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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
2.用心
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馬を売り買いする商人と話を始めたエリアードのそばに立ち、アイリーンは先ほど買ってもらった紫の石を取り出して、嬉しそうに眺めた。
身につけるのは少し待つように、と言われたそのペンダントは、石にうがたれた穴に金具を通し、そこに細い鎖がつけられている。
まがい物とわかってはいても、長い間、心のよりどころだった母の形見の宝石によく似たその石に、心が慰められた。
同時に、街に入ってからずっとエリアードが自分にイラついているのを感じていたので、思いがけない彼の気遣いが嬉しくもあった。
二人が城を出てから、一週間が経とうとしていた。
すっかり森の旅に慣れたアイリーンは、川で水浴びをすることさえ平気になっていた。
エリアードはいつも紳士的に後ろを向いていてくれたし、盗賊と怪物に襲われたあの夜以来、他の人間に出会うことも一度もなかったからだ。
しかし、アイリーンがエリアードに慣れた、あるいはエリアードが彼女に慣れたかと言うと……それは何とも言えなかった。
二人の間には相変わらず、なにか見えない壁のようなものがあるとアイリーンは感じていた。
エリアードの彼女に接する態度は、あの夜、迷惑ではない、と言ってくれたにもかかわらず、次の朝には元のよそよそしいものに戻ってしまっていた。
それは魔力の使い方を教えて欲しいと、彼女が繰り返し頼んだせいかも知れなかった。
「レナンダールに着くまで、待って下さい」と、困った顔で、彼は言ったのだ。
「攻撃の魔法はパワーが強く、魔力の気配は広範囲に渡って届いてしまう。
それを防ぐには、攻撃の魔法が及ぶさらに外側に、強固な結界を築いておく必要があるのです。
旅の途中で練習をして、もしあなたの魔力が私の結界を破ってしまったら、我々の居場所を敵に嗅ぎつけられてしまいます。
レナンダールに着いたら、時間をかけてしっかりした結界を張りますから、それまで我慢して下さい」
それがもっともな話なのか、どうなのか、アイリーンにはわからない。
そう言われれば、黙って引き下がるしかなかった。
ただ、馬を交換するために、どうしても街へ出る必要があるとなったとき、エリアードは魔力を使って心で会話をする方法を教えてくれた。
人前で彼女の名前を呼ぶわけにはいかないからだ。
いくら国民の前にほとんど姿を見せたことがないと言っても、自国の王女の名前くらいは皆、知っている。
庶民の間でも珍しいというほどではない名前だが、彼女の容姿と物腰とを合わせて考えると、用心に越したことはなかった。
身につけるのは少し待つように、と言われたそのペンダントは、石にうがたれた穴に金具を通し、そこに細い鎖がつけられている。
まがい物とわかってはいても、長い間、心のよりどころだった母の形見の宝石によく似たその石に、心が慰められた。
同時に、街に入ってからずっとエリアードが自分にイラついているのを感じていたので、思いがけない彼の気遣いが嬉しくもあった。
二人が城を出てから、一週間が経とうとしていた。
すっかり森の旅に慣れたアイリーンは、川で水浴びをすることさえ平気になっていた。
エリアードはいつも紳士的に後ろを向いていてくれたし、盗賊と怪物に襲われたあの夜以来、他の人間に出会うことも一度もなかったからだ。
しかし、アイリーンがエリアードに慣れた、あるいはエリアードが彼女に慣れたかと言うと……それは何とも言えなかった。
二人の間には相変わらず、なにか見えない壁のようなものがあるとアイリーンは感じていた。
エリアードの彼女に接する態度は、あの夜、迷惑ではない、と言ってくれたにもかかわらず、次の朝には元のよそよそしいものに戻ってしまっていた。
それは魔力の使い方を教えて欲しいと、彼女が繰り返し頼んだせいかも知れなかった。
「レナンダールに着くまで、待って下さい」と、困った顔で、彼は言ったのだ。
「攻撃の魔法はパワーが強く、魔力の気配は広範囲に渡って届いてしまう。
それを防ぐには、攻撃の魔法が及ぶさらに外側に、強固な結界を築いておく必要があるのです。
旅の途中で練習をして、もしあなたの魔力が私の結界を破ってしまったら、我々の居場所を敵に嗅ぎつけられてしまいます。
レナンダールに着いたら、時間をかけてしっかりした結界を張りますから、それまで我慢して下さい」
それがもっともな話なのか、どうなのか、アイリーンにはわからない。
そう言われれば、黙って引き下がるしかなかった。
ただ、馬を交換するために、どうしても街へ出る必要があるとなったとき、エリアードは魔力を使って心で会話をする方法を教えてくれた。
人前で彼女の名前を呼ぶわけにはいかないからだ。
いくら国民の前にほとんど姿を見せたことがないと言っても、自国の王女の名前くらいは皆、知っている。
庶民の間でも珍しいというほどではない名前だが、彼女の容姿と物腰とを合わせて考えると、用心に越したことはなかった。
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