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第2部.アドニア〜リムウル 第3章
10.忘れ物
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レスターは少年を従えたまま、チラホラと人影の見えだした街の大通りをゆっくりと進んで行った。
そして、先ほど出発してきたばかりの、宿屋の中庭へと再び馬を乗り入れた。
宿屋の主人が少し驚いた顔をして、馬の手綱を取りにやってくる。
「おや旦那、お忘れ物でも……?」
「うん、ちょっとね。彼はまだ寝てるね?」
「へえ。物音一つしませんや」
レスターはうなずくと、少年についてくるようにと目線でうながし、先に立って宿屋の中に入って行った。
階段を上ると同じような扉が並ぶ廊下に出る。
ある部屋の前でレスターは立ち止まり、ノックもせずに扉を開けた。
広くもないごくありきたりの、しかし個室らしくベッドは一つしかない部屋だった。
そのベッドに横たわり、一人の男が正体もなく眠っている。ウィリアムだ。
レスターは彼を指さし、少年に言った。
「ちょっと、つねってみてごらん」
「え……、でも……」
躊躇する少年に、レスターはニッコリ笑ってみせる。
「大丈夫。たぶん昼頃まで、何をしても目を覚まさないよ。
もし彼を起こせたら、君を連れて行くと約束してもいい」
それを聞いた少年は大胆になった。思いっきり、彼のほっぺたをつねりあげたのだ。
「う、……ん……」
痛そうに眉をひそめたものの、ウィリアムは目を覚まさなかった。
驚く少年に、レスターは真面目な顔をして言った。
「ぼくが一服盛ったんだ。眠り薬をね」
少年は目を見開き、ゴクリとつばを飲み込んだ。
「なんで、そんな……」
「こうでもしなきゃ、彼がついてきてしまうからだよ。
この男はぼくの従者でね。彼とぼくが7歳の時から、ずっと一緒にいたんだ。
だけど今はこうして彼をだましてまで、ここへ置いて行かなくてはならない。
ぼくには、一人で行かなくてはならない事情があるんだ」
少年はレスターが、ただ迷惑というだけで同行を拒むのではないことを理解した。
しかしそれでも、ついて行きたかった。
実際、レスターの次の言葉を聞くまでは、こっそり隠れてでも、後をつけていくつもりだった。
「ダメだと言っても、君は無理矢理ついてくるつもりかも知れないが……そうなれば、ぼくは必ずこれと同じことを、君にしなければならなくなる」
レスターは、いったん言葉を切り、そして言った。
「せっかく友達になった君に、そんなことはしたくない。……させないで欲しい……頼むよ……」
瞳を曇らせたレスターの顔を、少年の利発そうな青い瞳がじっと見返した。
そして、先ほど出発してきたばかりの、宿屋の中庭へと再び馬を乗り入れた。
宿屋の主人が少し驚いた顔をして、馬の手綱を取りにやってくる。
「おや旦那、お忘れ物でも……?」
「うん、ちょっとね。彼はまだ寝てるね?」
「へえ。物音一つしませんや」
レスターはうなずくと、少年についてくるようにと目線でうながし、先に立って宿屋の中に入って行った。
階段を上ると同じような扉が並ぶ廊下に出る。
ある部屋の前でレスターは立ち止まり、ノックもせずに扉を開けた。
広くもないごくありきたりの、しかし個室らしくベッドは一つしかない部屋だった。
そのベッドに横たわり、一人の男が正体もなく眠っている。ウィリアムだ。
レスターは彼を指さし、少年に言った。
「ちょっと、つねってみてごらん」
「え……、でも……」
躊躇する少年に、レスターはニッコリ笑ってみせる。
「大丈夫。たぶん昼頃まで、何をしても目を覚まさないよ。
もし彼を起こせたら、君を連れて行くと約束してもいい」
それを聞いた少年は大胆になった。思いっきり、彼のほっぺたをつねりあげたのだ。
「う、……ん……」
痛そうに眉をひそめたものの、ウィリアムは目を覚まさなかった。
驚く少年に、レスターは真面目な顔をして言った。
「ぼくが一服盛ったんだ。眠り薬をね」
少年は目を見開き、ゴクリとつばを飲み込んだ。
「なんで、そんな……」
「こうでもしなきゃ、彼がついてきてしまうからだよ。
この男はぼくの従者でね。彼とぼくが7歳の時から、ずっと一緒にいたんだ。
だけど今はこうして彼をだましてまで、ここへ置いて行かなくてはならない。
ぼくには、一人で行かなくてはならない事情があるんだ」
少年はレスターが、ただ迷惑というだけで同行を拒むのではないことを理解した。
しかしそれでも、ついて行きたかった。
実際、レスターの次の言葉を聞くまでは、こっそり隠れてでも、後をつけていくつもりだった。
「ダメだと言っても、君は無理矢理ついてくるつもりかも知れないが……そうなれば、ぼくは必ずこれと同じことを、君にしなければならなくなる」
レスターは、いったん言葉を切り、そして言った。
「せっかく友達になった君に、そんなことはしたくない。……させないで欲しい……頼むよ……」
瞳を曇らせたレスターの顔を、少年の利発そうな青い瞳がじっと見返した。
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