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第3部.リムウル 第1章
21.ヴァイオレット
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アイリーンが見つけたもう一つの残留思念。
少し離れた回廊の薄暗い陰の中に立っている、淡い紫の光に包まれた人影を、ギメリックは蒼白になって凝視している。
“ヴァイオレット……!!”
“ヴァイオレット? さっきギメリックが、“俺が殺した”って言ってた人ね……”
人影は、やはり漂うようにこちらへ近寄ってきた。
それは、濃紫のマントにその長身を包んだ、美しい女性だった。
アイリーンは気がついて心の中で叫んだ。
“あっ……この前、夢に出てきた人だわ”
彼女の想いがよほど強かったのだろうか、それとも彼女の魔力の強さゆえなのか……
アイリーンには何となく、その両方なのだろうという気がしたのだが、彼女の体はほとんど透けていなかった。
まるで生きている人間のように生き生きとした、現実感のある美しい姿をしていた。
年齢は20代後半かと思われる。
しかし彼女の周りには、深い時の重みを感じさせる、不思議な雰囲気が漂っていた。
体を包む紫の光のせいか、フードの奥の黒髪も、切れ長の目の黒い瞳も、濃い紫色に見える。
白い肌とのコントラストが眩しかった。
くっきりと鮮やかな赤い唇には、微かに、穏やかな微笑みが浮かんでいる。
そしてその目は、深い慈愛に満ちていた。
“ああ、この人の想いは……誰かに対する愛情だわ……”
アイリーンはそう思った。
ヴァイオレットが残留思念を残すほどに強く深く、誰を想っていたのかは、わからなかったけれど……。
ギメリックは、近づいてくるヴァイオレットの姿から顔を背けて目を閉じ、息苦しくなるほどの胸の痛みに耐えた。
魔法の師として、そして母親代わりとして、厳しくも優しかったヴァイオレット。
……愛されていると信じていた。
フレイヤの涙を探し求めてさまよい続けたこの数年……
自分の犯した罪の重さに打ちひしがれ、今にも闇に飲み込まれそうになる心が辛うじて踏みとどまったのは、彼女の愛を信じていたからこそであり、自分に課された使命を果たすことが彼女の望みでもあると思っていたからだ。
それなのに……。
「ギメリック?」
アイリーンが、ためらいがちに、それでも気遣うように、声をかけてきた。
固く握られた彼の拳の上に彼女の手が柔らかく重なってくる。
しかしギメリックは目を開かなかった。
やがてヴァイオレットの残留思念がゆっくりと去っていくのを感じ、それからやっと、目を開く。
アイリーンは、どうしたの?と問いかけるような、心配そうな眼差しで彼を見上げている。
そんな彼女に対し、憎しみこそはもうなかったが、信じた者に裏切られた悲しみは止めようもなく心にあふれていた。
“そんな顔をするな……俺は、場合によってはお前を殺すつもりでいた男だ……”
少し離れた回廊の薄暗い陰の中に立っている、淡い紫の光に包まれた人影を、ギメリックは蒼白になって凝視している。
“ヴァイオレット……!!”
“ヴァイオレット? さっきギメリックが、“俺が殺した”って言ってた人ね……”
人影は、やはり漂うようにこちらへ近寄ってきた。
それは、濃紫のマントにその長身を包んだ、美しい女性だった。
アイリーンは気がついて心の中で叫んだ。
“あっ……この前、夢に出てきた人だわ”
彼女の想いがよほど強かったのだろうか、それとも彼女の魔力の強さゆえなのか……
アイリーンには何となく、その両方なのだろうという気がしたのだが、彼女の体はほとんど透けていなかった。
まるで生きている人間のように生き生きとした、現実感のある美しい姿をしていた。
年齢は20代後半かと思われる。
しかし彼女の周りには、深い時の重みを感じさせる、不思議な雰囲気が漂っていた。
体を包む紫の光のせいか、フードの奥の黒髪も、切れ長の目の黒い瞳も、濃い紫色に見える。
白い肌とのコントラストが眩しかった。
くっきりと鮮やかな赤い唇には、微かに、穏やかな微笑みが浮かんでいる。
そしてその目は、深い慈愛に満ちていた。
“ああ、この人の想いは……誰かに対する愛情だわ……”
アイリーンはそう思った。
ヴァイオレットが残留思念を残すほどに強く深く、誰を想っていたのかは、わからなかったけれど……。
ギメリックは、近づいてくるヴァイオレットの姿から顔を背けて目を閉じ、息苦しくなるほどの胸の痛みに耐えた。
魔法の師として、そして母親代わりとして、厳しくも優しかったヴァイオレット。
……愛されていると信じていた。
フレイヤの涙を探し求めてさまよい続けたこの数年……
自分の犯した罪の重さに打ちひしがれ、今にも闇に飲み込まれそうになる心が辛うじて踏みとどまったのは、彼女の愛を信じていたからこそであり、自分に課された使命を果たすことが彼女の望みでもあると思っていたからだ。
それなのに……。
「ギメリック?」
アイリーンが、ためらいがちに、それでも気遣うように、声をかけてきた。
固く握られた彼の拳の上に彼女の手が柔らかく重なってくる。
しかしギメリックは目を開かなかった。
やがてヴァイオレットの残留思念がゆっくりと去っていくのを感じ、それからやっと、目を開く。
アイリーンは、どうしたの?と問いかけるような、心配そうな眼差しで彼を見上げている。
そんな彼女に対し、憎しみこそはもうなかったが、信じた者に裏切られた悲しみは止めようもなく心にあふれていた。
“そんな顔をするな……俺は、場合によってはお前を殺すつもりでいた男だ……”
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