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第二章・鮮血の清算編
第八話 ・オーバーキル上等
しおりを挟む疾風の刃が異形の魔物を切り裂く。
岩石の弾丸が動く骸を穿つ。
雷撃が生ける屍を消し炭にかえる。
「ふはははは、何が不死か! 何が脅威か! 私の前では動くゴミに等しい」
逞しく、筋骨隆々のスレイプニルに跨り、私の庭とも言える森の中を疾走する。アンデットの集団が行く手を阻むように群がって来るが障害にすらなり得ない。
不死などと言われているが、頭を潰せば死ぬらしい。これは、こいつらの核にあたる魔結晶が頭部にあることが原因だって、セバスが言ってた。
なるほど、冒険者が敬遠するはずである。彼等の飯の種になる魔結晶を、潰さなければ死なない魔物など害虫でしかない。害虫駆除を無償で行う奇人など私一人で十分だ。
それに彼等からすれば、アンデットは普通に驚異なのかもしれない。頭を潰すと言っても正確には、小さな魔結晶をピンポイントで破壊しなければならないので、剣や槍で相手をするのは少々骨が折れるだろう。
まぁ、私の場合は視界に入った瞬間、即死級の魔術を以て確実に駆除していくだけの簡単なシューティングゲーム程度でしかない。たまに弓のような物を射って来る奴もいるが“属性付加・風”を発動した私の身体は風の鎧に守られており、その程度の飛び道具などまるで意味をなさないのだ。
「ふふ、よし! また上がった」
はっきり言って戦いとも言えない、一方的な駆除でしかないのだが経験値はしっかりと入ってくる。
私のテンションも上がりっぱなしだし、先程から大量の経験値が流れ込んで来てレベルアップが捗ること捗ること、某少年誌で戦いの中で成長するという事があるが、それは正に私のことだろう。私が魔物側なら泣いて土下座する程の鬼畜仕様であるが、害虫などに慈悲をかける気等さらさらない。こんな美味しい仕事を逃す訳が無いのだよ。
それと、私のテンションが高いことには、もう一つ理由がある。
人は何かを体外に放出する時、快感を感じる生き物だ。逆に溜め込んでいてはストレスの原因になりかねない。私は、思う存分に魔術を放つ機会には恵まれてこなかったために、知らず知らずの内に鬱憤が溜まっていたらしい。その証拠に、今は気分爽快である。
そもそも、魔術師とは一対多の状況でこそ真価を発揮するもので、今私は初めて魔術師の本懐を味わっている気がするのだ。
数え上げるのも、馬鹿らしくなるほどの動く骸を屠った頃に一つの疑問が浮かび上がってきた。
もう随分な距離を走り回ったんだけど、リッチロードとやらは何処にいるのやら。
中々姿を現さない黒幕に悶々としていると、開けた場所が見えてきた。
いつの間にか村の近にまで来ていたらしい。
よし、今回の被害を一旦視察してみるのもいいだろう。
私は現在の村の様子を確認するべく、村の中に入ることにした。
ーーそこで、目にしたものは私の想像よりも、ずっと残酷な現実であった。
「ひどい、あんまりだ……」
私は、どこかで楽観視していたのではないだろうか? まるで、ゲームでも楽しむように、国啄みの発生もイベントの一つ程度に考えていたのかも知れない。
何度か、お忍びで遊びに来た事もある暖かい趣が印象的な村の姿は、もう失われていた。
家屋は倒壊し、田畑は踏み荒らされ、とても人が住める状況では無くなっていたのだった。
彼等がいったい何をしたというのだろうか……。しかし、国啄みは一種の災害だ。それに、魔物には感情など無いのかも知れない。それでも憤りを感じずにはいられなかった。
自然と、女児のパンツを握る手に力がこもる。
彼等は! 彼等なりに、ささやかでも幸せに生きていた筈だ。それを国啄みは、魔物共は土足で踏みにじったのだ。決して許せるものではないだろう。幸せとは私の人生の命題である。私は、幸せを蔑ろにする者や冒涜する者を許すつもりなど無い! 私は思わず叫び声を上げていた。
