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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
6.反抗
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背後からの声に驚いて、アイリーンは振り返った。
エリアードが目を開け、部屋の向こうから、こちらを見つめていた。
「魔力で誰かを呼ぶなど……敵に自分たちはここだと教えるようなものです、わからないのですか?」
「魔力……?」アイリーンは当惑した。
「私、魔力で、呼んでいた?……ごめんなさい」
「……眠りにつく前に部屋の周囲に結界を張っておきましたから、今回は大事ないと思いますが……もう2度と、こんな真似はやめてください」
「……」
アイリーンは押し黙った。
心でティレルに呼びかけることは、子供の頃からずっとしていることで、もう半ば習慣のようになってしまっている。
魔力に目覚めた今、無意識にその力を使っていると知っても、どうすることもできない。
守れないとわかっている約束を口にすることは、彼女にはできなかった。
「どうしたのです? 約束して下さらないのですか?」
エリアードは起きあがってきて彼女のそばに立った。
背の高い彼に向かい合って立たれると、威圧感で息が詰まりそうになる。
彼の苛立ちが伝わってきて、ますます彼女を萎縮させる。
“何を考えているのです? どうして答えて下さらないのです?”
頭の中に直接響いてきた彼の声に、アイリーンははじかれたように顔を上げた。
非難するような、怒っているような彼の顔を見て、アイリーンは自分の中にもフツフツと怒りが湧いてくるのを感じた。
「やめてよ! 必要もないのに心を読もうとしないで! 私には、好きなように何かを思う自由さえないの?」
「アイリーン様……?」
たまに会う人間に無視されたり、意地悪をされることには耐えてきたアイリーンだった。
しかし四六時中そばにいる人間に、しょっちゅうイライラされることには慣れていなかった。
それは当然、アイリーンの中にも、ストレスを溜めていたのだ。
エリアードは巧みにその苛立ちを隠していたが、態度や言葉に表れていなくても、魔力を持つ者同士にとって、お互いがどんな気分でいるかということぐらいは、手に取るようにわかってしまう。
しかもアイリーンは特に、そういう力に長けているようだった。
「もういいわ、あなたはアドニアに帰って! 私に魔力の使い方を教えてくれたら、それでいい、私は一人でレナンダールへ行くわ!」
「何を、バカな……! そんなこと、できるはずがないでしょう!」
突然の彼女の反抗に、エリアードはとまどいと同時に激しい怒りがまたつのってくるのを感じていた。
“いったい何のために、俺がこれほど苦労していると思っているんだ……!”
とりあえずは、彼女を殺すことも、傷つけることもするまいと思った矢先だった。
しかし目眩がするほどの怒りの中で、その迷いがまた頭をもたげてくる。
それはほんのつかの間だった。
しかし彼から発せられる殺気を、アイリーンは敏感に感じ取った。
突然、忘れていた彼への恐れを思い出す。
思わず後ろへ下がると、背中に窓のふちがぶつかった。
「危ないっ!」
素早く前に出たエリアードが彼女を抱きとめる。
危うく二階の窓から落ちるところだった。
自分の腕の中で大きく息をつき、かすかに震えるアイリーンを、彼はそのまましばらく抱きしめていた。
エリアードが目を開け、部屋の向こうから、こちらを見つめていた。
「魔力で誰かを呼ぶなど……敵に自分たちはここだと教えるようなものです、わからないのですか?」
「魔力……?」アイリーンは当惑した。
「私、魔力で、呼んでいた?……ごめんなさい」
「……眠りにつく前に部屋の周囲に結界を張っておきましたから、今回は大事ないと思いますが……もう2度と、こんな真似はやめてください」
「……」
アイリーンは押し黙った。
心でティレルに呼びかけることは、子供の頃からずっとしていることで、もう半ば習慣のようになってしまっている。
魔力に目覚めた今、無意識にその力を使っていると知っても、どうすることもできない。
守れないとわかっている約束を口にすることは、彼女にはできなかった。
「どうしたのです? 約束して下さらないのですか?」
エリアードは起きあがってきて彼女のそばに立った。
背の高い彼に向かい合って立たれると、威圧感で息が詰まりそうになる。
彼の苛立ちが伝わってきて、ますます彼女を萎縮させる。
“何を考えているのです? どうして答えて下さらないのです?”
頭の中に直接響いてきた彼の声に、アイリーンははじかれたように顔を上げた。
非難するような、怒っているような彼の顔を見て、アイリーンは自分の中にもフツフツと怒りが湧いてくるのを感じた。
「やめてよ! 必要もないのに心を読もうとしないで! 私には、好きなように何かを思う自由さえないの?」
「アイリーン様……?」
たまに会う人間に無視されたり、意地悪をされることには耐えてきたアイリーンだった。
しかし四六時中そばにいる人間に、しょっちゅうイライラされることには慣れていなかった。
それは当然、アイリーンの中にも、ストレスを溜めていたのだ。
エリアードは巧みにその苛立ちを隠していたが、態度や言葉に表れていなくても、魔力を持つ者同士にとって、お互いがどんな気分でいるかということぐらいは、手に取るようにわかってしまう。
しかもアイリーンは特に、そういう力に長けているようだった。
「もういいわ、あなたはアドニアに帰って! 私に魔力の使い方を教えてくれたら、それでいい、私は一人でレナンダールへ行くわ!」
「何を、バカな……! そんなこと、できるはずがないでしょう!」
突然の彼女の反抗に、エリアードはとまどいと同時に激しい怒りがまたつのってくるのを感じていた。
“いったい何のために、俺がこれほど苦労していると思っているんだ……!”
とりあえずは、彼女を殺すことも、傷つけることもするまいと思った矢先だった。
しかし目眩がするほどの怒りの中で、その迷いがまた頭をもたげてくる。
それはほんのつかの間だった。
しかし彼から発せられる殺気を、アイリーンは敏感に感じ取った。
突然、忘れていた彼への恐れを思い出す。
思わず後ろへ下がると、背中に窓のふちがぶつかった。
「危ないっ!」
素早く前に出たエリアードが彼女を抱きとめる。
危うく二階の窓から落ちるところだった。
自分の腕の中で大きく息をつき、かすかに震えるアイリーンを、彼はそのまましばらく抱きしめていた。
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