2 / 38
1
しおりを挟むアルマがジークハルトに嫁いで1ヶ月経った。
初夜の時も、ジークハルトは優しくしてはくれたが、子供はアルマがヴォルマ公爵領の生活に慣れたら考えよう、とジークハルトに言われた。
それは、アルマも安心する事ではあった。
16歳というまだ若いアルマには、覚えなければならない社交的な事が遅れていたからだ。
貧しい領地であった実家のリンデル伯爵領では、満足な教育が受けられてはいない。
アルマが知る知識等、王都に住む貴族令嬢達より遅れていたからだ。それでも領地の管理はアルマも公爵夫人としてしなければならない訳で、執事に教えて貰いながら、あっという間に1ヶ月経っていた。
「奥様、厩舎の補修工事の事ですが………」
「あ、はい!木材調達は予定通りだと聞いてますが、工事も予定通りに出来そうですか?」
「それは可能なのですが、修繕費が少し嵩みそうです。地盤沈下が見られ、難航するかと」
「地盤沈下?………土を盛らねばならない、という事ですか?」
「そうです。その工事を先にしなければ………」
「馬は大事な足です。多少の修繕費増額は致し方ないですから、厩舎を頑丈にさせて下さい」
貧しい領地出身だからか、優先すべき事を見る目は長けているアルマ。
そういう知識だけは意見を言えても、淑女教育は全くだった。
「アルマ」
「ジーク様、お帰りなさいませ」
「午後から、勉強だろう?領地の管理は任せて、準備をしておいで」
「………あ、もうこんな時間!行ってまいります」
「あぁ、頑張って」
アルマには居心地良い環境に間違いはない。
勉強も許されて、程々の領地管理の仕事。遊ぶ事は実家でもあまり無かったアルマだったが、ジークハルトは程良くアルマにも自由を与えてくれていた。
「明るくなりましたな、奥様が来られて」
「今迄はむさ苦しいだけだったからな」
「旦那様も王都では羽目を外していらっしゃったではないですか」
「結婚したんだぞ、女遊びはもう卒業だ………今、厩舎の事を話していたんだろ?」
「はい…………奥様は倹約家でいらしゃる様で、ヴォルマの森に自生する木材からの選び方も目利きが良く………」
「木材の目利き?」
「はい、通気性と湿気、乾燥等、野晒しになる厩舎ですから、馬達が快適に過ごせる様、丈夫且つ、劣化しにくい木を教えて頂きまして。今迄はそこら辺の木を適当に切ってましたが、それでは駄目だ、と」
「…………そういう知識は大したものだな。見習うべき所と教えなければならない所の見極めして、手助けしてやってくれ」
「御意」
ジークハルトが何故アルマを妻に、としたかはまだアルマも教えられてはいない。
ジークハルトから聞かされる時が来るのか如何か、アルマはまだ聞けないでいた。
勉強も終わり、アルマはヴォルマ公爵邸の書斎に来ていた。
「…………あ、この本まだ読んでない……あ、これも………」
知識は宝だ。
なかなか本を読む機会に恵まれなかったアルマは、時間があれば本を読み漁っている。
それでも、夜更しして読む事は出来ないではいるが、寝室のベッド脇に本を数冊置いておけば朝、起き上がれる迄少しは読めるので、その為に寝室に持込んでいる。
「と、取れな………あとちょっと………」
「これか?」
「っ!……ジーク様っ!」
「また寝室に持ち込み、朝の気怠さを紛らわすのか?アルマ………それなら、余韻を強く残さねばならないな」
「っ!」
書斎にジークハルトも用事があったのだろう。
アルマが取ろうとした本が届かずに、手を伸ばす本をジークハルトが取ってくれたのだ。
2人きりになり、ジークハルトはアルマが欲しかった本を手渡さず、アルマを背後から抱き締めてくる。
「明日の勉強は何?」
「マ、マナーの勉強です………」
「それじゃあ、体力は余り使わなそうだな………ん?」
「…………えっと………そうでしょうか………」
「そうだと思うのは俺だけか?………先に、寝室で待っててくれ。それ迄は君の好きな読書の時間だ」
「は、はい………」
「俺はまだ執務があるから、寝ないでくれよ?」
「っ!」
アルマの耳朶にジークハルトはキスを落とすと、取った本をアルマに持たせて、書斎から持ち出そうとしていた本をジークハルトは持って出て行った。
---ま、まだ慣れない……ジーク様との閨………
唯一、嫁いでから慣れないのはジークハルトとの閨だった。
寝室は一緒に、と初夜から言われ、子作りしないのに、身体を繋げているのだ。
繋がり、ジークハルトはアルマへ熱を注ぐ事なく、吐き出すのはアルマの身体の外だった。
達する直前、アルマの腹や背に出す白濁は、直ぐにジークハルトが拭き取ってはくれるが、夫婦なのだから子供を期待されている筈で、アルマも覚悟してジークハルトに嫁いで来た。
処女ではあったアルマだが、初夜での恐怖心を取り除いてくれたのもジークハルトであり、その優しさからアルマもジークハルトに心から信頼出来る様になっていた。
それでも、まだ気恥ずかしさはある訳で、ところ構わずジークハルトは、アルマにスキンシップをしてくるので、ヴォルマ公爵邸内の侍従達に微笑ましく傍観されている。
「奥様、此方でしたか」
「あ、はい!何かありました?」
「いえ、お食事の用意が出来ましたのでお探ししておりました。旦那様はまだお仕事があるので、執務室でお食事を取られるそうなので、奥様は食堂へお越し下さい」
「分かりました。本を部屋へ置いてきたら行きます」
アルマは侍従達より若く、同じ年頃の者は邸に居ない為、ついつい敬語で話してしまう。
公爵夫人となったのに、腰が低い若き妻を馬鹿にする侍従が居そうだが、アルマが見る限り誰もそういう扱いはしてこなかった。
31
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説

ワシが育てた……脳筋令嬢は虚弱王子の肉体改造後、彼の元から去ります
キムラましゅろう
恋愛
ある日、侯爵令嬢のマーガレットは唐突に前世の記憶が蘇った。
ここは前世で読んだ小説の世界で自分はヒロインと敵対するライバル令嬢ボジだということを。
でもマーガレットはそんな事よりも重要な役割を見出す。
それは虚弱故に薄幸で虚弱故に薄命だった推しの第二王子アルフォンスの肉体改造をして彼を幸せにする事だ。
努力の甲斐あって4年後、アルフォンスは誰もが憧れる眉目秀麗な健康優良児(青年)へと生まれ変わった。
そしてアルフォンスは小説通り、ヒロインとの出会いを果たす。
その時、マーガレットは……。
1話完結の読み切りです。
それ故の完全ご都合主義。ノークオリティノーリアリティノーリターンなお話です。
誤字脱字の宝庫です(断言)広いお心でお読み下さいませ。
小説になろうさんにも時差投稿します。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました
Kouei
恋愛
婚約者の様子がおかしい…
ご両親が事故で亡くなったばかりだと分かっているけれど…何かがおかしいわ。
忌明けを過ぎて…もう2か月近く会っていないし。
だから私は婚約者を尾行した。
するとそこで目にしたのは、婚約者そっくりの小さな男の子と美しい女性と一緒にいる彼の姿だった。
まさかっ 隠し妻と子供がいたなんて!!!
※誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品は、他サイトにも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる