薄明宮の奪還

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第2部.アドニア〜リムウル 第1章

9.閃光

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恐怖の叫びをかろうじてかみ殺し、思わず、アイリーンがエリアードに体を寄せる。

と、彼はアイリーンの肩を片手でしっかり抱いてマントの下に引き寄せた。

同時に、もう片方の手を前に突き出す。

白い光の球が飛んだ。

ザァッ!!

周囲の木の葉がいっせいに葉ずれの音を立てる。

一瞬にして巻き起こった強い風が、二人の回りで渦を巻いた。

「ギャアアアッ!!」 

怪物が恐ろしい声を上げ、光に包まれて消滅した。

同時に、バババッとまた、閃光がひらめく。


飛んできた矢が、結界にはばまれて消え去っているのだとアイリーンは気づいた。

エリアードの片手から飛んだ次の光球が、二匹目の怪物を消滅させる。閃光が光る。


“すごいわ……! すごいパワー……!!”

アイリーンは目を見張った。

恐ろしいほどの魔力の波動が彼の体から伝わってくる。


見上げると、時折ひらめく閃光に、彼の精悍な横顔が浮かび上がっている。

緊張と集中で引き締まったその顔を見て、アイリーンは、とっさに自分の肩から彼の手をはずして言った。

「私は大丈夫! 自分の結界だけで平気!」

エリアードはわずかに驚いた顔で彼女を見下ろした。が、うなずいて言った。

「油断せずに……すぐ、片を付けます」

自由になった両手を体の前にかかげると、手のひらの間にひときわ大きな光球が生まれる。

その光が三匹の怪物に向かって飛んだ瞬間、アイリーンの体が金縛りにあったように動かなくなった。

「あっ…!!」

怪物たちが消滅するのを目の端に捕らえながら、アイリーンは地面に引き倒された。

ズルズルと引きずられてエリアードから遠ざかりかける。

すかさず手を伸ばしたエリアードに腕をつかまれ、助け起こされた。

そのまま、腰に回された片腕で抱き支えられる。

「だから油断するなと……!」

言いかけたエリアードは彼女の様子を見てキッとあごを引き締めた。

闇の奥を見透かすように、目を細めて周囲を見回す。


“こっちへ来い!!”

アイリーンの頭の中で、抗いがたい声が呼びかけている。

“いや……!!” 

アイリーンは必死で抵抗したが、頭が割れそうに痛い。

“その男は敵だぞ。お前はだまされているのだ”

“……嘘よ!! あなたがそこにいるなら、エリアードは本物のエリアードだわ。
 ……出てきなさいよ、ギメリック!!”

感じる。すぐそばに、あのときのあの男の気配……。

“何を言っている。それは我が主君の名……”あざ笑う声。

固く目を閉じたアイリーンの額から、冷や汗が流れ出した。


今まで矢を射かけていた男たちが剣を手に襲いかかってきた。

キーンッ!!

振り下ろされた剣を、激しい金属音を響かせながら片腕の力だけではじき返す。

“やはり魔力で強化した剣か……結界が効かない”

人数は……と目で数えると、8人だった。

しかも盗賊などとは違う。訓練された剣士だ。

片手でアイリーンを抱えていては思うように戦えない。

しかし今彼女から手を離すわけにはいかなかった。

“一気に片をつける……!!”

エリアードは高く手を差し上げて呪文を叫んだ。

ザーッ!!

凄まじい突風が吹き荒れる。

「うっ……!!」
「ぎゃっ」

吹き散らされた木の葉に混じり、血しぶきが乱れ飛ぶ。

鋭い風の刃に切り裂かれ、血まみれになった男たちが次々と倒れた。
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