「駆逐してやる、一匹残らずバラバラにしてやる!」
私は決意を言葉にすると、ボロ切れのように踏みにじられた、女児のパンツを丁寧に折りたたみ懐に収める。これはお守りとして貰っておこう、きっと私を守ってくれる筈だ。
スレイプニルに跨り先を急ぐ、向かう先は私の家である。
リッチロードは集団を統率出来る程度には知性があるらしい。リッチロードが何らかの形で拠点を設けている可能性が、あるのではないかと考えた故の判断だ。この辺で、一番拠点に適していると思われるのは私の家に違いない。
尤も、私の家も荒地に変えられているかも知れない。できれば、そのままの形で占拠するぐらいに、おさめていてくれればいいんだけど。
私の家に近づくにつれて、魔物達の妨害は苛烈になってきた。どうやら私の家、あるいはその周辺がリッチロードの拠点になっていると見て間違いないようだ。向かう足が自然と早まっていき、ついに私は自宅に到着を果たす。
そこで、本日二度目の衝撃に私は打ちのめされる。
私の視線の先には慣れ親しんだ我が家の姿はもう無くなっていた。
別に荒地に変えられていたわけではない。
なんと、アンティーク調のお洒落な我が家は、まるで悪魔城のように改築されてしまっていたのだ。
何と言うことでしょう! アイボリー色のレンガで作られ、暖味を感じさせた壁は腐敗した肉片のようなものが貼り付けられ、まだ生きているのか不気味に蠢いているではありませんか。
その上に時折ゴポッと、音を立てて不快な液体と赤黒い煙を吐き出します。毒素に耐性を持つ私でなければ、立っていられるかも疑わしい程の刺激臭が漂っていて、スレイプニルも体調が悪くなってきたみたいです。
更には色あせてはいたが、それも趣深いと密かに気に入っていた屋根は、鋭利な骨がところ狭しと突き破っており、今も成長を続けているではありませんか。
本当に、なんという事をしてくれたのでしょう!
私が詠唱を開始するまでには、大した時間もかからなかった。
死 に 晒 せ !
『傲り、踊る愚者の狂宴、謀り、蔓る背信の凶淵。憂き世に救済の裁きをもちて、神の威光を示さん。人の身にて人に非ず、地上の戒め天上への楔、信徒を導く信仰の標。祈り跪け、響き轟くは福音の知らせ、十三の神器を持ちて大罪を滅ぼさん。神威をここに体現、遍くを照らす光源、開闢の宣言。
破邪の閃光よ……悪しき牙城を討ち滅ぼせッ!“神意示す神光の標”』
破邪の閃光が私より解き放たれる。
聖都で発動した時よりもいささか威力が落ちる気がするが、別に問題ないだろう。毒々しい煙と共に、悪魔城を完全に滅する事に成功している。
「……やったか?」
なんとなくフラグを立ててみるが、確認するまでもない。当然、殺っている。
リッチロードを失った魔物の群れは、もう国啄みとは呼ばれない。
危険度は格段に低下しており、時間が経過すれば自然に消滅するらしい。
まぁ、小遣い稼ぎついでに残りカスの掃討でもするかと、踵を返そうとしたところ何か光る物を見つけたので、確認してみる事にする。まさか、まだ生きてましたとか言わないよね……。
「なんだコレ?」
なんか色あせた教皇冠のような物が落ちていた。
意匠を顧みるに中々に高価そうである。とりあえず貰っておくか、寄付金の足しになるかもしれないしね。
私は戦利品の王冠を頭に冠る。
うお! なんだこのフィット感、これはお値打ち物かもしれないぞ。
諸悪の根源を滅ぼした私は、事後処理に協力するべく走り出した。
スレイプニルがなんかぐったりしているが、私にはどうする事も出来ない。
「ごめんね、回復系魔術は使えないの」
予定変更。一度、避難地に戻るとしよう。
それまではもってくれ、我が愛馬よ!
応援ありがとうございます!
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