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謝罪と親友
しおりを挟むその日の内に、航は羽美や律也からの報告で、裕司達の暴力の被害届を取り下げた。
「良かったの?お兄ちゃん」
「…………あぁ、それでアイツが変わるなら……」
「アイツ?」
「…………羽美、覚えてないか?小松 裕司」
「裕司さん?お兄ちゃんと仲良かった……」
「…………アイツには恩があるからな」
羽美には分からない、兄達の友情。
被害届が取り下げられて、警察署に身元引受人に、紗耶香が父親とやって来る。
「………裕司」
「紗耶香………」
「ごめん………ごめんね………私のせいで……」
紗耶香は、涙で溢れた目を手で覆い、謝罪する。それでも、紗耶香と一緒に居た紗耶香の父には裕司から謝罪しなければ、気が済まない。
「社長、申し訳ありませんでした」
「………もう、紗耶香もお前も解雇している……紗耶香と如何なったとて、私には関係無い事だ」
「…………それでも今迄の事は、やはり止めれた事もあると………」
「それは、私もだ………さぁ、帰るぞ紗耶香」
紗耶香の父は、踵を返し車の方へ歩き出す。
「お父様、裕司は………」
「裕司も自分の家に帰らせる」
「あの、俺帰る前に寄りたい所がありまして、そっちに行こうかと」
「何処だね?」
「親友の見舞いです………親友ともう思ってないかもですが」
「…………小山内さん?」
「………あぁ」
「………分かった、送って行こう。病院は何処か知ってるのか?」
「さっき聞きました」
「…………そうか」
航の病院に着いた裕司。
「ありがとうございます……後は自分で帰りますから」
「私も謝りに行く」
「紗耶香」
「お父様、私も謝らなきゃならないの」
「分かった……帰りの車を寄越しておく」
車は出発し、残された裕司と紗耶香。
部屋番号も聞いていたのか、病室の前に立って深呼吸してノックをする。
『はい』
裕司が申し訳無さそうに、そっと扉を開き顔を出した。
「…………よぉ、裕司………出てきたか」
「……すげ~なりだな、航」
「痛ぇよ!ボコスカ殴る蹴るしやがって」
「悪ぃ………」
「で?守れたか?大事なもん」
「分かんね」
「何だよ、分かんねぇって…………誰?あの美人」
「あ………白河 紗耶香です」
裕司はベッド脇にスタスタと入って来たが、紗耶香は違う。扉の前で固まり、様子を見ていた。
「あぁ、やっぱりお前の大事なもんは白河のお嬢様だった訳だ」
「お前っ!言うな!」
「え?そうだろ?」
「ち、違わねぇ……大事なもんだよ」
「ゆ、裕司……」
紗耶香が顔を赤らめので、航も察知する。
「そっか、良かったな守れて………これで俺も借り返せたかな……」
「借り………?」
ベッド脇の椅子を勝手に出して座った裕司。紗耶香の分もパイプ椅子だが差し出した。
「お前のムショ入った原因、知ってるからな俺…………俺の為だったろ?」
「………何だよ、知ってたのか」
「お前、俺が面会に行っても会わなかったじゃん……俺との縁切りしたかったのだって、俺の夢を邪魔したくなかったからだ……お前程気の合うダチ居なかったんだぜ?分からない訳ねぇだろ」
高校を卒業してから、航と裕司の進む方向は変わった。夢がある航と、夢がある航を応援するが、自分に夢が無かった裕司。いつしか裕司の夢が航が叶える夢になった。
素行が悪い2人に敵は多く、お礼参りは暫く続き、抵抗しない航に対し、その分仕返しした裕司が、傷害事件をお越して刑務所送りになったのは、航も責任をかんじていた。
いつしか、航も裕司に恩返ししたいと思っていたのだ。10数年振りに会った裕司は闇にまだ居たのも直ぐに理解し、大事なもんを守るのに足掻く裕司のSOSに気が付かない航ではなかったのだ。
ヒントをわざわざ航に残していったのが何よりも証拠だ。今裕司に置かれている状況から抜け出せないなら、抜け出せる事をしてやればいいだけ。だからこそ、被害届は出したものの、一切裕司の事は言わなかったのだ。
「何だよ………俺だけが………親友だと思ってたのに……何だよ……ホント、航はいい奴だな……」
「今更か!守りたいもんあるのはお前だけじゃねぇ!俺は羽美の幸せを奪う奴には容赦ねぇからな!だが、お前が関係してんなら、別の事を考えなきゃ、お前もお前の大事なもんも守れねぇだろ!………で?助かったんか?一緒に来たなら、もう速水 律也は如何でもいいんだろ?なぁ、お嬢様」
「っ………は……はい……申し訳……ありませんでした……もう……速水さんの方は……終わりました…」
「悪かったな、俺も……警察沙汰にしてよ………あ!裕司!そういやてめぇ、羽美の元彼氏!晃司の件では許せねぇからな!」
「…………晃司?………あ、あれは……」
「あ、あれも私の指示です!裕司は頼まれただけで!」
「…………退院したら、裕司1発殴らせろや」
「………やなこった」
「てめぇ……全治3ヶ月の恨みもあるんだからな!」
なんだかんだと、親友は辞めれないだろう。病室内で笑い声が絶え間なく続き、何度も注意されたのだが、航と裕司の話はずっと続いた。
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