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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
17.危機
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ルバートはさらに目を細め、薄い唇に笑みを浮かべる。
「アドニアに来る前は、エンドルーアの王宮に出入りしていたからな。
私がエンドルーア王宮に初めて仕官した頃、姫は我らの崇拝の的だったが……。
フフ、その娘であるお前を私に与えてくれた、運命の巡り合わせに乾杯だ」
ルバートは高く杯を差し上げて、その中身を一気に飲み干した。
「……それにしても、おかしいではないか。アドニア王が魔力を持っているはずがない。
お前の母も、魔力は持たなかった。となると、お前の父は誰か?……ということになるな」
杯をテーブルに置くと、にぃっと嫌な笑いを浮かべ、ルバートは立ち上がった。
危険を感じてアイリーンも立ち上がる。
“だまされちゃダメ、私が動揺すると思って言ってるだけよ……”
アイリーンは必死になってその思いにしがみつこうとした。
しかし兄から聞いた言葉が、頭の中によみがえる。
“君が少しだけ、生まれ月より早く誕生したものだから、君の母上はエンドルーアで身ごもったのだと言う下世話な輩がいるんだよ”
バカバカしいわ、エンドルーアで誰かと結婚していたのを隠して、母がアドニアに嫁いできたとでも言うの?……そんなはずないじゃない……。お父様も、お母様を信じていると言っていた……。
結婚すれば自然に子供が授かると思っているアイリーンはそう考え、むしろ馴染みのない、魔力がどうこうという話の方が信憑性に欠けると思った。
「隔世遺伝、ってこともあるでしょ?」
「……ないな。女の魔力はほとんどが大人になるまでに消えてしまうとはいえ、魔力を持つか持たないかは、3才の時の儀式で確実に確かめられる。
魔力の遺伝を持たない親からは、魔力を持つ子供は生まれない。エンドルーアでの長年の研究の結果、導き出された事実だ」
「……」
アイリーンはそんなのおかしいと思ったが、言葉には出さず、近づいてくるルバートを避けるように後ずさりながら彼をにらんだ。
「そして魔力の血統は必ずしるしとしてどこかに現れる。
銀髪や黒髪、紫の瞳、滅多にないがトパーズの瞳……」
ルバートは逃げようとするアイリーンの体を再び魔力で縛り、自分の元に引き寄せた。
腕を掴んで顔を近づけ、彼女の瞳をのぞき込む。
「お前の瞳は珍しいな。それほどの魔力を持ちながら、瞳が完全に紫ではないというのも……。フェリシア姫は紫の瞳だったが……」
「それなら、やっぱり母は魔力を持っていたんだわ」
必死に、魔力の戒めを解こうとしながら、アイリーンは言った。
「それは違うな。黒髪とトパーズの瞳は強い魔力を持って生まれたしるし、数も少ないが……銀髪や紫の瞳はエンドルーアではありふれている。その者が必ずしも魔力を持つとは限らないのだ」
ルバートは彼女の体を抱き上げ、奥の扉へと向かった。
「くくく、結界は解いてあるぞ。やつを呼べ! お前の力で心話が届く範囲にいれば、必ず来るだろう」
いかにも、準備万端ととのえてある、という口ぶりだった。
「……来ないわよ。絶対、呼ばないから」
「さて、その強がりがどこまで持つか見物だな」
ルバートの顔が近づいたと思ったら、生暖かいものが彼女の唇を塞いだ。
驚きのため一瞬、彼女は目を見開らき、それから硬く閉じた。
“いやっ!!”
顔を背けようとするが、痛みを覚えるほどに全身を魔力でしめつけられている上、さらにルバートの腕が強く頭を押さえていて身動きができない。
“……苦しい……! 放して!!”
息ができず、彼女の喉の奥から、苦しげな悲鳴が漏れる。
それを楽しむように、ルバートは執拗に彼女の唇をむさぼり続けた。
“い…やっ……!!”
「アドニアに来る前は、エンドルーアの王宮に出入りしていたからな。
私がエンドルーア王宮に初めて仕官した頃、姫は我らの崇拝の的だったが……。
フフ、その娘であるお前を私に与えてくれた、運命の巡り合わせに乾杯だ」
ルバートは高く杯を差し上げて、その中身を一気に飲み干した。
「……それにしても、おかしいではないか。アドニア王が魔力を持っているはずがない。
お前の母も、魔力は持たなかった。となると、お前の父は誰か?……ということになるな」
杯をテーブルに置くと、にぃっと嫌な笑いを浮かべ、ルバートは立ち上がった。
危険を感じてアイリーンも立ち上がる。
“だまされちゃダメ、私が動揺すると思って言ってるだけよ……”
アイリーンは必死になってその思いにしがみつこうとした。
しかし兄から聞いた言葉が、頭の中によみがえる。
“君が少しだけ、生まれ月より早く誕生したものだから、君の母上はエンドルーアで身ごもったのだと言う下世話な輩がいるんだよ”
バカバカしいわ、エンドルーアで誰かと結婚していたのを隠して、母がアドニアに嫁いできたとでも言うの?……そんなはずないじゃない……。お父様も、お母様を信じていると言っていた……。
結婚すれば自然に子供が授かると思っているアイリーンはそう考え、むしろ馴染みのない、魔力がどうこうという話の方が信憑性に欠けると思った。
「隔世遺伝、ってこともあるでしょ?」
「……ないな。女の魔力はほとんどが大人になるまでに消えてしまうとはいえ、魔力を持つか持たないかは、3才の時の儀式で確実に確かめられる。
魔力の遺伝を持たない親からは、魔力を持つ子供は生まれない。エンドルーアでの長年の研究の結果、導き出された事実だ」
「……」
アイリーンはそんなのおかしいと思ったが、言葉には出さず、近づいてくるルバートを避けるように後ずさりながら彼をにらんだ。
「そして魔力の血統は必ずしるしとしてどこかに現れる。
銀髪や黒髪、紫の瞳、滅多にないがトパーズの瞳……」
ルバートは逃げようとするアイリーンの体を再び魔力で縛り、自分の元に引き寄せた。
腕を掴んで顔を近づけ、彼女の瞳をのぞき込む。
「お前の瞳は珍しいな。それほどの魔力を持ちながら、瞳が完全に紫ではないというのも……。フェリシア姫は紫の瞳だったが……」
「それなら、やっぱり母は魔力を持っていたんだわ」
必死に、魔力の戒めを解こうとしながら、アイリーンは言った。
「それは違うな。黒髪とトパーズの瞳は強い魔力を持って生まれたしるし、数も少ないが……銀髪や紫の瞳はエンドルーアではありふれている。その者が必ずしも魔力を持つとは限らないのだ」
ルバートは彼女の体を抱き上げ、奥の扉へと向かった。
「くくく、結界は解いてあるぞ。やつを呼べ! お前の力で心話が届く範囲にいれば、必ず来るだろう」
いかにも、準備万端ととのえてある、という口ぶりだった。
「……来ないわよ。絶対、呼ばないから」
「さて、その強がりがどこまで持つか見物だな」
ルバートの顔が近づいたと思ったら、生暖かいものが彼女の唇を塞いだ。
驚きのため一瞬、彼女は目を見開らき、それから硬く閉じた。
“いやっ!!”
顔を背けようとするが、痛みを覚えるほどに全身を魔力でしめつけられている上、さらにルバートの腕が強く頭を押さえていて身動きができない。
“……苦しい……! 放して!!”
息ができず、彼女の喉の奥から、苦しげな悲鳴が漏れる。
それを楽しむように、ルバートは執拗に彼女の唇をむさぼり続けた。
“い…やっ……!!”
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