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第2部.アドニア〜リムウル 第3章
6.手がかり
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「もう何日もここに足止めだ。手がかりが途絶えてしまって……いくら探しても見つからない。
この先の次の都市と言えばもう国境の向こうだ、そうホイホイ行ったり来たりはできない。
行く先はエンドルーアだろうとは思うが、確証があるわけじゃないし……万が一、そうじゃなかった場合のことを考えると、気安く国境を越えるわけにはいかない。
実際、真っ直ぐエンドルーアに向かうならこの街道よりもう一本、西の街道を通った方が近道だしね。
せめて国境を越えたのかどうか、確かな情報が欲しいんだが……」
「わかりました、お任せ下さい! 明日、夜明けと共に私が……」
そう言いかける彼を、レスターは疲れたようなそぶりで制止した。
「やめてくれ!」
怪訝そうに首をかしげるウィリアムに、げんなりした様子でレスターは言う。
「ぼくが聞き回ってもう十分目立ってしまってるんだ、この上お前まで同じことを聞いて回ったら……引かなくていい余計な注意を引いてしまうことになりかねない、頼むからおとなしくしててくれ」
「注意、とは? 誰が注意をすると言うのですか?」
レスターは難しい顔をして、唇を引き結んだ。
「もちろん、エンドルーアの密偵だよ」
ウィリアムの目が見開かれた。
「密偵?! エンドルーアの?! それはいったい、どういうことですか?」
顔色を変えるウィリアムを見てレスターは少し考え込み、それから、にっこり笑った。
「まぁそのことは、追々話すよ。先は長いからね。
それより今夜は、付き合ってくれないか?
せっかくお前が来てくれたんだ、ぼくも久しぶりに、羽目を外して楽しむことにしよう」
と、テーブルの上のワインの瓶を指差す。
ウィリアムはその笑顔に不審そうな目を向け、憮然とした表情になった。
「先ほどの酒場で、もう随分楽しまれたご様子でしたがね。
……それにあなた、何かたくらんでませんか?」
「……たくらむ?」
“どうしてこいつは、他のことにはてんで無頓着なくせに……ぼくの悪だくみには、こうも敏感なんだ?”
内心そう思いながらもレスターは、驚いた顔をして言った。
「何言ってるんだ。ぼくはただ、この滅入った気分を晴らしたいだけだよ。
まさかぼくがお前を酔いつぶして置いていくとでも?
そんならお互い、飲み過ぎないよう気をつけようじゃないか。
ぼくだって寝過ごしたくはない。……それでいいだろう?」
この先の次の都市と言えばもう国境の向こうだ、そうホイホイ行ったり来たりはできない。
行く先はエンドルーアだろうとは思うが、確証があるわけじゃないし……万が一、そうじゃなかった場合のことを考えると、気安く国境を越えるわけにはいかない。
実際、真っ直ぐエンドルーアに向かうならこの街道よりもう一本、西の街道を通った方が近道だしね。
せめて国境を越えたのかどうか、確かな情報が欲しいんだが……」
「わかりました、お任せ下さい! 明日、夜明けと共に私が……」
そう言いかける彼を、レスターは疲れたようなそぶりで制止した。
「やめてくれ!」
怪訝そうに首をかしげるウィリアムに、げんなりした様子でレスターは言う。
「ぼくが聞き回ってもう十分目立ってしまってるんだ、この上お前まで同じことを聞いて回ったら……引かなくていい余計な注意を引いてしまうことになりかねない、頼むからおとなしくしててくれ」
「注意、とは? 誰が注意をすると言うのですか?」
レスターは難しい顔をして、唇を引き結んだ。
「もちろん、エンドルーアの密偵だよ」
ウィリアムの目が見開かれた。
「密偵?! エンドルーアの?! それはいったい、どういうことですか?」
顔色を変えるウィリアムを見てレスターは少し考え込み、それから、にっこり笑った。
「まぁそのことは、追々話すよ。先は長いからね。
それより今夜は、付き合ってくれないか?
せっかくお前が来てくれたんだ、ぼくも久しぶりに、羽目を外して楽しむことにしよう」
と、テーブルの上のワインの瓶を指差す。
ウィリアムはその笑顔に不審そうな目を向け、憮然とした表情になった。
「先ほどの酒場で、もう随分楽しまれたご様子でしたがね。
……それにあなた、何かたくらんでませんか?」
「……たくらむ?」
“どうしてこいつは、他のことにはてんで無頓着なくせに……ぼくの悪だくみには、こうも敏感なんだ?”
内心そう思いながらもレスターは、驚いた顔をして言った。
「何言ってるんだ。ぼくはただ、この滅入った気分を晴らしたいだけだよ。
まさかぼくがお前を酔いつぶして置いていくとでも?
そんならお互い、飲み過ぎないよう気をつけようじゃないか。
ぼくだって寝過ごしたくはない。……それでいいだろう?」
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