薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第2章

4.別れの言葉

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「バカ野郎! こんなところで何をしている、早く帰れ、体に戻れなくなるぞ!!」

辺りを圧巻するような強い声が、光と共に降ってきた。

見上げると、金の光に包まれたギメリックの姿が宙に浮いている。

「ほら、本物のギメリックが迎えに来たよ。さあ、彼と一緒に帰るんだ」

「ティレル……」

ティレルはアイリーンを優しく引き離した。

そして、自分をにらみつけているギメリックに向かって微笑みかけた。

「ありがとう。アイリーンを守ってくれて」

「言っておくが、お前に頼まれたからではないからな!」

「うん、だったら、なおさら嬉しいよ」
ティレルはニッコリ笑った。

「心配ないよ、もう二度と彼女の魂が抜け出さないよう、暗示をかけておいたから……だからアイリーン」

ティレルはアイリーンに向き直って言った。

「これでお別れだ」

「ティレル! いや、もう会えないなんて、そんな……」

ティレルがアイリーンの額に手を当てると、彼女は意識を失った。

ゆっくりと、漂うように宙に浮かんだ彼女を胸に抱きとめ、ティレルは一瞬、強く抱きしめる。

そしてギメリックに向かって、彼女を差し出した。

「ギメリック、アイリーンを頼む……」

ギメリックはティレルの正面に降り立ち、彼女を受け取った。

悲しげな表情を浮かべている彼女の顔を眺めながら、苦々しげに彼は言った。

「……簡単に頼まれてやれるほど、事は単純ではなくなっている。

 あの時は俺も心を決めかねていた、だから話す気もなかった……しかし」

ギメリックのトパーズの瞳が、意を決したように強くティレルを見据える。

「石は俺ではなくアイリーンを主に選んだのだ。

 つまり、彼女が魔力を失わない限り、薄明宮を奪還するという大仕事を彼女の手に委ねなければならない」

「……!!」 

驚愕し、言葉もなく自分の顔を見返すティレルに、ギメリックはさらに言った。

「事が済むまで安全に、ソルグの村にかくまっておくどころか……

 来たるべき戦いに備え、充分に魔力の練習をさせるために、あの村に連れて行く羽目になっているんだ」

「そんな、バカな……!!」

「せめて彼女がお前を殺さなくて済むように、お前は自分を助ける方法を見つけることだ!」

激しい口調でそう言い捨てると、ギメリックはサッとティレルから離れて宙に浮き、彼に背を向けた。

その背中に向かって、ティレルは言った。

「ギメリック……! 無理だよ、わかっているだろう?

 肉体がなければ、この世に交わりを持つことはできない……

 ぼくは自分の居場所すら、自分ではコントロールできないんだ……」

「泣き言など聞く気はない! 彼女の気持ちを考えてみろ!!」

振り向きもせずそう言って、ギメリックはアイリーンを連れて去って行った。

星空へと登っていく、神々しいばかりに輝く金色の光を目で追いながら、ティレルはつぶやいた。

「……諦めるな、と言うんだね。彼女のために……そしてぼく自身のために」

ティレルは、悲しさと喜びの入り混じった表情で、ゆっくりと微笑んだ。

「変わっていないね君は……。

 もっとわかりやすい優しさなら、たとえ魔力の気配がどんなに恐ろしくても、嫌う者などいないだろうに……。

 でもぼくは、そんな君がとても好きだったよ。

 ……きっとアイリーンも君を好きになる。

 そして君たちは幸せになるんだ……」 
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