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第3部.リムウル 第1章
20.残留思念
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突然、核心に迫る質問を投げつけられ、ギメリックは背中をこわばらせた。
振り向くことさえためらうように、一瞬、そのまま立ちつくす。
しかし向き直った彼はいつもの鋭い光を湛えた目で彼女をにらみ、
「余計なことは聞かなくていい」と冷たい声で言い放った。
「そ、そんな顔したって……怖くないんだから……」
と言いつつも、彼女はおびえた表情で身をすくめ、一歩、後ずさる。
「ぐずぐずしていると日が暮れる。置いて行かれたいか?」
彼の言葉通り、いつの間にか日はすっかり傾き、遺跡の中は斜めに落ちてくる影で一杯になっていた。
光に満ち、金色に透き通っていた空気も、今は迫り来る闇をはらんで密度の濃いオレンジ色に染まっている。
その時、アイリーンは目の端に何か動くものをとらえ、ハッとそちらを見た。
人の形をしている……。けれど、どこか変だった。
こちらへ向かって来るのだが、歩くと言うより、空中を漂うように移動してくるのだ。
「何……? あれ……」
アイリーンは無意識にギメリックの方に体を寄せ、不安そうに尋ねた。
彼女の視線を追って、ギメリックもそちらを見る。
“ああ、残留思念だな”
との彼の心のつぶやきにも、アイリーンは何のことかわからず、さらに不安を募らせた。
すぐそばまで近づいてくると、その異様さがハッキリと見て取れた。
確かにそれは人だった。けれどその姿は半ば透き通り、その目は何も見ていないかのように宙をさまよっている。
アイリーンはさらにギメリックの方に体を寄せ、震える声で言った。
「幽霊……?」
「そうではない。魔力の残り香のようなものだ。
魔力を持つ者の強い想いが、こういう形で残る場合がある。
……何も悪さはしない、怖がるな」
そう言われても、アイリーンはギメリックの陰に隠れるようにしてこわごわ、それが自分たちのすぐそばを通っていくのを見つめていた。
それは銀髪に紫の瞳をした壮齢の男の姿をしており、宙をさまよう目は何かを探すようにソワソワと落ち着かなげだった。
アイリーンにはその男の“強い想い”とは何だったのか、もちろん知る由もなかったが、何かに対する強い執着なのだろうということだけはわかった。
「おい……気が済んだか?」
声をかけられ、アイリーンはハッと我に返ってあわててギメリックから身を離した。
いつのまにか彼の背中にぴったりと張り付き、息を殺して男の姿が遠ざかっていくのを見送っていたのだ。
バツの悪さに顔を赤らめながら、ギメリックとの間に距離を置こうとしたのだが、うろたえてさまよわせた視線の先に別の人影を認め、とびあがるようにまた彼の背中に張り付いた。
「やだ……! あそこにもいる……」
「ほらみろ、置いて行かれたくはないだろう?……さっさと馬に……」
と言ったきりギメリックが息をのむ気配に、アイリーンは彼の顔を見上げた。
振り向くことさえためらうように、一瞬、そのまま立ちつくす。
しかし向き直った彼はいつもの鋭い光を湛えた目で彼女をにらみ、
「余計なことは聞かなくていい」と冷たい声で言い放った。
「そ、そんな顔したって……怖くないんだから……」
と言いつつも、彼女はおびえた表情で身をすくめ、一歩、後ずさる。
「ぐずぐずしていると日が暮れる。置いて行かれたいか?」
彼の言葉通り、いつの間にか日はすっかり傾き、遺跡の中は斜めに落ちてくる影で一杯になっていた。
光に満ち、金色に透き通っていた空気も、今は迫り来る闇をはらんで密度の濃いオレンジ色に染まっている。
その時、アイリーンは目の端に何か動くものをとらえ、ハッとそちらを見た。
人の形をしている……。けれど、どこか変だった。
こちらへ向かって来るのだが、歩くと言うより、空中を漂うように移動してくるのだ。
「何……? あれ……」
アイリーンは無意識にギメリックの方に体を寄せ、不安そうに尋ねた。
彼女の視線を追って、ギメリックもそちらを見る。
“ああ、残留思念だな”
との彼の心のつぶやきにも、アイリーンは何のことかわからず、さらに不安を募らせた。
すぐそばまで近づいてくると、その異様さがハッキリと見て取れた。
確かにそれは人だった。けれどその姿は半ば透き通り、その目は何も見ていないかのように宙をさまよっている。
アイリーンはさらにギメリックの方に体を寄せ、震える声で言った。
「幽霊……?」
「そうではない。魔力の残り香のようなものだ。
魔力を持つ者の強い想いが、こういう形で残る場合がある。
……何も悪さはしない、怖がるな」
そう言われても、アイリーンはギメリックの陰に隠れるようにしてこわごわ、それが自分たちのすぐそばを通っていくのを見つめていた。
それは銀髪に紫の瞳をした壮齢の男の姿をしており、宙をさまよう目は何かを探すようにソワソワと落ち着かなげだった。
アイリーンにはその男の“強い想い”とは何だったのか、もちろん知る由もなかったが、何かに対する強い執着なのだろうということだけはわかった。
「おい……気が済んだか?」
声をかけられ、アイリーンはハッと我に返ってあわててギメリックから身を離した。
いつのまにか彼の背中にぴったりと張り付き、息を殺して男の姿が遠ざかっていくのを見送っていたのだ。
バツの悪さに顔を赤らめながら、ギメリックとの間に距離を置こうとしたのだが、うろたえてさまよわせた視線の先に別の人影を認め、とびあがるようにまた彼の背中に張り付いた。
「やだ……! あそこにもいる……」
「ほらみろ、置いて行かれたくはないだろう?……さっさと馬に……」
と言ったきりギメリックが息をのむ気配に、アイリーンは彼の顔を見上げた。
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