薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第2章

2.ワガママ

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暴れる彼女をしっかりと押さえ込みながら、ティレルは言った。

「それに、もう誰も、残っていない……。ほら、魂が上がっていないだろう?」

村の回りには高い柵が巡らせてあり、逃げられないようにした上で兵士達が火をつけたのだと知れた。

死にものぐるいで柵を乗り越えようとしたらしい人々が、柵の内側で槍に突かれて折り重なるように倒れている。

その遺体も煙と熱ですっかり焼け焦げていた。

アイリーンの体から力が抜け落ちた。


「ひどい……!! なぜ?! どうしてあんなことが許されるの?!」

ティレルに誘導され、草原の中に点在する灌木の茂みの一つに降り立つと、アイリーンは涙をこぼしながら訴えた。

「許されはしない……!! 近いうちに必ず、裁きを受けることになるよ。

 ……やっと、ギメリックが石を見つけたんだからね……」

苦しげに答えるティレルの顔を、アイリーンは驚いた目で見上げた。

彼は辛そうに薄く笑った。

「何から聞いて良いかわからないって顔だね? ギメリックから、何も聞いていないんだね……」

「教えてよ! あの人は何も教えてくれないの、お願い、私にわかるように説明して!

 何があったの? 10年前、エンドルーアで……それが全ての始まりなんでしょう?」

ティレルはいきなり、アイリーンを引き寄せて胸に抱きしめた。

「ごめんよ、今ここで、説明している時間はないんだ。

 これはぼくのワガママ……本当は一刻も早く君を帰すべきなのに」

「ティレル……!!」

「二度と、会えないと思っていた……なのに君の方から会いに来てくれて、どんなに嬉しかったか……でももうこんなことしちゃいけない、これが最後だ」

「最後って、どういうこと?!」

「君は気づいていないようだけど、魂だけ抜け出してきてるんだよ。この前も、今も。

 だからこうして、触れ合っている気分になれる……」

ティレルはアイリーンの額に口付けた。

彼の姿はこの前と同じように、淡い銀の光に包まれている。

しかし気づいてみると、アイリーン自身も同じように光に包まれていた。

彼女の光は淡い金色だったけれど。


アイリーンは焦燥感に駆られ、懸命になって、彼の腕をつかんで問いかけた。

「じゃ、あなたも今は魂だけなのね? あなたの体はどこ? どこに行けば、本当のあなたに会えるの?」

「だめだよ、悲しいけど……もう会えない。

 ぼくは、あいつと共に滅びる運命……だけどそれはぼくにとって、長い間待ち望んでいた唯一の救いなんだ」

ティレルは自分にしがみついているアイリーンからフイと目をそらすと、遠くを見る目をして語り出した。
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