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第1部.アドニア 第2章
7.パニック
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“アイリーン……すまない、もう手遅れなんだ……”
ティレル? どこ? どこにいるの?
“ぼくを探してはいけない、アイリーン、君まで危険にさらされることになる……”
会いたいの、ティレル! お願い、会いに来て……
不安な、悲しい気持ちで夢から覚め、アイリーンは目を開けた。
見慣れた自分の部屋の中だった。
「良かった、気が付いたね」
声と同時に、レスターがのぞき込んだ。
「きゃっ!」
「……それはないだろう」
レスターは傷ついた顔をして見せた。
「さすがにレディの寝室に勝手に入るわけにいかないから、いちおう遠慮したんだよ」
アイリーンが寝かされていたのは居間のソファだった。
「……わたし……?」
アイリーンは上体を起こした。
「倒れたこと覚えてる? 事を荒立てると面倒だから、ぼくが君を連れ帰ってきて、密かにここへ医者を呼んだんだ。軽い貧血を起こしただけで、心配はないそうだけど……もっと食べないとダメだと言ってた。そう言えば君、宴でもほとんど食べてなかったね。ここ何日も、まともに食べてないんじゃないの?」
「……」
「そう思って、ほら!」
見ると、テーブルに食べ物が所狭しと並べられている。
「宴の席からくすねてきたんだ。どんどん食べて、ほらほらっ」
「あのぅ……私、そんなに食欲が……」
「アイリーン」
レスターは、彼女の上にのしかかるようにして、触れ合わんばかりに顔を近づけた。
白っぽい金髪がさらさらと顔にかかる。
「おおお、お兄様っ?」
ブルーグリーンの瞳に至近距離から見つめられ、アイリーンはパニック状態になって硬直した。
その頬に手を添えてますます顔を近づけ、真顔で、レスターは言った。
「言うこと聞かないと、口移しで食べさせるよ?」
「たっ、食べますっ、自分でっ!」
アイリーンはあわててレスターを押しのけ、テーブルにあった果物を手に取った。
邪魔にならないよう身を引いたレスターだったが、イチゴをかじっている可愛らしい口もとを眺め、
“ちょっと残念だったかも……”
という不埒な考えを頭に浮かばせた。
しかし、こうしたことに免疫のないアイリーンが、極度の動揺のため半分涙目になって、一生懸命口を動かしているのを見ると、
“少しやりすぎたかな”
という気もしてきた。
そこで努めて優しく声をかけた。
「ああ、ゆっくりでいいから。少しずつね」
アイリーンはチラリと上目遣いにレスターの顔を見て、ホッとした表情を浮かべた。
「……こんなには、とても無理です……」
「食べられるだけでいいから」
アイリーンは一つうなずいて、もう少しだけ果物を食べた。
「もういいの?」
尋ねるレスターに、恐る恐るといった様子でアイリーンがうなずく。
レスターは苦笑した。
「ごめんよ、悪かった。そんなに怖がらないで。わかるだろう? 君の体を心配してるんだよ」
アイリーンは少々疑わしそうではあったが、うなずいて言った。
「ありがとう……本当に色々と……。でも、明日からは私、もう一人で大丈夫ですから」
「何だって? はーん、エディスに何か言われたね?」
「そ、そうじゃないけど、そのぅ、もう充分良くしていただいたわ……」
ティレル? どこ? どこにいるの?
“ぼくを探してはいけない、アイリーン、君まで危険にさらされることになる……”
会いたいの、ティレル! お願い、会いに来て……
不安な、悲しい気持ちで夢から覚め、アイリーンは目を開けた。
見慣れた自分の部屋の中だった。
「良かった、気が付いたね」
声と同時に、レスターがのぞき込んだ。
「きゃっ!」
「……それはないだろう」
レスターは傷ついた顔をして見せた。
「さすがにレディの寝室に勝手に入るわけにいかないから、いちおう遠慮したんだよ」
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「……わたし……?」
アイリーンは上体を起こした。
「倒れたこと覚えてる? 事を荒立てると面倒だから、ぼくが君を連れ帰ってきて、密かにここへ医者を呼んだんだ。軽い貧血を起こしただけで、心配はないそうだけど……もっと食べないとダメだと言ってた。そう言えば君、宴でもほとんど食べてなかったね。ここ何日も、まともに食べてないんじゃないの?」
「……」
「そう思って、ほら!」
見ると、テーブルに食べ物が所狭しと並べられている。
「宴の席からくすねてきたんだ。どんどん食べて、ほらほらっ」
「あのぅ……私、そんなに食欲が……」
「アイリーン」
レスターは、彼女の上にのしかかるようにして、触れ合わんばかりに顔を近づけた。
白っぽい金髪がさらさらと顔にかかる。
「おおお、お兄様っ?」
ブルーグリーンの瞳に至近距離から見つめられ、アイリーンはパニック状態になって硬直した。
その頬に手を添えてますます顔を近づけ、真顔で、レスターは言った。
「言うこと聞かないと、口移しで食べさせるよ?」
「たっ、食べますっ、自分でっ!」
アイリーンはあわててレスターを押しのけ、テーブルにあった果物を手に取った。
邪魔にならないよう身を引いたレスターだったが、イチゴをかじっている可愛らしい口もとを眺め、
“ちょっと残念だったかも……”
という不埒な考えを頭に浮かばせた。
しかし、こうしたことに免疫のないアイリーンが、極度の動揺のため半分涙目になって、一生懸命口を動かしているのを見ると、
“少しやりすぎたかな”
という気もしてきた。
そこで努めて優しく声をかけた。
「ああ、ゆっくりでいいから。少しずつね」
アイリーンはチラリと上目遣いにレスターの顔を見て、ホッとした表情を浮かべた。
「……こんなには、とても無理です……」
「食べられるだけでいいから」
アイリーンは一つうなずいて、もう少しだけ果物を食べた。
「もういいの?」
尋ねるレスターに、恐る恐るといった様子でアイリーンがうなずく。
レスターは苦笑した。
「ごめんよ、悪かった。そんなに怖がらないで。わかるだろう? 君の体を心配してるんだよ」
アイリーンは少々疑わしそうではあったが、うなずいて言った。
「ありがとう……本当に色々と……。でも、明日からは私、もう一人で大丈夫ですから」
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