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31 *シュバルツ公爵視点有り
しおりを挟むアルマとジークハルトが間借りしている部屋の前。
壁に凭れ、ジークハルト、リンデル伯爵、ルーファスが立っていた。
今、室内でアルマが改めて着飾っているのだ。
アルマの着替えにジークハルトに見られてもいいが、父や兄には見せたくない、と言い、メリッサも手伝う為に待っているのだ。
「まぁ、この水色のドレスにしましょう」
「子供っぽくなりますよね、このドレス」
「何を言っているの、アルマ………先程の大人びたドレスからの違いを上手く着こなしてこそ、女の楽しさじゃないの!このドレスならあの男も驚くわ…………」
「あの男?」
「シュバルツ公爵以外誰が居ると………水色はアマリリスが好きな色だったの………可憐に着こなして、本当に可愛かった………だから……」
「…………分かりました。アマリリス様をよく知るお母様にお任せします」
「任せて頂戴!」
アマリリスのイメージに合わせた髪型に装飾品をアルマに施したメリッサは満足そうだ。
「ジークハルト様と、私の家族を呼んでもらえるかしら」
「はい」
「奥様、今度はすっごく可愛いです!」
「可憐ですぅ!」
「て、照れますね………可愛い過ぎな気がして………」
「ア、アルマ…………」
「「おぉ………」」
「ジーク様、如何ですか?」
「…………凄い………母上の肖像画を生身で見ている様だ………」
「そうでしょう?ジークハルト様………アマリリスに似せましたわ」
「ありがとうございます!メリッサ夫人……あ、いえ…………義母上とお呼びしなければ」
「…………っ!……まぁ………ありがとうございます……夢の様………」
子供の頃の口約束が実現出来て、感極まってしまう。
「メリッサ、もう私達も戻ろう。閣下も着替えなければならないからな」
「えぇ、そうですわね………ではまた会場で」
「はい」
「お母様、ありがとうございます」
リンデル伯爵夫妻とルーファスが会場に戻るのを見送り、ジークハルトもアルマに合わせた装いをする。
先程の黒のタキシードから一転し、白に装いを変え、水色の差し色にすると、また新たな気分にさせてくれた。
「行こう、アルマ」
「はい」
再び会場に戻ると、盛り上がりも戻っていた。
特に入場の声等は出る事はない、アルマとジークハルトは、そっと会場の片隅から入り、アレクシスを探した。
「アレックス殿下には礼を言わないとな」
「そうですね、部屋をお借りしましたし」
「その前に、踊らないか?アルマ」
「お礼を先に言わないと………」
「踊っていれば殿下が来るよ、きっと」
「…………面倒なんですね、探すの」
「よく分かってるね、流石俺の妻だ」
会場が広いので、探すより目立てばいい。
そうすれば自ずと見つかる。
アルマはジークハルトに手を取られ、踊りの輪に加わる。
大人っぽい雰囲気から、年相応の可愛らしい姿に変わったアルマは、またも注目を浴びた。
「え!…………ヴォルマ公爵夫人?」
「先程の装いと印象が凄く変わったわ!」
「化けたなぁ………アルマ夫人」
アレクシスは当然、アルマとジークハルトを見つけ、輪の近くに迄来る。
それだけではない。
シュバルツ公爵さえもワイン片手にフラフラと近く迄歩み寄った。
「ア…………アマリリス……何故居る………」
シュバルツ公爵自身、アマリリスが亡くなっている事も分かっていた。亡霊にでもなって出て来たのではないか、と思えるぐらいそっくりでいるアルマに驚くのはは無理はない。
シュバルツ公爵だとて、馬鹿ではなかった。アルマがアマリリスの従姉の娘なのも知ってはいるが、メリッサはアマリリスにあまり似ておらず、当時自分と同じ侯爵家に嫁いだ前ヴォルマ公爵の妹の娘に、野心家のシュバルツ公爵にはメリットも無く放置していたぐらいだ。
その放置した娘が今や、息子であるジークハルトの妻になり、力を得ようとしている。
シュバルツ公爵が欲しいのはヴォルマ公爵領。その為に嫌いな前ヴォルマ公爵に仕えながら、まだ小さな1人娘を犯し続けた。少女趣味だった訳ではない。父親の前ヴォルマ公爵に気に入られれば婿養子に入れるかもしれない、と常に気を張り詰めていた苦労の日々が思い出される。
騎士として腕を磨き、娘が病弱で長くは生きられないと分かると、無理矢理にでも実行しなければ、と思い詰めてしまい、魔が差した事で箍が外れ、泥臭い厩舎に連れ込み、号泣するアマリリスと契ると、少しずつ歯車が狂って行った。
前ヴォルマ公爵に気に入られようとする一方で、その鬱憤をアマリリスにぶつけて、ある日後継者とならないか、と提案された時、アマリリスの妊娠が発覚してしまう。
激高した前ヴォルマ公爵の前にして、シュバルツ公爵はその時期に王都での勤務となり、アマリリスを人質同然で連れて行く事にした。そうしなければ前ヴォルマ公爵が大人しくしないだろうと思われたからだ。
アマリリスからの愛情等、向けられる事もなければ、シュバルツ公爵も与える事もなく、地位を確立し後妻を迎える準備が出来ると、アマリリスはもう不要となり、ヴォルマ公爵領に送り返した。その頃には王都での地位を揺るがす程の力は前ヴォルマ公爵には無くなっていて、アマリリスはどうせもう死ぬだろう、と病弱なアマリリスが出産に耐えられないと思ったシュバルツ公爵は腹の子共々死ぬと思っていたのだ。
それがアマリリスは意地で産み落としたのがジークハルトだ。
後継者の居ないヴォルマ公爵領を引継ぐ邪魔な者が居れば、シュバルツ公爵は粛清してきていたので、その地を統治出来る者は自分だけだ、と前ヴォルマ公爵が亡くなれば後は滑り込めばいい、とそれでシュバルツ公爵の計画は終われると思っていたのだ。
ジークハルトは健康に育ち、前ヴォルマ公爵はシュバルツ公爵への恨みから尽く邪魔をされ、今か今かと時期を見計らっても次は息子が邪魔をしてくる事が、更なるシュバルツ公爵の野望を遠のかせたのだ。
目の前にアマリリスに似るアルマが、走馬灯の様に記憶が蘇らせている。
「アマリリス…………お前………私の前に現れるのか………そうか………それならお前の息子と共にまた死ね………」
ジークハルトをイェルマと結婚させ、アルマをヴァイスと結婚させようとしていたシュバルツ公爵だが、そんな考えはもうシュバルツ公爵には無くなった様だ。
踊りの輪の隅で、ワイングラスを握り締めて割ると、丁度そこで曲が終わりを告げた。
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