薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第2章

1.飛翔

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“ああ、これは……夢……?”

アイリーンはそう思った。
以前にも経験したことのある意識の浮遊感が、彼女の感覚を包み込んでいた。


アイリーンは空を飛んでいた。月のない空を。

川を渡り、森を越え、さらなる高みへと飛翔する。

まぶたは閉じているはずだった。けれど、感じることが出来る。

彼女の下を途切れることなく流れていく、闇と静寂に包まれた世界。

夜に眠る者達の安らかな寝息。眠らない者達の秘めやかな足音。

あふれる生き物たちの息吹。鮮やかに繰り広げらる命の饗宴……。


アイリーンは、自分の意識が果てしなく広がっていき、大気に満ちるのを感じた。

世界はすぐ手の届くところに、まるで彼女の一部であるかのように存在していた。

“……ああ、この世は美しいわ。こんなにも、命の輝きに満ちて……”

歓喜に震えながら高く高く舞い上がり、鳥の目線で地上を見下ろす。


“何だろう、あれは……?”

豊かな黒で塗りつぶされた平原の中に、一点だけ赤く光り、何やらざわめいている気配のする場所がある。

強く注意を引かれ、彼女の意識はそこへ向かって収縮を始めた。

“痛い……”

“熱い……”

苦しげな声の尾を引きながら、白い光がいくつもいくつも、まるで花火のようにそこから天空の彼方へと飛んでいく。

地上は火の海だった。草原に囲まれた小さな村。その村全体が燃えている。

“人が……!! みんな、焼け死んでしまう!!”

アイリーンは我を忘れてそのただ中に飛び込もうとした。


「アイリーン!!……待って!!」

彼女を押しとどめた腕。それはティレルのものだった。


「ティレル!」

アイリーンは驚いて彼を見上げた。

しかし彼の手を振り払い、なおも地上へ降りようとした。

「早く助けないと……!! みんな死んじゃうわ!!」

「だめだ、やつに気づかれてしまう!!」

ティレルはまっすぐ降りようとする彼女を斜めに引っ張っていった。

「いくらぼくと君の魔力の波動が似ているからと言って、やつらの真ん中に降りて行ったりしたら……この前みたいにうまくはごまかせない、さぁ、こっちへ!!」

「でも……!!」

ティレルの抱擁を振りほどこうとしながら、アイリーンは燃える村を振り返った。

そして、村の回りを取り囲んでいる兵士の一団と、その中にひときわ目立つ、見慣れた男の姿を見た。

“ギメリック!!……いいえ、違う、あれは……誰? 恐ろしい瞳……”
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