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第一章・伝説の始まり編

第一話 ・魔術少女ミラクルメルル(上)

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 小高い丘を登ると幻想的な風景が視界いっぱいに広がり、来訪者を待ち構えている。

 雑多ではあるが、活気溢れる町並みの向こうには、浮世から切り取られたような白い石造りの城壁。壁の上から覗く家々は、規則的に立ち並び日の光を反射して魅惑的に輝く。

 統一性があり、街そのものが一つの芸術のような街並みは、見た者を圧倒するような尊厳さを感じさせる。



 まるで、泉の上に立っているように見える街の入口は計八つ。

 現実と夢の世界を切り離すかのような、汚れ一つない水面に架かる橋を越えると、今度は二本の塔にアーチ状の橋を架けたような巨大な門をくぐり、やっと聖都に入ることができた。



 大型の馬車が二台ほど並走しても、十分な程の広さのある石造りの道。

 それぞれの道は、街の中心部にある巨大な大聖堂に向かい真っ直ぐに伸びていて、緩やかな傾斜を登り、何重にも備えられた城門を潜って行き大聖堂に近づいて行くと、壮大な建造物に所狭しと施されている意匠が、鮮明に瞳に焼きつけられる。



 私、メルル・S・ヴェルロードは、前世含めて初めての外国、神聖オリシオン教会本部、聖都フォレスローザに来ています。



 この街は街一つが独立した国家とされているらしく、前世知識で言うところのバ○カン市国のようなもである。何故こんなところに来ているのかと言うと、私の誕生日会がここで行われるからだ。始め聞いたときは思はずファ? と、なったものだが、どうやらお父様主催のお誕生日会は、私が想像していたものより遥に大掛かりなものであるらしかった。



 誕生日会の日程を聞いたのが、およそ三週間前、お父様から手紙が届いた次の日から準備が始まり、あれよあれよと言う間に、出発。スレイプニルだったっけ? なんか足の多い、あんまり可愛くない(ぶっちゃけキモイ)お馬さんに運ばれること二週間と少し。間に休憩やら、ささやかな観光を挟みつつも、ついにフォレスローザに到着したのである。



 フォレスローザに到着してからというもの何かしら視線を感じる。初めは私が乗ってきた馬車がやたらと豪華(全体的にでかい上に金色の家紋入り)が目立っているだけかと思っていたのだが、どうも違うらしかった。

 皆、こちらを見て口々に呟いてくるのだ。



「奇跡の子だ!」

「神子様だ。ありがたや、ありがたや」

「奇跡の神子だ。奇跡の神子様が来なさったぞ!」



 なんだこれ、新手の虐めか? 私がお上りさんだからって馬鹿にするなよチクショウめと、眉間に皺を寄せていると私の向かいに座るセバスから声がかけられた。



「ははは、皆様方も、お嬢様の訪問を歓迎なさっているようですな」

「ん? やっぱり、奇跡の神子って私のことなの?」

「ええ、詳しくは旦那様より説明があるでしょう」



 なんだか、馬鹿にされているようで、居心地が悪かったが、どうも馬鹿にされてるわけでもないらしい。ちらりと、窓の外に目を向けるといつの間にか人が増えており道の両脇には人集りが続いていた。

 うげ、なんだよこの状況、私は見世物じゃないんだよと、中級魔術の一発でもぶちこんでやれば静かになるのだろうが、なまじ相手側に悪意がないのが厄介なところだ。



 なんとなしに、人集りを眺めていると、小さな可愛らしい女の子が元気いっぱいにコチラに手を振って来ているのが目に入ってきた。可愛なぁ(別にいかがわしい気持ちはない、断じてない)と、思った私は女の子にグヘヘヘヘと、笑いながら手を振り返してあげたのだが、すると女の子は顔を赤くして俯いてしまった。アルェー? なんか失敗しちゃったかな?







『本編、第一話・魔術少女ミラクルメルル』





 街の中心部の大聖堂に着くと、待ち焦がれた人影を見つけた私は、いそいそと馬車を降りるなり走り出した。少々興奮しすぎてしまったため、はしたない上に速度がつきすぎていたので、一旦ブレーキを掛けスピードを殺すと、私はお父様に飛びつくように抱きついた。



 お父様は優しく私を抱きとめると、私の頭を胸に抱きまるでガラス細工に触れるかのように、ぎこちなく、されど柔らかく頭を撫でてくれた。

 お父様の不器用さが垣間見れるようなソフトタッチに苦笑しながら、私はお父様の手からすり抜けると、改めて向き直りスカートの端を軽く摘み上げ、挨拶を交わす。



「失礼しました。お久しぶりですね、お父様」

「ああ、いいんだよ、私の可愛いメルル。元気そうで何よりだ。それに、メルルが抱きしめてくれなかったら、私の方から抱きしめに行くつもりだったしね」

「まぁ、お父様ったら」



 先程の不器用さはどこえやら、お父様の口は実に軽やかだ。お父様と直接お話するのは大体、四ヶ月ぶりぐらいになる。随分久しぶりの会話であるものの特に気まずさなどはない。まぁ、手紙のやりとりは頻繁にしていたしね。



