薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
上 下
74 / 198
第2部.アドニア〜リムウル 第3章

6.手がかり

しおりを挟む
「もう何日もここに足止めだ。手がかりが途絶えてしまって……いくら探しても見つからない。

 この先の次の都市と言えばもう国境の向こうだ、そうホイホイ行ったり来たりはできない。

 行く先はエンドルーアだろうとは思うが、確証があるわけじゃないし……万が一、そうじゃなかった場合のことを考えると、気安く国境を越えるわけにはいかない。

 実際、真っ直ぐエンドルーアに向かうならこの街道よりもう一本、西の街道を通った方が近道だしね。

 せめて国境を越えたのかどうか、確かな情報が欲しいんだが……」

「わかりました、お任せ下さい! 明日、夜明けと共に私が……」

そう言いかける彼を、レスターは疲れたようなそぶりで制止した。

「やめてくれ!」

怪訝そうに首をかしげるウィリアムに、げんなりした様子でレスターは言う。

「ぼくが聞き回ってもう十分目立ってしまってるんだ、この上お前まで同じことを聞いて回ったら……引かなくていい余計な注意を引いてしまうことになりかねない、頼むからおとなしくしててくれ」

「注意、とは? 誰が注意をすると言うのですか?」

レスターは難しい顔をして、唇を引き結んだ。

「もちろん、エンドルーアの密偵だよ」

ウィリアムの目が見開かれた。

「密偵?! エンドルーアの?! それはいったい、どういうことですか?」

顔色を変えるウィリアムを見てレスターは少し考え込み、それから、にっこり笑った。

「まぁそのことは、追々話すよ。先は長いからね。

 それより今夜は、付き合ってくれないか?

 せっかくお前が来てくれたんだ、ぼくも久しぶりに、羽目を外して楽しむことにしよう」

と、テーブルの上のワインの瓶を指差す。

ウィリアムはその笑顔に不審そうな目を向け、憮然とした表情になった。

「先ほどの酒場で、もう随分楽しまれたご様子でしたがね。
 ……それにあなた、何かたくらんでませんか?」

「……たくらむ?」

“どうしてこいつは、他のことにはてんで無頓着なくせに……ぼくの悪だくみには、こうも敏感なんだ?”

内心そう思いながらもレスターは、驚いた顔をして言った。

「何言ってるんだ。ぼくはただ、この滅入った気分を晴らしたいだけだよ。

 まさかぼくがお前を酔いつぶして置いていくとでも?

 そんならお互い、飲み過ぎないよう気をつけようじゃないか。

 ぼくだって寝過ごしたくはない。……それでいいだろう?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...