上 下
38 / 46

謝罪と親友

しおりを挟む

 その日の内に、航は羽美や律也からの報告で、裕司達の暴力の被害届を取り下げた。

「良かったの?お兄ちゃん」
「…………あぁ、それでアイツが変わるなら……」
「アイツ?」
「…………羽美、覚えてないか?小松 裕司」
「裕司さん?お兄ちゃんと仲良かった……」
「…………アイツには恩があるからな」

 羽美には分からない、兄達の友情。
 被害届が取り下げられて、警察署に身元引受人に、紗耶香が父親とやって来る。

「………裕司」
「紗耶香………」
「ごめん………ごめんね………私のせいで……」

 紗耶香は、涙で溢れた目を手で覆い、謝罪する。それでも、紗耶香と一緒に居た紗耶香の父には裕司から謝罪しなければ、気が済まない。

「社長、申し訳ありませんでした」
「………もう、紗耶香もお前も解雇している……紗耶香と如何なったとて、私には関係無い事だ」
「…………それでも今迄の事は、やはり止めれた事もあると………」
「それは、私もだ………さぁ、帰るぞ紗耶香」

 紗耶香の父は、踵を返し車の方へ歩き出す。

「お父様、裕司は………」
「裕司も自分の家に帰らせる」
「あの、俺帰る前に寄りたい所がありまして、そっちに行こうかと」
「何処だね?」
の見舞いです………ともう思ってないかもですが」
「…………小山内さん?」
「………あぁ」
「………分かった、送って行こう。病院は何処か知ってるのか?」
「さっき聞きました」
「…………そうか」

 航の病院に着いた裕司。

「ありがとうございます……後は自分で帰りますから」
「私も謝りに行く」
「紗耶香」
「お父様、私も謝らなきゃならないの」
「分かった……帰りの車を寄越しておく」

 車は出発し、残された裕司と紗耶香。
 部屋番号も聞いていたのか、病室の前に立って深呼吸してノックをする。

『はい』

 裕司が申し訳無さそうに、そっと扉を開き顔を出した。

「…………よぉ、裕司………出てきたか」
「……すげ~なりだな、航」
「痛ぇよ!ボコスカ殴る蹴るしやがって」
「悪ぃ………」
「で?守れたか?
「分かんね」
「何だよ、分かんねぇって…………誰?あの美人」
「あ………白河 紗耶香です」

 裕司はベッド脇にスタスタと入って来たが、紗耶香は違う。扉の前で固まり、様子を見ていた。

「あぁ、やっぱりお前のは白河のお嬢様だった訳だ」
「お前っ!言うな!」
「え?そうだろ?」
「ち、違わねぇ……だよ」
「ゆ、裕司……」

 紗耶香が顔を赤らめので、航も察知する。

「そっか、良かったな守れて………これで俺も返せたかな……」
「借り………?」

 ベッド脇の椅子を勝手に出して座った裕司。紗耶香の分もパイプ椅子だが差し出した。

「お前のムショ入った原因、知ってるからな俺…………俺の為だったろ?」
「………何だよ、知ってたのか」
「お前、俺が面会に行っても会わなかったじゃん……俺との縁切りしたかったのだって、俺の夢を邪魔したくなかったからだ……お前程気の合うダチ居なかったんだぜ?分からない訳ねぇだろ」

 高校を卒業してから、航と裕司の進む方向は変わった。夢がある航と、夢がある航を応援するが、自分に夢が無かった裕司。いつしか裕司の夢が航が叶える夢になった。
 素行が悪い2人に敵は多く、は暫く続き、抵抗しない航に対し、その分仕返しした裕司が、傷害事件をお越して刑務所送りになったのは、航も責任をかんじていた。
 いつしか、航も裕司に恩返ししたいと思っていたのだ。10数年振りに会った裕司はにまだ居たのも直ぐに理解し、を守るのに足掻く裕司のSOSに気が付かない航ではなかったのだ。
 ヒントをわざわざ航に残していったのが何よりも証拠だ。今裕司に置かれている状況から抜け出せないなら、抜け出せる事をしてやればいいだけ。だからこそ、被害届は出したものの、一切裕司の事は言わなかったのだ。

「何だよ………俺だけが………だと思ってたのに……何だよ……ホント、航はいい奴だな……」
「今更か!守りたいもんあるのはお前だけじゃねぇ!俺は羽美の幸せを奪う奴には容赦ねぇからな!だが、お前が関係してんなら、別の事を考えなきゃ、お前もお前のも守れねぇだろ!………で?助かったんか?一緒に来たなら、もう速水 律也は如何でもいいんだろ?なぁ、お嬢様」
「っ………は……はい……申し訳……ありませんでした……もう……速水さんの方は……終わりました…」
「悪かったな、俺も……警察沙汰にしてよ………あ!裕司!そういやてめぇ、羽美の元彼氏!晃司の件では許せねぇからな!」
「…………晃司?………あ、あれは……」
「あ、あれも私の指示です!裕司は頼まれただけで!」
「…………退院したら、裕司1発殴らせろや」
「………やなこった」
「てめぇ……全治3ヶ月の恨みもあるんだからな!」

 なんだかんだと、は辞めれないだろう。病室内で笑い声が絶え間なく続き、何度も注意されたのだが、航と裕司の話はずっと続いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊っちゃまの計画的犯行

あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者? ※性的な描写が含まれます。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【完結】竿師、娼婦に堕ちる月の夜

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 首輪をされた女が幌ぐらい部屋のベッドの上で、裸にされていた。その女を囲む上半身裸の男達。  誰が閑静な洋館の1部屋で、この様な事が行われるのか、外からは思いもよらなかった。何故なら、この女は新しくメイドとしてやって来た女だったからだ。  主人の身の回りの世話や家事等の求人情報を紹介され来ただけである。  時は大正、西洋文化に侵食され始めた恋物語―。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

処理中です...