「そういえば、お父様。ここに来る途中に“奇跡の神子”と、呼ばれたんですけど何か知っていますか?」

「ははは、民衆とはいつも耳も早いし、気も早いものだな。そうだともメルル、奇跡の神子とはメルルのことだとも、本当はもう少し秘密にしておきたかったのだけどね」



 うむ、セバスの言うとおり、奇跡の神子とは私のことで間違いないらしい。しかし、奇跡の神子って、一体、何なんだろう。

 コミカルにウィンクを決めるお父様はなかなかにチャーミングだ。とても若々しく、まさか四児の父とは誰も思うまい。……いやいや、今はそんなこと関係ないな、とりあえずお父様の様子から察するに、少なくとも悪い意味ではないのだろう。なんとなく縁起も良さそうな響きだし。まっ、とりあえず聞いてみるか。



「えーと、それで、奇跡の神子ってなんなんですか?」

「おや、知らなかったのかい? うーん。じゃあ、まずは神子の方から説明していこうかな。神子ってのは簡単に言うと神様に愛されている人のことを言うんだ。それに付け加えて、その人の特徴から頭に言葉を乘せる。メルルの場合、重病から回復したことと、奇跡の技、つまり魔術の才能からとって“奇跡の神子”と名付けられたんだ。ちなみにメルルの二つ年上には剣術の達者な“剣戟の神子”なんて子がいるよ」

「なるほど、そういう事だったんですか」



 うん、納得だ。神様から愛されているか、自慢じゃないが、私、もとい俺氏は、神様からチート能力を給わる程だ、さぞや神様から愛されているに違いない。うんうんと、納得していた私であるが、その様子がお父様はお気に召さないようで、やや興奮気味に神子マジやべえんだからと、一気にまくし立ててきた。



「いまいちピンと来ないかもしれないけれどこれは本当に名誉な事なんだよ? 神子と言う存在はそうそう現れるものではない。十年に一人いや長らく一人も新たな神子が現れない時代もあった。今代こそメルルで二人目の神子だけどその一人目剣戟の神子は彼の剣聖の家の者だ。生まれながらに剣聖の名を継いでいる本物の神童その彼に並べるんだよ!? いいかいメルルお前は確かに天才だ。しかし与えられた名誉でも素直に誇るべきだ。それほどに神子の名は価値のあるものなんだから分かるかい? 分かるよね!」



 え、なにこれ怖い……。



「わ、分かりました。私、不肖メルルは奇跡の神子の誉れに恥じぬ生き方をしようと誓います。だから、ちょ、ちょっと落ち着いてください」



「……すまない、メルル。少し興奮しすぎたようだ。何しろ当家から神子が出るなんて、初めてのことで、喜びを抑えきれないでいるんだ。許してくれ」



 ああ、良かった。どうやら落ち着いてくれたみたいだ。お父様が取り乱す姿は初めて見たが、なかなかにエキサイティングなされていたな。

 正直怖かったが、お父様に叱られる(?)のは初めてで、こういうのもなんだが、少し新鮮だ。きっとお父様は敬虔なオリシオン教徒なのだろう。私は直接神様に命を救って貰ったのにも関わらず、少し信仰心が足りていなかったのかもしれない。反省しよう。



「勿論ですよ、親を許せない子なんていません。それにですね、間違っているのは私の方でした。もし、今からでも遅くないのなら、二人でこの名誉を分かち合い、祝い合いたく思います。……ダメでしょうか?」



 上目遣いにお父様の様子を伺うが、お父様は、何も言わず。吃驚したように、目を見開き私をまじまじと眺めてくる。ちょっ、恥ずかしい、早く何か言ってくださいよ!



「ははは、勿論だとも二人で共に祝おうこの素晴らしき日を」

「はい! ありがとうございます!」



 これにて、一件落着かな?



「それに、よく考えたら、自信があるに越したことはない。なに、少々不遜なぐらいが、神子としてはちょうどいいのかもしれない。で、メルル、お父さんから一つお願いがあるのだけど、聞いてくれるかな?」

「……勿論です。お父様のお役に立てるのなら!」



 続くのかよ! いや、まあ、私だってお父様の役に立ちたいよ? でもね、厄介事の雰囲気がプンプンするんだよこれが、例えるなら嵐の前の静けさ、いや、この場合は嵐の後の静けさからの土砂崩れ。



 うん! なんだそれ。









 ーーお父様にエスコートされるままに手を引かれ、妙な圧迫感を感じる扉の前に私は立たされた。この扉の向こう側には、数百人の敬虔なオリシオン教徒が控えているらしい。緊張感が私の胸を締め付ける中、そっと、お父様の手が離される。



「あっ……」



 不意に、私の口から音が零れた。



「大丈夫、メルル。何も心配はいらないよ」

「でも、お父様ぁ……」



 私の弱々しい呟きにお父様は曖昧に微笑むと、私の首から下げられた宝玉オーブを摘み上げ、額に軽く触れるように口づけをした。



「大丈夫、私は常にメルルを見守っているよ。それに、母さんや、ご先祖様もついている。それでもまだ不安なのかな?」



「……ふふ、その言い方は卑怯ですよ。ええ、もう大丈夫ですとも」

「ごめんね、でも良かった。それじゃあ行こうか」

「はい、お父様」



 私は、軽く両の頬を叩き気合を入れて、正面の門を見据える。

 男は度胸、女は愛嬌。俺氏が度胸担当で、私が愛嬌担当だ、度胸と愛嬌が合わさり最強に見える。やや、度胸方面に心配が残るが、もう大丈夫、何も怖くない。こうやって冗談を考える余裕ぐらいは出てきた。



 だから問おう。



『どおして、こおなったッ!』
















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