2章
8.金属の網
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アイリーンを抱き上げ、ギメリックは窓から身を躍らせた。
落下していく感覚に一瞬体をこわばらせたアイリーンだったが、しっかりと支えてくれるギメリックの腕に、不安は感じなかった。
次の瞬間、強い風が下から吹き上がり、髪とマントが激しくたなびく。
落下の衝撃から風に守られ、2階の部屋の窓から、二人は中庭に降り立った。
そこにはすでに兵士の一団が待ち構えていた。
微かに金属の擦れる音が響き、ギメリックが剣を抜く。
「……命が惜しければ道を開けろ」
低く静かな、つぶやくような声。
無造作に、横手に降ろしただけに見える剣の構え。
にもかかわらず、強く刺すような輝きを取り戻したトパーズの瞳に圧倒され、兵士たちは周りを取り囲んだままその場に凍り付いた。
その隙をつき、彼らの真ん中を突っ切って、ギメリックが走る。
手を引かれ、アイリーンも懸命に走った。思わず身を引いた兵士たちの間をすり抜け、二人は厩へと向かった。
厩の中に一歩踏み込んだとたん、ギメリックがハッと足を止め、上を見上げた。
「……!!」
梁の上から降ってきた何かから、とっさにアイリーンをかばい、腕の中に抱き込む。
それは金属の鎖を編んで作った網だった。
よける暇もなく、アイリーンを抱いたまま網に捕われる。
鋭い痛みとともに魔力を奪われる感覚が襲ってきた。
ぐいと網を引かれ、たまらず二人はもろともに床に倒れた。
「あっ……!」
アイリーンの唇から、思わず悲鳴が漏れる。
衣服の上から触れていても、金属の網は激しい痛みを伝えてくる。
アイリーンは歯を食いしばり、懸命に耐えながら、状況を把握しようと顔を上げた。
するとギメリックは彼女の頭を押さえ、抱きしめる腕に力を込めて心話で話しかけた。
“動くな……俺に任せろ。
どんなことがあっても必ず守ってやる、だからお前は絶対に魔力を使うな。……いいな?”
彼の腕にすっぽりと抱かれ、彼がガードしてくれているおかげで、アイリーンの上半身の大部分は網に触れていなかった。
それなのに、体中を駆け巡る痛みに、うめき声をこらえるのがやっとだった。
ギメリックは自分より多く金属に触れているのだ。辛くないはずがない、とアイリーンは思った。
魔力の知覚によって彼もまた苦痛に耐えていることが感じられる。
“いやよ! もしもあなたが自分の命を盾にして私を守るつもりなら……そんなことさせない!”
一瞬、驚いたような沈黙があった。
そしてなぜか、笑いをこらえるような気配とともに、彼の声が届く。
“お前が魔力を使いさえしなければ、そんな必要はないさ”
“……”
どうだか怪しいものだ、とアイリーンが思っていると、ギメリックは言った。
“疑っているのか? なら説明するが、この様子だとまだ狂王には……”
その時、
「イェイツ、捕らえたか?」と声がして、ルバートが姿を見せた。
梁の上から降りてきた兵士とともに、厩の奥から現れて彼の足下に平伏したのは、ルバートの館でアイリーンを逃がそうとしてくれた、あの男だった。
落下していく感覚に一瞬体をこわばらせたアイリーンだったが、しっかりと支えてくれるギメリックの腕に、不安は感じなかった。
次の瞬間、強い風が下から吹き上がり、髪とマントが激しくたなびく。
落下の衝撃から風に守られ、2階の部屋の窓から、二人は中庭に降り立った。
そこにはすでに兵士の一団が待ち構えていた。
微かに金属の擦れる音が響き、ギメリックが剣を抜く。
「……命が惜しければ道を開けろ」
低く静かな、つぶやくような声。
無造作に、横手に降ろしただけに見える剣の構え。
にもかかわらず、強く刺すような輝きを取り戻したトパーズの瞳に圧倒され、兵士たちは周りを取り囲んだままその場に凍り付いた。
その隙をつき、彼らの真ん中を突っ切って、ギメリックが走る。
手を引かれ、アイリーンも懸命に走った。思わず身を引いた兵士たちの間をすり抜け、二人は厩へと向かった。
厩の中に一歩踏み込んだとたん、ギメリックがハッと足を止め、上を見上げた。
「……!!」
梁の上から降ってきた何かから、とっさにアイリーンをかばい、腕の中に抱き込む。
それは金属の鎖を編んで作った網だった。
よける暇もなく、アイリーンを抱いたまま網に捕われる。
鋭い痛みとともに魔力を奪われる感覚が襲ってきた。
ぐいと網を引かれ、たまらず二人はもろともに床に倒れた。
「あっ……!」
アイリーンの唇から、思わず悲鳴が漏れる。
衣服の上から触れていても、金属の網は激しい痛みを伝えてくる。
アイリーンは歯を食いしばり、懸命に耐えながら、状況を把握しようと顔を上げた。
するとギメリックは彼女の頭を押さえ、抱きしめる腕に力を込めて心話で話しかけた。
“動くな……俺に任せろ。
どんなことがあっても必ず守ってやる、だからお前は絶対に魔力を使うな。……いいな?”
彼の腕にすっぽりと抱かれ、彼がガードしてくれているおかげで、アイリーンの上半身の大部分は網に触れていなかった。
それなのに、体中を駆け巡る痛みに、うめき声をこらえるのがやっとだった。
ギメリックは自分より多く金属に触れているのだ。辛くないはずがない、とアイリーンは思った。
魔力の知覚によって彼もまた苦痛に耐えていることが感じられる。
“いやよ! もしもあなたが自分の命を盾にして私を守るつもりなら……そんなことさせない!”
一瞬、驚いたような沈黙があった。
そしてなぜか、笑いをこらえるような気配とともに、彼の声が届く。
“お前が魔力を使いさえしなければ、そんな必要はないさ”
“……”
どうだか怪しいものだ、とアイリーンが思っていると、ギメリックは言った。
“疑っているのか? なら説明するが、この様子だとまだ狂王には……”
その時、
「イェイツ、捕らえたか?」と声がして、ルバートが姿を見せた。
梁の上から降りてきた兵士とともに、厩の奥から現れて彼の足下に平伏したのは、ルバートの館でアイリーンを逃がそうとしてくれた、あの男だった。
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