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しおりを挟む翌日は戦場である。
アルマが起きると、再び朝から身体磨きだった。
王城で夜会があるのは夕方からだ。
だがその前に、貴族同士達が主催となり、王城の庭で茶会が開かれるのだ。
王家の者達とは会わないが、王家の親族が主体となり貴賓達を迎え入れ、夜会に備えての交流会の様な催しである。
夜会があるのだから、必要が無い気がするが、出席をしないと夜会では会話もしてくれない人が多いのだという。
「このドレスは茶会用、こっちは夜会用………態々着替えなくても………」
「着替えるんです!茶会は元気な明るい雰囲気のこちらの黄色のドレス!夜会は大人びた紫のドレス!」
「え?こっちの赤のが色っぽいんじゃない?」
「奥様の髪色には紫よ。瞳の色に合わせなきゃ」
「それなら、旦那様の瞳の色に合わせてこの水色でしょ」
「「それだと大人びた印象にならないわ!」」
「こ、こんなにドレス持って来たんですか?」
「何があるか分かりませんから、予備のドレスはこの倍ありますよ」
「…………着なかったら如何するんですか……もう……」
コルセットは巻いているのに、ドレスが此処に来て侍女同士の言い合いが始まっているのだ。
「とりあえず茶会用の黄色のドレスを着ますから」
「「「はい!」」」
緩やかに髪も巻き、季節の生花を髪飾りにして整えたアルマ。
ジークハルトに見て欲しくて、部屋で待つ彼にお披露目する。
「女神の様だよ、アルマ」
「あ、ありがとうございます………ジーク様……」
「…………虫が付いてはいけないから、お守りをあげよう」
「お守りですか?虫に?」
「そう………男という虫に………」
「…………え!」
「…………」
「っ!」
「うん………いいお守りになった」
「み、見られるじゃないですか!」
「見られていいお守りだ。化粧で隠すなよ、アルマ」
強く鎖骨辺りを吸われ、くっきりと付いた虫除けのお守り。
髪型でも隠せないので、鎖骨の方に後髪を前にさり気なく垂らすと、直ぐにジークハルトから髪を元に戻されてしまった。
「髪で隠すのも禁止」
「そ、そんな………」
「常に傍に居られる訳じゃない筈だからな。指輪も絶対に左手薬指から外すなよ…………あ、あとは………この前購入したネックレスを………」
「そんなに装飾品付けられません!」
黄色のドレスに合わせ、首に黄色のチョーカーを巻いていたのだ。ネックレスでチョーカーがドレスを引き立たせられなくなってしまう。
「じゃあブレスレット………」
「もう別のを付けてます」
「こんな華奢な物じゃなくて……」
「ドレスに合わせてコーディネートされたのはジーク様じゃないですか!」
「…………そ、そうだったな………」
侍従達からの目線が生暖か過ぎて、アルマも彼等を見られない。
それなのに、ジークハルトはお括れないので、度肝が座っている。
「夜は?どれにするか決まったか?」
「まだ侍女達で争ってます」
「アルマが決めればいいじゃないか」
「どれも素敵で選べなくて………」
「じゃあ、紫にしてくれ。俺もアルマに合わせて紫を選ぶから」
「…………はい!ジーク様に紫、お似合いですもの」
「熱いなぁ、朝から」
「「!」」
昨日散々聞いた声が聞こえ、アルマとジークハルトがその方向を向くと、アレクシスが冷ややかな目線で立っていた。
「殿下………お忙しいでしょ、今日」
「今日も!な………悪い、急遽茶会が変更させられた」
「変更?」
「嫌がらせしかない………イェルマが庭で茶会するな、と言い出して、サロンに変更………花を愛でるのは無くなったんで、アルマ夫人の生花の髪飾り、嫌味言われるぞ」
「…………相変わらず、性格悪いですね」
「だろ?それをヴォルマ公爵夫妻以外伝えろ、て命令迄したんだぞ?夜中に」
「…………はぁ……時間が押してる……アルマ、着替えてこれるか?」
「はい!」
花をイメージしたドレスを選んだので、ドレスも変えなければならなくなった。
ジークハルトはもう着替えていて、庭でもサロンでもどちらでもおかしくない服装を着ていたが、アルマは違う。
「着替えます!夜会用に出した赤のドレスに着替えて、髪型も大人びた印象のに!」
「は、はい!」
場所に合ったドレスを着なければ嫌味を言うとなるならば、それに合わせて行けばいい。
侍女達が予備で用意してくれていたのに感謝しつつ、慌てて着替えたアルマ。
「ど、どうですか?」
「うわぉ………5歳増しに見えるよ、アルマ夫人………な?そう思うよな、ジーク!」
「先に言わないで貰えます?殿下………これだとさっき付けた所有痕が見えないな………首に付け直すか………」
ジークハルトが言おうとした事をアレクシスに先に言われ、ジークハルトの嫉妬でその場がピリピリとし始めた。
「ジーク様っ!殿下がいらっしゃるので!」
「構わない、気にするな」
「気にしないでいいよ、アルマ夫人………て、おい………独身男の前でイチャ付かないでくれるかな」
「知りません」
「っん!」
「こら、そんな色っぽい声出したら、殿下が気の毒だろ?」
「おい………」
「も、申し訳ありません………」
久々に嫉妬する夫の姿は、以前の様な怖さを感じないアルマだった。
寧ろ、幸せを感じてしまう。
---嫉妬って、こんなに嬉しく思えるものだったなんて……
そんな事を思っていると、ジークハルトと目が合い、照れられていた。
「ちょっと!何2人イチャ付いてるんだよ!」
アレクシスによって、その見つめ合いは終了し、また再びジークハルトは不機嫌になるという負のサイクルに見合わされたのだった。
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