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義理の母

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 白河酒造の筆頭株主が律也の母の萌になって2日後、萌がイタリアから帰国した。

「勝真さ~ん、お久しぶり!」
「萌!」

 社長室で抱き締め合う、勝真と萌。その社長室には羽美と律也、大河が居る。

「り、律也さん……離婚されたご夫婦でしたよね?元……」
「あぁ、円満離婚………見合いで結婚したが、自由が好きで、堅苦しい社長夫人が大ッキライで、離婚届置いて出てった。それでも、離婚したのは俺達が高校、大学時代の時にな」
「そうそう、俺達にしっかり意見を聞いてから納得した上でね……仲が悪かった訳じゃないんだよ、羽美さん」

 姓で自由にしていたら、速水物産の社長夫人として、柵に雁字搦めになるのが嫌で、離婚したのだと言う。

「初めまして、羽美さん。律也と結婚してくれてありがとう………もうこの子ったら、几帳面過ぎて疲れると思うから、相手は出来ないと思ってたのよ~、良かったわぁ………で、孫まだ?律也」
「その話はと訳ありだから………」
「何よ、指輪デザインして作ってきてあげたのに………要らない訳?」
要る」
「結婚式は挙げてくれるんでしょうね」
「だから!それもに入ってんだよ!いいから仕事の話しようぜ!仕事の!」
「勝真さ~ん!つまんないつまんないつまんない!律也つまんない男になった!」
「はいはい………仕事させてよ、萌」

 我儘な元妻を宥め、背中を撫でる元夫。
 な夫婦の形があるのだと、垣間見える羽美。

「明日、白河酒造の面々が来る。業務提携するなら、縁談の件は無効とし、当初の契約。断るなら買収もしくは吸収合併、白河家は排除、その他社員は速水物産が面倒を見る……でいいんだな?」
「白紙に戻す、という案もありますよ……その代わり、俺が起てた計画プランは出来ませんが」
「株は如何するの?律也」
「言い値で買い取って貰うさ、戻したいならな。提携だろうと、買収だろうと合併だろうと………俺はあんな会社の株なんて要らないし、買い戻さなきゃ、二束三文で売り捌く」
「まぁ………なんて、ずる賢いの」

 二束三文で売り捌くなら利益にならないだろうが、白河家とは縁の無い所に売るだろう。律也とは人だと思っている羽美。

「そういえば、羽美さんのお兄さんは大丈夫かい?航君だよね?」
「あ、はい………すいません、社長御見舞戴きまして……父がお礼を申しておりました」
「やだなぁ、私は羽美さんの義理の父だよ、お義父さんと呼んでおくれ」
「親父、気持ち悪い」
「い、一応会社ですから………」
「オンオフ出来る羽美は流石だね、親父とは違う違う」
「あぁ、そうかい」
「勝真さん、息子はつまらないわね」
「そうだね、萌……でも娘が出来て良かった良かった」
「ホントね~」
「話終わったんなら、仕事戻るぞ親父」

 律也が立ち上がり、羽美の腕を掴むと、勝真は真面目な顔になる。

「律也」
「ん?」
「大河を副社長に添えるから、お前常務になりなさい」
「………は?……副社長なんてポスト無かったよな」
「副社長というのは名ばかり、ほぼ社長の仕事をしてもらう」
「親父は?」
「イタリアに萌と行こうかな?」
「あら、いいわねぇ~、私が勝真さん養ってあげる」
「は?………兄貴はいいのかよ!こんな事言われて!」

 羽美の腕を掴んだまま、空いた手で勝真を指差し、大河を見る律也。

「………まぁ、いいんじゃない?俺副社長のまま、律也を社長にさせる気なんだろ?父さん」
「大河、よく分かってるねぇ」
「兄貴が社長でいいだろ!」
「ゲイの社長はなぁ……バレた時、まだまだジェンダーへ風当たりが多いから、やりにくくなる気がするんだよ……俺のガラスの心臓が壊れるかも………」
「…………ふざけんなよ……心臓に毛が生えてるの間違いじゃないか?」
「律也が社長になるのはまだまだ先だ。常務になるのは次の人事異動の時期にするからそのつもりでいてくれ」
「………はぁ……」

 翌日、白河酒造の役員達が速水物産にやって来た。疲れ切った表情の者達の白河酒造側に対し、速水物産の方は鋭気がある。
 特に、白河会長は項垂れていて、覇気も無い。

「我々、白河酒造は業務提携を話を白紙に戻したいと思います」

 応えを出したのは、白河会長ではなく息子の社長だった。

「役員の白河 紗耶香が度重なる妨害をしてきていたのを、当人が白状しました。その指示を出したのは会長であった事も……幾ら縁談に応じて頂けなかったとはいえ、娘がして来た事は人として許し難い行為。会長辞任、娘の紗耶香は解雇通知を降しました。株に関しては、今迄の謝罪として買い取らさせていただけたら、と思いますが如何でしょう」
「こちらは元より、業務提携してもしなくても良かった事……株の取引の事は、森本 萌と、その出資者である速水 律也と決めて下さい」
「………寛大な措置、ありがとうございます……紗耶香、謝罪しなさい」

 この場には解雇となった紗耶香も居た。

「………この度は、律也氏の奥様にはご実家の事でご心痛を与えまして、及び羽美さんのお兄様に怪我を負わせたのは私の責任です……申し訳………ありませんでした」

 この3日間、白河家で何があったのかは分からない。だが、いい方向に向かって行く様に思えた。
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