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「今、話すのは本当に辛い………アルマがその辛さを受け入れられなかったら、と思うと余計にな………」
「私はジーク様の妻ですよ?仰ったではないですか、2人で乗り越えよう、て………」
「…………そうだな……だが、場所を変えよう……母上に聞かせたくないんだ………例え、肖像画であろうとも」
「…………はい……」

 だが、執務もジークハルトは忙しく、執務室に戻って来ると、仕事が増えており話せる雰囲気では無くなってしまった。

「お手伝いします」
「アルマは休養中だから駄目だ」
「…………でも………」
「体力は戻っても、心の療養に専念しなさい。必ずあの話はする時間を作るから」
「…………分かりました……お茶でもお淹れしますね」

 精神的にも傷付いたアルマに、ジークハルトは聞かせたくなかったのだろう、とアルマもその気持ちは伝わっている。

 ---お母様に聞けば教えてくれそうだけど、ジーク様が話してくれる、と仰るなら待とう……

 そう思う事にしたアルマ。
 そして、夜が更けて日を跨ごうとする頃、やっと仕事から解放されたジークハルトが寝室に来れた。

「お疲れ様でした、ジーク様」
「…………あぁ……疲れたよ……あのセルトと言うロマーニ男爵の実家、ロマーニ伯爵家へ引き渡す為の手続きやらが増えたから」
「実家に帰させるのですか?」
「あぁ………リンデル伯爵領には返す気はないよ。アルマの実家だし、里帰りもしたいだろ?もし顔を合わせたら、と考えるだけでも殺意が芽生えるからな」
「処罰は………」
「それも裁判で裁かれる様にした。アルマは被害者だし、報告書対応で処理させるから、後は任せておけばいい。君からの話を全て伝えてあるから」
「……………そうでしたか……ありがとうございます」

 執務室から直接来たのかジークハルトは軽装ではなかった。
 上着を脱ぎ、上着からカサッと音が鳴り、ジークハルトは動きを止める。

「あ………そういえば……王城から、夜会の招待状が届いてる。他貴族からの招待状なら無視をするが、王家からは無視出来ないから、俺は行かなければならないんだが、アルマは如何する?」
「王都………私も行っても良いんですか?」
「夫婦だしね、王家の夜会は基本既婚者は夫婦揃って参加が義務付けられている」
「行きたいです!あまり王都に行けなかったから」

 アルマはジークハルトと結婚する前に、一度だけ王都に行っただけで、行けてはいない場所だった。
 リンデル伯爵領にも無い物を見るのは楽しかった思い出がある。

「じゃあ、夜会用のドレスを仕立てなきゃな」
「……………あ………そうですよね……そうなりますよね……ふ、普段の物でも充分ですから………」
「…………アルマ、甘えなさい」
「で、でも………贅沢です」
「俺の地位は?」
「公爵です」
「そう…………その分、収入は良い……愛しい妻を着飾るのに金の心配は要らない」
「っ!…………い、愛しい………」
「そ、それに君のご両親も来る筈だ。会いたいだろ?」
「それはもう……会いたいです」
「では、決まり………風呂に入ってくるから、先に休んでなさい」
「は、はい………」

 どうせなら、寝室に来る前に入っていて欲しかった、とアルマはこの日程思った事はなかった。
 疲れているジークハルトを癒やしたい、と思ったアルマは暇過ぎて侍女達に、男性を癒やす方法が無いかと、聞いて回っていたのだ。
 
 ---え、えっと……確か足の間に私が入って………あ、先に横になってもらわないと駄目だ!あぁっ!こんな事シた事無いから分からないわ!

 ベッドの上で正座し1人悶絶しているアルマは頭を掻きながら、団子の様に丸まっていた。

「あれ、まだ起きてたのか、アルマ」
「っ!………は、はい………お、お待ちしてました!」
「待ってなくても良いんだが………暫く俺は自制するつもりだったし………」
「じ、自制………」
「アルマの心の傷が癒えるのを待とう、とな…………また子供が欲しい、と強請られても、俺はまだアルマの期待に応えてやれないからな」

 ジークハルトは相変わらず、素肌にバスローブ姿に胸元を開けていて、色気がダダ漏れなのに、それが女のアルマへ煽っているという事が分からないのだろうか。
 その湯上がりの火照ったジークハルトは、アルマの頭を撫でてベッドに入ってしまった。

「そんな事を仰っても、私………知ってますから………」
「何を?」
「夜中、私の名を呼びながら、ご自分で慰めてらっしゃるの………知らないと思ってますか?」
「っ!………ね、寝てただろ!」
「…………流石に気付きます……名前を呼ばれて息遣い荒いのだもの」
「…………っ!」
「だから、私が今日はジーク様をお慰めします!」
「…………え?………ち、ちょっと待て!アルマ!」

 丁度仰向けになっていたジークハルトの羽織るバスローブを開き、足の間に咄嗟に挟まるアルマの身体。
 ジークハルトの履くトラウザーズ迄一気に脱がしてしまったのだ。

「…………は、初めてなので………下手だと思いますが私だってジーク様を癒やして差し上げたいんです!」
「くっ!………ア、アルマ………」

 まだ、ジークハルトの身体の様に寝転がる杭をアルマは握ると躊躇する事なく口に頬張った。
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