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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
4.いらだち
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腕の中の心地よい温もりを手放すのがためらわれ、ついそのタイミングを測りかねているうちに……気がつくとアイリーンは、安らかな寝息を立て始めていた。
“しまった……”
焦ってみても後の祭りである。いまさらどうしようもない。
“何をやっているんだ、俺は……”
目的を果たすため、長い間探し求めていたフレイヤの涙を、やっと手に入れたというのに。
……こんな少女一人に振り回されているとは……。
全ては、天下無敵の力を与えてくれるはずだったその宝石、フレイヤの涙に裏切られたことが誤算の始まりだった。
彼は、それに気づいたときの、アイリーンに対する凄まじい怒りと憎しみを思い出した。
“……そうだ。こんなことをしている場合ではない。やはりひと思いにこいつを殺して、手っ取り早く……”
彼の心に不穏な思いが生まれた、その時。
背中を向けていたアイリーンが寝返りを打ち、庇護を求めるひな鳥のように体を寄せてきた。
彼女の髪の香りが、甘く鼻腔をくすぐる。
思わず、柔らかなその体を抱く腕に力を込めてしまい、彼は心の中で舌打ちをした。
“くそ……俺はお前の保護者じゃない、むしろ敵なんだぞ……”
そもそも自分が彼女や彼女の父をあざむいてアドニア国の騎士を装ったのだ。
彼女の強い魔力が自分の正体を見破らせるのではないかと警戒し、エリアードの記憶を探って彼の生い立ちを頭に入れておいた。
エリアードの魔力に関すること以外は、彼女に語ったことはほぼ真実だったから、説得力もあっただろう。
おかげで、すっかり彼を信じたアイリーンは安心しきっている。
そのことに、逆にいらだちを覚えている自分が不可解だった。
“それとも……”
彼は魔力でそっと彼女の体をわずかばかり持ち上げ、下敷きになっていた自分の腕を引き抜いた。
上体を起こすと片ひじをついて頭を支え、無防備に眠っている彼女の顔を眺める。
魔力のおかげでかなり夜目が利くため、間近で見る彼女のなめらかな頬に、長いまつげが落とす一本一本の影をも見分けることができた。
“絶好のシチュエーションだ。この際、もう一つの手段に出るか……?”
わずかに身を乗り出すだけで、息がかかるほど彼女の顔が近くなる。
彼はふと、無邪気に眠るアイリーンの寝顔の上に、銀の髪の少年の面影を重ねた。
“あれはいつのことだったろう。幼いあいつの遊び相手になって、じゃれあうようにむつみ合ったあの日々は……”
それは彼にとって、今はもう、あまりにも遠い記憶だった。
“……ティレル。お前の大切な者を俺が奪ったと知ったら、お前はどうするかな……”
“しまった……”
焦ってみても後の祭りである。いまさらどうしようもない。
“何をやっているんだ、俺は……”
目的を果たすため、長い間探し求めていたフレイヤの涙を、やっと手に入れたというのに。
……こんな少女一人に振り回されているとは……。
全ては、天下無敵の力を与えてくれるはずだったその宝石、フレイヤの涙に裏切られたことが誤算の始まりだった。
彼は、それに気づいたときの、アイリーンに対する凄まじい怒りと憎しみを思い出した。
“……そうだ。こんなことをしている場合ではない。やはりひと思いにこいつを殺して、手っ取り早く……”
彼の心に不穏な思いが生まれた、その時。
背中を向けていたアイリーンが寝返りを打ち、庇護を求めるひな鳥のように体を寄せてきた。
彼女の髪の香りが、甘く鼻腔をくすぐる。
思わず、柔らかなその体を抱く腕に力を込めてしまい、彼は心の中で舌打ちをした。
“くそ……俺はお前の保護者じゃない、むしろ敵なんだぞ……”
そもそも自分が彼女や彼女の父をあざむいてアドニア国の騎士を装ったのだ。
彼女の強い魔力が自分の正体を見破らせるのではないかと警戒し、エリアードの記憶を探って彼の生い立ちを頭に入れておいた。
エリアードの魔力に関すること以外は、彼女に語ったことはほぼ真実だったから、説得力もあっただろう。
おかげで、すっかり彼を信じたアイリーンは安心しきっている。
そのことに、逆にいらだちを覚えている自分が不可解だった。
“それとも……”
彼は魔力でそっと彼女の体をわずかばかり持ち上げ、下敷きになっていた自分の腕を引き抜いた。
上体を起こすと片ひじをついて頭を支え、無防備に眠っている彼女の顔を眺める。
魔力のおかげでかなり夜目が利くため、間近で見る彼女のなめらかな頬に、長いまつげが落とす一本一本の影をも見分けることができた。
“絶好のシチュエーションだ。この際、もう一つの手段に出るか……?”
わずかに身を乗り出すだけで、息がかかるほど彼女の顔が近くなる。
彼はふと、無邪気に眠るアイリーンの寝顔の上に、銀の髪の少年の面影を重ねた。
“あれはいつのことだったろう。幼いあいつの遊び相手になって、じゃれあうようにむつみ合ったあの日々は……”
それは彼にとって、今はもう、あまりにも遠い記憶だった。
“……ティレル。お前の大切な者を俺が奪ったと知ったら、お前はどうするかな……”
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