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 部屋に食事を運んで貰い、アレクシスを含む3人で食事を始めて直ぐ。ジークハルトがいの一番にアレクシスに声を掛けた。

「話とは」
「陰謀に巻き込まれない様に注意しろ、ジーク」
「…………?それともいつもとは違うパターンですか?」
「…………違うな」
「教えて頂けるんですよね、態々殿下がお忍びで会いに来るぐらいなんですから」
「その方が平和だからな」

 探り合いから始まる会話で、アルマは聞いている事しか出来ない。

「どんな事とどんな事とどんな事ですか?」
「…………え?そんなに?………あ、失礼しました……」

 幾つもありそうな聞き方なので、思わず口に出してしまったアルマ。

「そんなに、なんだよねぇ………
「教えて下さい」
「…………先ず、ジークとアルマ夫人の結婚に異議申し立てが出されている」
「あり得る話ですね」
「あ、予想してたか」
「勿論です………大方、イェルマ王女でしょ」
「ご名答………それで、イェルマに賛同したのが………」
「シュバルツ公爵と王太子………」
「またまた正解…………兄上はシュバルツ公爵の言いなりだしな。それにイェルマの我儘は父上も弱いから、はっきり反対は出来ないときた」
「…………あぁ、面倒だ………だから妻にも聞かせたんですね?ちゃっちゃと、イェルマ王女を説得して下さいよ、殿下」
「出来たらとっくにやってる」

 王子2人、王女1人が王家には居る。
 話を聞くに、王女がアルマとジークハルトの結婚に反対したのは恐らく、王女もジークハルトが好きだからだろう。

「父上はジークとイェルマの結婚は反対なんだ」
「それは知ってますよ。イェルマ王女は王都から出たがらないですし、俺は王都には住みたくない。ヴォルマ領をシュバルツ公爵が狙っているのを知っているのに、イェルマ王女の我儘で王都に居させられては困る」
「今回の滞在も長くなったの………イェルマの我儘だしな」
「でしょうね………大方、魔獣討伐に俺が出るのが嫌なんでしょう」
「よく分かってるな、イェルマの事」
「嫌いなので、あの我儘な性格」

 王女に対して嫌いと言えるのは凄いと思われる。しかも兄であるアレクシスの前でお括れてないのだ。

「我儘にさせちゃったからなぁ、父上が」

 怒りもせず、納得するアレクシスも大した人物に見えた。

「その入れ知恵を入れたのもシュバルツ公爵だって言っても驚かないよな、きっと」
「全く………驚いて欲しかったですか?」
「…………つまらないから驚いて欲しかった」
「俺は殿下の玩具になるつもりは毛頭ありませんよ」
「アルマ夫人、こんな無愛想で堅物の奴と一緒にいて楽しい?」
「可愛らしいと思います」
「っ!」
「……………え!こんなのが可愛いの!?………あ………マジ?うわぁ………ジークの照れ顔始めて見る……」
「アルマ…………真面目な話をさせてくれ」
「本気で言ったんですけど………申し訳ありません」

 堅物なジークハルトなのは侍従達の前ではそうしているので、見慣れている。それでもアルマはそのジークハルトも好きなので、可愛いと思っている。

「い、いや………いい………本気なら……」
「うわぁ………イェルマに見せたら発狂するなぁ………明日の夜会で、そのイチャイチャ見せびらかしてくれよ。この国の貴族の女達、皆ジークを諦めてくれるぞ」
「そうでもないですよ。先程、ミルザム侯爵令嬢と偶然会って、アルマに何かしてきそうですし」
「……………ローズマリア?………あぁ、あの娘はなぁ……阿婆擦れだし……お前が手出ししたから………」
「逆です………あっちが俺を落としに掛かったんですよ。尤も、1人で俺を使ってた節がありましたから、つまらない女でした」
「お、おい………夫人の前でお前………」
「大丈夫です。あの方にジーク様は振り向きませんから」

 アルマはジークハルトのローズマリアに対する言葉で尚更安心した。相手にもならない程の女だと。
 一番怖いのはイェルマの様な権力で手に入れようとする女だ。嫉妬はしないが権力や地位ではアルマは太刀打ち出来ない。
 そして、嫉妬してしまう様なのは純粋にジークハルトを好きな女に対しても怖い。アルマの様な同じタイプの女とは同じ土俵に上がってもジークハルトの心を繋ぎ止めておく自信は無かった。

「出来た夫人だなぁ………ねぇ、ジークと別れたら俺とどう?」
「あげませんよ」
「お断り致します」
「…………だろうね………で、今ヴォルマ領に行ってるのはシュバルツ公爵の下の弟ね。まぁ、手柄なんて取れない弱腰の奴だから、大方部下の手柄ぶん取って献上するんじゃないかな」
「…………キースか……」
「そう、確かそんな名前………上の弟、ヴァイスなら分からないけどな………それでそのヴァイスなんだが………」
「何ですか?」
「…………言うと怒りそうだなぁ、ジーク……」

 言い辛そうに、アレクシスはアルマを見て、ジークハルトに申し訳なさ気に言葉を続けた。

「教えて下さい」
「イェルマがお前とアルマ夫人を別れさせられたとするぞ?」
「別れません」
「まぁ、聞けよ!」
「聞きたくないような気がしますが、聞きます」
「シュバルツ公爵はアルマ夫人をヴァイスの妻にしようと目論んでいそうなんだ」
「「は?」」

 アルマは勿論だが、ジークハルトはそこ迄思い付かなかった様で、不機嫌な顔へと変わっていった。
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