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 夜会が始まる前に、アレクシスが用意してくれた部屋でアルマとジークハルトは休んでいた。

「そういえば、私の両親と兄は茶会に居ませんでした」
「それはそうさ」
「え?」
「あの茶会………ほぼシュバルツ公爵を支持する貴族の集まりで、侯爵以上しか招待状は送られてきてはいない」
「ヴォルマ公爵家はシュバルツ公爵を支持してませんよね?」
「敵対してると言ってくれ、アルマ」
「一緒じゃないですか」

 如何しても、ジークハルトはシュバルツ公爵を支持する様な言い方は許せない様子。

「一緒じゃない………少なかったろ?人」
「そうですね………サロンも大きくは思えませんでした」
「あれでイェルマ殿下とシュバルツ公爵が繫がってるのも分かった………セムラ侯爵夫人は国王陛下の末の妹だし、夫はシュバルツ公爵の部下だ」
「ローズマリア嬢もみえましたが」
「彼女は伯爵令嬢だが、付き添いというか隣りの男のオマケだろうな………セムラ侯爵夫人の息子だったし」
「……………納得しました」

 だが、シュバルツ公爵当人は見られなかった。
 それを不思議そうな顔してアルマは考えていると、ジークハルトは察する。

「シュバルツ公爵は来ない、あの様な場所にはな」
「何故です?」
「メインディッシュは後から登場したいんだろ……てのは冗談だが、酒が無い席には来ないんだ」
「ヴァイス卿もですか?」
「…………ヴァイスもキースもシュバルツ公爵には逆らえない。つまらない男達さ。離婚させられた、と聞いただろ?」
「はい」
「シュバルツ公爵の意思のまま動く人形なんだよ、あの2人はな」

 人間、誰しも同じ考えを持たないのに、それを息子に強要して、強要されて幸せなのだろうか。子供でもあるまいし、大人の男なら自分の意思を押し通す信念も無い男に魅力等感じない。

「離婚された女性は今如何しているんでしょう………」
「実家の両親から、田舎の別邸に蟄居させられた、と聞いたな。王都に居れば三下り半を言渡された、シュバルツ公爵の役に立たないと後ろ指を指されるだろう………その令嬢もシュバルツ公爵支持者の娘だったから、ヴァイスの周辺に女の影をチラつかせ無い為に押し込まれたんじゃないか、と思う」
「酷い…………離婚したら女性が悪く言われる空気ではありますけど蟄居したい、とその方が言い出していたなら兎も角、違うのですよね?」
「恐らくな」
「失礼致します、奥様そろそろ準備なさいませんと」

 寛いでいたらあっという間に時間は過ぎて、夜会開始迄時間が無くなってしまいそうだったので、侍女が声を掛けた。

「あ、いけない!着替えますね」
「そうだな、俺は傍観させて貰おう」
「み、見なくても良いじゃないですか」
「女が着替えている姿は唆るんだぞ?夜会後の楽しみ迄昂ぶらせられるからな」
「っ!…………も、もう!勝手にどうぞ!」

 アレクシスが用意した部屋は1部屋。
 着替えるにしても、場所を移動出来ない。せめて着替えている間、ジークハルトは何処かに行くのかと思っていたが、違うらしい。
 着替え、髪型や装飾品もドレスに合わせ、ジークハルトと不釣り合いにならない様に、実年齢より大人びた印象にしてくれた。

「今直ぐに抱きたいぐらいの出来だ。良くやった」
「旦那様、ありがとうございます」
「素材がよろしいのですわ」
「何より、この奥様の肌艶がまた色気を誘いますね」
「日頃から皆が磨いてくれてるから、その賜物だろう」
「…………そ、そうでしょうか……」
「アルマ、自分を卑下し過ぎない様にな。アルマは美しい………もう少し大人になったら、国一番の評判になるぞ、きっと」
「買い被り過ぎです!誰もが私をそうは思わないですよ」

 しかし、夜会が始まるとアルマを連れたジークハルトと2人は注目の的となる。
 アルマは長い髪を肩から緩やかに編み込みして垂らし、ドレスも色合いの落ち着いた濃い目の紫のドレスで体型に合わせたクールなシルエット。装飾品もアメジストとダイヤモンドで色っぽく仕上げ、16歳には見えない。
 それに合わせたジークハルトも黒のタキシードに紫のタイとチーフ、左耳にだけ穴があるピアスもアメジストにし、アルマを際立たせていた。

「あれがヴォルマ公爵の………」
「あれ程の美女を何処で見つけたんだ?」
「数々の美人と浮き名が挙がったのに、プッツリと途切れたのは彼女の所為か…………」

 中には、アルマとジークハルトの寄り添う姿を見てふらつく令嬢も居り、悲鳴も飛び交う。

「嫌ぁぁぁっ!ジークハルト様ぁぁ!」
「わ、私の方が綺麗じゃない!」
「く、悔しいぃ!」

 玉座では令嬢達と同じ様に、扇子を握り締め、肩を震わせてアルマを一点集中で睨んでいる。

「わたくしの方が美しいわ………わたくしの方が………」
「…………イェルマ~、残念だがアルマ夫人の方が綺麗だし、性格も良いらしいぞ」

 隣で諦めさせようとしているのか、アレクシスは声をイェルマに掛けるものの、油に火を注いだ様に見える。

「アレックス、イェルマを煽ってるぞ」
「諦めさせようとしてるんですよ、兄上」

 嗾けてる様にしか見えなかった、エリックはその注目の的になっているアルマを見て納得した様子。

「確かに………美しいな。彼女、まだデビュタントしたばかりか?社交場では始めて見る」
「16歳ですから」
「え?そんなに若いのか」
「先が楽しみな美女ですよ」
「ヴォルマ公爵と結婚していなければ、俺が立候補したいぐらいだ」
「そんな事、この場の独身男達皆思ってますって」

 アレクシスとエリックの会話を聞けば聞く程、イェルマの形相が怖さを増し、イェルマは玉座から降りてしまった。

「あ、イェルマ!」
「放っておきましょうよ、兄上………どうせ彼処なんだから………ヴォルマ公爵も近くに居ますし、事を荒らげる事にはならないでしょう」

 アレクシスはそう言い放つが、ニタニタと笑っている。
 事を荒らげる事にはならない、ではない。
 事を荒らげる事に期待しながら。
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