薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第1章

13.するべきこと

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一刻の後。
ブルーグリーンの瞳を、鳶色の瞳がまっすぐ見据えていた。

「……ごまかされませんよ。
 アイリーン様を助けるだけが目的なら、二人揃って姿を消すなんて下の下の策です。
 それがわからないようなあなたではないでしょう?

 一旦、城下の適当な家にアイリーン様をかくまって、数週間か数ヶ月後に、騒ぎが落ち着いてから出発された方が何倍も逃げやすいし、あなた様へ疑いの目が向けられることもない。

 それなのに、わざわざそんなリスクの高い逃避行に踏み込もうなどと……これを機に、本気で、身分を捨てるおつもりだったのですね?」

“おおっと……!”
内心、天を仰ぎたい気分だったがそれを押さえ、レスターは晴れやかに笑ってみせる。

「そんなことはないよ。……まぁ、そうなってもいいな、とは思ってたけどね」
「レスター様っ!!」

怒りの形相を浮かべ、ウィリアムはテーブルを叩いて立ち上がった。
睨みつけてくる視線に押されるように、レスターは椅子の背もたれに身をあずけ、顔を背けてため息をついた。

「……お前には、かなわないな……」

「当たり前です! 何年あなたの従者をやっていると思ってるんですか。
 どうもおかしいと思ったから、急いで帰ってきたんです。許しませんよ、私は納得できません!」

レスターは額に手をやって大仰に天を仰ぎ、もう一度ため息をついた。

「もっと遠くに追い払っておくんだった……。
 父上のアイリーンへの愛情と、ぼくへの買いかぶりが誤算だったな。
 ……でもぼくは行くつもりだよ」

案外に強い彼の言葉に、ウィリアムは目を見開いた。

「レスター様! なぜあなた様がそうする必要があるのです、カイウス様のことなら……」

「しっ! そうじゃないよ。わかってくれないかな? ぼくの心からの望みなんだ」

「だったらよけいに反対です!
 私の今までの苦労は何だったんです、あなた様の乳兄弟として、あなた様をもり立てるべく必死で、私は……!!」

レスターは苦いものを飲み込んだような顔つきで彼の激した顔を眺めた。

「この際、ハッキリ言うけどね、お前のそういうところが、ぼくを駆り立てたんだよ。
 ぼくにそんな気はさらさらない。この平和なアドニアに、わざわざ争いのタネを蒔かなくてもいいじゃないか?」

ウィリアムはショックを受けた様子で、口をつぐんだ。
うなだれ、気をそがれた声で言う。

「……皆、あなた様を慕って……望んでいるのです。なぜいけないのです?」

「皆、じゃないだろう」レスターは苦笑する。

「あなた様にはその器があります! どうしてわかってくださらないのですか……?!」

「……埒があかないな。ぼくは行くよ。
 ぼくはね、この世で自分がするべきことを、やっと見つけたんだ。
 それはお前たちの望んでいるものとは違う」

「レスター様……!」
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