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第3部.リムウル 第1章
11.新月
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いまだ敵か味方か判然としないギメリックに対し、アイリーンは自分の気持ちをもてあましていた。
どういう態度を取って良いのか彼女自身、決めかねていたのだ。
知りたいことは山ほどあったが、ギメリックは何を聞いても「今にわかる」と、皮肉っぽい薄笑いを浮かべるか、そうでなければ無表情に言うばかりだった。
あまりうるさく聞くと、眼光鋭く睨まれた。
彼のトパーズの瞳に射るように見据えられると、恐ろしさに身がすくみ、何も言えなくなる。
そう、アイリーンはやはり、彼が怖いのだった。
魔力を自分のものとした今、アイリーンにも感じることが出来る。
彼の恐ろしいほどに強大な力……そしてその力ゆえに彼が常にのぞき見ている、気の遠くなるような闇の深淵を……。
その闇の救いようのない深さに、彼女の心はおびえた。
まるで底なしの井戸の縁に危うく立って、果てのない闇の底をのぞき込んでいるような気分だった。
けれど、そっけない態度や冷淡そうな言葉とはうらはらに、彼が自分の怪我の具合にとても気を配ってくれていることに、アイリーンは気づいていた。
ここまでの旅の間、彼は極力アイリーンを歩かさないように気をつけ、馬への乗り降りにも魔力を使って彼女を移動させた。
おかげで足はすっかり回復し、今日は久しぶりに靴を履いたのだ。
今も彼は、アイリーンの歩調に合わせ、さりげなくゆっくり歩いてくれているようだった。
結局、ギメリックが自分の正体を明かした時と、彼のわけのわからなさは全く変わっていなかった。
でも、今日は新月……。
夢の中でティレルが言っていたとおり、彼女の魔力は倍になっている。
それは、体が触れているとギメリックの思考が読めてしまうことですぐにわかった。
どうも今日はうまく結界が張れないようだと言ってごまかしていたが、その実アイリーンは一生懸命自分の魔力の気配をシールドしていた。
しかし2倍になった魔力の気配は今の彼女の力では隠しきれなかった。
だから今日は夜が明けてもそのまま、ギメリックが二人分の結界を張っているのだった。
ギメリックは彼女がまだ力を使うことに不慣れだから波があるのだろうと納得したようだったが、アイリーンにしてみれば、いつばれてしまうかと怖かった。
先ほどのように、彼の心の声にすぐ反応し、動揺してしまうからだ。
だからなるべく彼から離れていたいのだが、そうすると今度は、彼の心に浮かぶ言葉ははっきりとは読めなくなる。
なんとか、自分の魔力の秘密を悟られずに、知りたいことの答えを彼から引き出すことは出来ないだろうか……。
いや、知りたいことが多すぎる。とても全部は無理だと、アイリーンは思った。
彼女が何より一番知りたいと思うのはティレルのことだった。
彼は何者なのか……。
そしてギメリックは本当に彼を殺すつもりなのか。
もしも、そうなら……この男はやはり自分の敵なのだ……。
どういう態度を取って良いのか彼女自身、決めかねていたのだ。
知りたいことは山ほどあったが、ギメリックは何を聞いても「今にわかる」と、皮肉っぽい薄笑いを浮かべるか、そうでなければ無表情に言うばかりだった。
あまりうるさく聞くと、眼光鋭く睨まれた。
彼のトパーズの瞳に射るように見据えられると、恐ろしさに身がすくみ、何も言えなくなる。
そう、アイリーンはやはり、彼が怖いのだった。
魔力を自分のものとした今、アイリーンにも感じることが出来る。
彼の恐ろしいほどに強大な力……そしてその力ゆえに彼が常にのぞき見ている、気の遠くなるような闇の深淵を……。
その闇の救いようのない深さに、彼女の心はおびえた。
まるで底なしの井戸の縁に危うく立って、果てのない闇の底をのぞき込んでいるような気分だった。
けれど、そっけない態度や冷淡そうな言葉とはうらはらに、彼が自分の怪我の具合にとても気を配ってくれていることに、アイリーンは気づいていた。
ここまでの旅の間、彼は極力アイリーンを歩かさないように気をつけ、馬への乗り降りにも魔力を使って彼女を移動させた。
おかげで足はすっかり回復し、今日は久しぶりに靴を履いたのだ。
今も彼は、アイリーンの歩調に合わせ、さりげなくゆっくり歩いてくれているようだった。
結局、ギメリックが自分の正体を明かした時と、彼のわけのわからなさは全く変わっていなかった。
でも、今日は新月……。
夢の中でティレルが言っていたとおり、彼女の魔力は倍になっている。
それは、体が触れているとギメリックの思考が読めてしまうことですぐにわかった。
どうも今日はうまく結界が張れないようだと言ってごまかしていたが、その実アイリーンは一生懸命自分の魔力の気配をシールドしていた。
しかし2倍になった魔力の気配は今の彼女の力では隠しきれなかった。
だから今日は夜が明けてもそのまま、ギメリックが二人分の結界を張っているのだった。
ギメリックは彼女がまだ力を使うことに不慣れだから波があるのだろうと納得したようだったが、アイリーンにしてみれば、いつばれてしまうかと怖かった。
先ほどのように、彼の心の声にすぐ反応し、動揺してしまうからだ。
だからなるべく彼から離れていたいのだが、そうすると今度は、彼の心に浮かぶ言葉ははっきりとは読めなくなる。
なんとか、自分の魔力の秘密を悟られずに、知りたいことの答えを彼から引き出すことは出来ないだろうか……。
いや、知りたいことが多すぎる。とても全部は無理だと、アイリーンは思った。
彼女が何より一番知りたいと思うのはティレルのことだった。
彼は何者なのか……。
そしてギメリックは本当に彼を殺すつもりなのか。
もしも、そうなら……この男はやはり自分の敵なのだ……。
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