上 下
33 / 46

重役会議

しおりを挟む

 重役会議が、朝から行なわれた。
 律也が会議室に入ると、末席に座る。

「おや、森本君も居るのかね」
「専務お疲れ様です」
「係長が重役会議に出るとはね……」
「…………」

 やれやれ、と顔が出ている専務は、不服そうに椅子に座った。『係長風情が』と言われている様だ。

「律也、もう来ていたか」
「……新参者ですからね」

 常務である大河も来ると、専務の空気は変わる。

「朝、母さんから連絡が来たが、えげつない事やるね」
「いいじゃないか、腹立てさせてくれた代償だ」
「じ、常務?……森本君とはどういうご関係で?」
「弟ですが?が多くなると、紛らわしいでしょう?律也は母の姓で仕事していただけで、事実上父の後継者ですよ」
「え!常務が次期社長じゃ……」
「僕は、サポートに徹します。弟の方が経営に向いてますからね」
「俺は兄貴の下でいいと言うのに、俺を持ち上げるのは止めてくれよ」
「そ、そうでしたか………い、いやぁ……森本君が……」

 長い物には巻かれろ、とでも言うのだろうか、急にヘコヘコとし始める専務に呆れる律也。

「律也、父さん……社長が人事異動もすると言っていたから、律也の役職変わるかもね」
「俺はいい」
「言うと思った……言われたら自分から断れよ………一応、嫌がるから止めたら、とは言っておいたけど」
「昇進は誰かが定年退職したらでいいし、態々役職を空ける事もないだろ」

 と、律也は専務をチラ見する。先程のも兼ねてだ。その律也の目に萎縮する専務。

「律也、揶揄うんじゃないよ、専務も仕事が出来る人なんだから、にするなよ」
「………失礼、専務」
「い、いえ………」

 続々と、重役達が入ってくると会議が始まる。業務提携の話が主であったが、途中経過で提携に難色を見せる重役も居る中で、噂にもなっていた見合いの話が出て来た。

「業務提携に白河酒造のご令嬢と縁談もあったと聞き及んでおりましたが、何故常務ではなく森本君だったのか分かり兼ねます」
「それは、私の息子だからだ」
「「「え!」」」

 社長であり律也の父、勝真が公表する。

「律也の希望であったのもあり、知っていたのは人事部長と常務しか居ない………それを何処から調べたのか、白河酒造が律也に白羽の矢を立て、紗耶香嬢との結婚をチラつかせて業務提携を提示してきた。我社は何も業務提携せずとも利益率はあまり変わらん、意味が無い……律也がそれを考え、兼てより交際していた社員と結婚をした程だ。それを白河酒造がどう出るかは動向を見ている。買収等はさせるつもりもないので、先手を打った」
「な、何を……」
「律也は先日から白河酒造の持ち株、グループ会社の持ち株を買い続けている」
「そ、それは……我社が白河酒造を買収すると?」

 業務提携ではなく買収する行為。

「律也の名義ではない……私の元妻、森本 萌の名義だ………事実上、筆頭株主になれば白河酒造も無謀な事はしまい………現に律也の妻、羽美の実家は白河酒造の妨害を受けたのでな」
「妨害を続けるなら、業務提携等はしなくていいのでは」
「勿論、そうだ……たが、律也は業務提携後の収益向上の計画プランも起てている………業務提携をするなら、我社が優位に立てねば意味は無い、あの白河酒造のは引退してもらわねば、妨害が起こり得るからな………重役達も白河酒造の者との付き合いを注意するように」

 その他重要案件の会議を終わらせ、朝から続いた会議は昼休憩直前だった。

 ―――腹減ったな……

 律也が会議室を出ようとすると、忽ち律也は囲まれる。

「感服致しましたよ、律也さん」
「社長も安泰ですな」
「常務といい、次男の律也さんといい、素晴らしい後継者が2人も」

 掌を返す様な重役達の態度に、専務の時と同じ感覚を味わう。

「皆さん、仕事を抱えていらっしゃる筈。私もを抱えてる為、失礼します」

 さっさと出てしまおう、とPCを抱えて律也は会議室を後にした。

「律也、飯食いに行かないか?」
があるから行かね……言ったろ?て」
「…………フッ……ご馳走さん……」

 営業部に戻ると、弁当を持って来ている社員達が、ミーティングルームに集まって、先に食べていた。

「お疲れ様」
「係長、会議お疲れ様でした」
「俺もここいい?」
「あ、はい!どうぞどうぞ!奥様の隣開けます!」
「ち、ちょっと!」
「何だよ、いいじゃないか」

 羽美は照れ臭そうにしていて、顔が赤い。と呼ばれ慣れていないのもあるだろう。

「係長は小山内さんを呼び捨てにしてましたが、小山内さんは係長の事なんて呼んでるの?」
「おい、高田……もう小山内じゃないだろ」
「あ、そっか……森本さんだ」
「………あぁ、そうだ……その内発表するが、実は俺達、だから」
「速水?」
「社長と常務の名字ですね……親戚とか?」
「親父と兄貴……速水の名だと、皆畏まるだろ?係長なんて役職でも」

 色目も使われるし、と律也は続ける。
 確かに赴任当初から、姓だと、社長や常務の近親者だと勘ぐってしまっただろう羽美。そうなれば恋心も直ぐに消し去る様にしていたかもしれない。

「お、驚きました……」

 皆、食べるのを止め、固まっている。

「お、美味そう……羽美、頂きます」
「あ、はい……」
「愛妻弁当ですねぇ、係長」
「羽美のお父さんは料理人だからな、何を食べても美味いよ。親の仕事見て育てば味も似るしな」

 麗らかな昼下がり、会社の営業部内は平和であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。 ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。 同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。 ※♡話はHシーンです ※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。 ※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。 ※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。

すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!? 「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」 (こんなの・・・初めてっ・・!) ぐずぐずに溶かされる夜。 焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。 「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」 「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」 何度登りつめても終わらない。 終わるのは・・・私が気を失う時だった。 ーーーーーーーーーー 「・・・赤ちゃん・・?」 「堕ろすよな?」 「私は産みたい。」 「医者として許可はできない・・!」 食い違う想い。    「でも・・・」 ※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。 ※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 それでは、お楽しみください。 【初回完結日2020.05.25】 【修正開始2023.05.08】

【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛
恋愛
白河 紗耶香は老舗酒造会社の跡取りとして、育てられた深層の令嬢だった。 だが、闇の中で育てられた、悲しく寂しい女。 跡取りとして、両親に育てられたのではなく、祖父に厳しく育てられ、両親からの愛情を感じた事がなかったのだ。 ある日突然、祖父が『ある男と結婚しろ』と言い出し、男を知らない紗耶香は戸惑いながら、近付く。 陰ながら、紗耶香の傍で紗耶香のお目付け役だった小松 裕司への思いを心の気持ちに鍵を厳重に締め、紗耶香は『ある男』森本 律也を好きな態度を取るのだが…… ※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】 と、【惚れた男は陰気で根暗な同僚でした】のキャラが登場します。 少し話は重なる所がありますが、主人公が違うので視点も変わります。【Mにされた〜】の完結後がメインストーリーとなりまして、序盤が重なります。 ※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。 ※プラトニックの話なのでHシーンは少ないですが、♡がある話はHシーンです。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

令嬢たちの破廉恥花嫁修行

雑煮
恋愛
女はスケベでなんぼなアホエロ世界で花嫁修行と称して神官たちに色々な破廉恥な行為を受ける貴族令嬢たちのお話。

処理中です...