薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第1章

13.説明

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アイリーンは椅子に腰掛け、そっと、窓のそばに立って外を見ているギメリックの様子を盗み見た。

結界に守られているとはいえ、町中では油断できないのか、神経を尖らせているのがわかる。

彼は町に入る前に、再びエリアードの姿を身にまとっていた。

黒髪にトパーズの瞳は珍しすぎて、もしも敵がいれば一目で魔力を持つ者と悟られてしまうからだ。


しかしその本質を知っている今、アイリーンにはやはり彼の姿が怖かった。

彼がそこにいるというだけで、彼の存在から流れ出てくる威圧感のようなものに圧倒される。

彼の素早く無駄のない動きには、今にも獲物に飛びかかろうとする猛獣の、鋭い牙と爪の気配が感じられた。

静かで、緩慢に見える動作の中にさえ、秘められた力を感じるのだった。



ギメリックは、アイリーンの緊張とおびえは、単に自分が同じ部屋にいるせいと解釈したらしい。

珍しく説明のために口を開いた。

「気に入らないだろうが、同じ部屋で寝てもらう。
 理由1。結界が一つで済む。
 理由2。もしも襲われた場合、そばにいないととっさの時に間に合わない」


アイリーンには彼が頭の中で、

“お前を守るためだ、我慢しろ”と付け加えるのが微かに読み取れた。

そしてため息を吐くように、

“だいたいお前が狩りの獲物を食べてさえくれれば、町へ寄る必要もないんだぞ……”と言うのも。

しかし彼は言葉に出してはこう言った。

「……ああ、俺は床に寝るから心配するな」


アイリーンは、彼に気づかれないよう、ホゥと息を吐いた。

“この距離なら、離れてても彼の心が読めるみたい……”

さぁ、いよいよ、と彼女が思ったとき、ギメリックは戸口に向かって歩き出し、部屋から出て行こうとした。

「え……どこ行くの?」

「馬の様子を見てくるだけだ。すぐ戻る」


困ったような、すがるような目をするアイリーンを見て、ギメリックは一人になるのが怖いのだろうと思った。

「来るか?」

と聞くと、アイリーンはパッと顔を輝かせてうなずき、後に続こうとした。

「ちょっと待て」

彼女の頭を押さえ、部屋に押し戻す。

「その格好でうまやに来る気か?」

アイリーンはきょとんとして彼を見返した。

「着替えるか、目くらましで姿を消せ! それじゃ目立ちすぎる」

アイリーンが着ているのは白地に淡いピンクと紫を基調にした上流階級の女性の服で、それはとても彼女に似合っていたのだが、うまやに行くのにふさわしい格好とは言えなかった。

「じゃあ、着替えるわ」というアイリーンを部屋に残し、ギメリックは扉を閉めた。

“全く、世話が焼ける……”


アイリーンは荷物の中から、森での旅の間着ていた、少年の服を取り出した。

やはりこっちの方が動きやすい。

着替えをしながら、アイリーンは考えた。

“そう言えば、ギメリックは私から石を奪って、どこに隠しているのかしら。
 きっと身につけていると思うんだけど……”
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