薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第2章

14.動揺

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アイリーンは彼の説明を聞くうち、激しい動揺を覚え、目眩がしてきた。
キュッと目をつむり、気分の悪さに耐える。

「それからもう一つ。あなたの結界はほとんど物の役に立っていませんよ。
 彼の結界の中から出てしまえば、あなたはとても無防備に自分の魔力の気配をさらしている」

「ええ、心話を習ったときに一緒に教わったけど、まだ私、うまくできないみたい……」

目を閉じたまま答え、それから目を開けると、ちょうと男が何かに打たれたように顔を上げるところだった。

「すみません……もう、行かねばなりません……主人が呼んでいます……」

男は苦痛に顔をゆがめて彼女にそう告げ、歩きだした。
ここでは、主人の呼び出しとは苦痛を伴うものらしい。

つくづく、あの、ティレルとは似ても似つかない銀髪の男は、ひどい人間なのだろう。

「魔力の知覚をずっと張っておいてください。

 私がタイミングを見計らって一瞬だけ、結界を解きますから……その時を見逃さずに、彼を呼んで……。

 後は、できる限り身の回りに結界を張って、少しでも多く時間をかせぎなさい……」

アイリーンは恐怖を覚えながらも、男に向かって言った。

「ダメ、私にはわからないかも知れない。
 それにそんなことしたら……きっと、あなたがあの人に、ひどい目に会わされるわ」

「……この館で魔力を持つ者はもはや私と主人だけです。
 主人の注意があなたに向いていれば、何とかごまかせます……」

それでも、危険な賭であることに変わりはない。アイリーンにはそれがわかった。

が、どうすればよいのだろう? この男に危険を冒させる以外に、何か自分にできることはないのだろうか?

そこでアイリーンは思い出した。先ほど見た夢のことを。

前に見た、恐ろしいほどの現実感を伴ったあの殺戮の夢とはちがって、とりとめのない散漫な印象の夢だった……。けれどその中にいくつか、重要な暗示があったような気がする。

アイリーンは一生懸命考えた。

……そう、魔力のことだ。
力の、集め方……そして、ティレルと自分の魔力が、二人で一つだということ……。

アイリーンはその時、ハッとして自分を抱いている男の顔を再び見上げた。

「そうだわ……ティレルのことを教えて! 彼を知ってる?」

「ティレル……とは、レティス卿のご子息の、ですか?」

「え……彼はエンドルーア王家の第二王子と思っていたけど……違うの?
 青い瞳と銀の髪の、私と同じ歳くらいの……」

「では間違いないでしょう……私はお会いしたことはありませんが。
 彼は行方知れずと聞いています、10年前から……彼のお父上、レティス卿とともに」

「えっ……」

そんな……そんなはずはないわ。だって彼はあそこにいたもの……。
あれはきっと、エンドルーアの、王宮だったに違いないのに……。

それとも、あれはただの夢だったの……?
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