結婚したのに最後迄シない理由を教えて下さい!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 アルマとジークハルトが宿泊する宿は、貴族御用達の高級宿屋だ。何組か貴族が宿泊をしている様で、貴族よりその貴族の侍従達の利用数が倍以上になっている。
 その宿で貴族は貴族同士、侍従達は侍従達同士で交流する事も多いのだが、仲が悪い家もある。
 そんな雑然とする宿屋の前で、アルマとジークハルトが観劇を観終り、街をブラついてから宿に帰ってくると、騒動が起きていた。
 どれが何方の荷物だとかの言い合いが宿の入り口で揉めている。

「同じ様に、王都に邸が無い方達でしょうか」
「あんなものは日常茶飯事だ………侍従達の管理が悪いとあんな事もある」
「ジーク様は経験あるんですか?」
「ウチは無いな。ヴォルマ公爵家に嗾ける家は少ない」

 国における重要性がものを言うのだろう。
 主要都市の領地を統治するヴォルマ公爵家の歴史は長いのだとアルマは知った。
 元々、ヴォルマ公爵家は王家の血脈で、もう王家との親族と言えない程、血は薄まっているらしいが、王家からすれば無視出来ない家でもあるからか、貴族達はヴォルマ公爵家に頭が上がらない家もあるぐらいだ。
 それを取って食おうというのが、ジークハルトの父、シュバルツ公爵家なのだという。

『シュバルツ公爵やシュバルツ公爵の傍に付いている者には気を付けろ』
『…………分かりました……』

 移動中の馬車の中で、ポツポツとヴォルマ公爵家とシュバルツ公爵家の話を聞かされたアルマ。
 アマリリスとシュバルツ公爵との事は教えてはくれなかったが、ジークハルトが産まれてからの話は教えてくれたのだ。
 ジークハルトがヴォルマ公爵の名を継承したばかりの頃は、よくシュバルツ公爵がヴォルマ公爵領の事に介入してきては邪魔をしていたらしい。公爵の地位に付き、8年経ったジークハルトだが、今だに介入されてくるのだそうだ。
 アルマは、シュバルツ公爵家に付く貴族の名も教えられ、幾つかリンデル伯爵領とも付き合いのある家もあったのだ。
 それが、セルトの家、ロマーニ伯爵もその1つだったのには驚いた。

「明日は、夜会か………あぁ、面倒だ」
「楽しみ、とは言えなさそうですよね、ジーク様には」
「毎回楽しくはないな………王家に挨拶して、いつもサッサと帰るが、今回はそうは行かなくてな」
「夜会後、本当に1週間滞在しないとならないんですか?」
「貴族会議を行うんだとさ………絶対に言い出したのはシュバルツ公爵に決まってる………ヴォルマ公爵領の魔獣が活発になり被害が出る時期を見計らい、毎年シュバルツ公爵の騎士達がやって来るしな」
「…………シュバルツ公爵は王都に居られるのに、ですか?」
「もう、50近い歳だ。手柄は息子達に取らせる為に毎年何方かがヴォルマ公爵領に入ってくる……邸には泊めさせないけど、絶対に邸に来るから、俺の留守中には門を通らせるな、と勿論通達済み」

 ジークハルトは本当に嫌なのだろう。
 父親と異母弟達の事を。

「…………和解とか……」
「しない」
「ですよね」
「して欲しいのか?だが、こればかりは絶対に譲れないな」
「聞いてみただけです」

 ジークハルトは兎も角、シュバルツ公爵はジークハルトに愛情も無いのだろうか。結婚が待てず、アマリリスと関係を持ち、ジークハルトを産ませておいて、父親の義務も有る様には感じないが、ヴォルマ公爵領がただ欲しくてアマリリスと契ったのならいたたまれない。
 アルマは最近知り得た情報なので、ジークハルトの痛みを全て理解出来ないが、もし理解出来たら、シュバルツ公爵に対して憎悪を見せるかもしれない。だが、そこ迄到達してはいないので複雑な気持ちだった。

「昔は領地戦というものが行われたとか聞きましたが………」
「今、禁止されているからな………例え、禁止されていなくてもヴォルマ領に戦を仕掛ける貴族は居ないさ」
「何故ですか?」
「隣国に付け入る隙を与えるからな」
「…………狙われてるんですものね……」
「小競り合いが無ければ、シュバルツ公爵は領地戦を仕掛けてきていたさ」
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様」

 宿の宿泊している階に着くと、バタついていた侍従達。

「何かあったのか?」
「それが、旦那様に王城から使者が」
「…………俺がこの宿に泊まるのは教えてなかった筈だが」
「…………俺の情報網を甘く見て貰っては困るな、ジーク」
「アレックス殿下!」

 使者というのは王家の第二王子。アレクシスだ。

「苛立ちが凄いだろう、と慰めに来てやったが、必要無かった様だな」
「お、お初にお目に掛かります。ジークハルト様の妻、アルマでございます」

 アレクシスがアルマをチラ見したので、慌てて頭を下げたアルマ。

「話は、ジークから聞いていたよ、アルマ夫人。いやぁ………美人だな」
「あげませんよ」
「勘繰るな!一般目線で言っただけだろ!」
「あげませんよ」
「2回も言うな!」
「で?何用です?態々俺に会いに来るとは余程の事でしょう?」
「…………まぁな……夫人も関係する事だし、話せないか?食事でもしながら」
「分かりました………アルマもいいか?」
「は、はい………お邪魔でなければ」
「邪魔だなんて………馴れ初め話は耳にタコが出来るぐらい聞かされたから、新婚生活なんかを………」
「聞かせん!」
「…………本当、頭が固い奴は嫌だねぇ……」

 アレクシスの言動は、おちゃらけているのか演じているのか、王家の人間と等会話する事も無かったアルマに分かる筈もなかった。
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