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玉砕
しおりを挟む紗耶香は微笑み後、口にハンカチを添え話を始めた。暑くもなく必要であろうかハンカチを手に持ち、淑やかさをアピールしている様だ。
「まぁ、ご兄弟でしたのね?………私は祖父が速水物産の営業係長が、私の見合い相手に良いのではないか、と言われてからですよ?私が律也さんをお慕いしたのは……速水常務とはお付き合いありますし、お取次願っただけですわ」
「…………白々しい芝居は要りませんよ、紗耶香さん……一社員の役職でも下っ端の係長の私が、白河酒造の役に立てる訳もない。白河酒造の会長で貴女のお祖父様はやり手なのは知ってますから、それぐらい調べるのは簡単でしょう?………私の個人的情報や、兄の個人的情報を知り得るぐらいはお手の物の筈」
「まぁ……私の好意がそんな悪意の様に思われてしまわれたのですか?律也さん……」
律也は、表情も変えない。
「私への好意は伝わっていません……寧ろ、悪意が見られるのですが?」
「何の事ですか?」
「………私の妻の実家の事ですよ」
「…………妻?」
紗耶香の顔色が変わる。ハンカチを握り締め、ワナワナと震えていた。
「私の妻の実家は白河酒造と取引をしていた……それが最近打ち切られましてね………白河酒造……貴女の勤める会社だ。紗耶香さんも役員の1人、一介の料亭に卸す酒類の配送や取引を打ち切る事等簡単でしょう?妻は、翻弄しましたが………何かご存知では?」
「…………さ、さぁ…何の事やら……」
「今日以降、妻の実家に関与するのであれば、健全な業務提携も考え直さねばならない事になり得るか、と………なんせ、私はこの会社の後継者候補……兄の大河のサポートに回っても構わないが、我社との業務提携を望んだのは白河酒造です………私の妻の実家の件で、どうその取引が変わるか……賢い紗耶香さんなら分かるのではないでしょうか?………そうでしょう?常務」
「大事な弟の妻なら、私にとっても妹になる……大事な家族になったのだから、身内に支障があるのは困りますね………困ったな……」
コンコン。
「………どうぞ」
「失礼します………お茶を淹れ変えますね」
「……………ありがとう、羽美さん」
「!」
紗耶香は黙って聞いていたが、羽美を凝視する。
「紗耶香さん、彼女が如何かしました?」
律也はわざと羽美を紹介しない。
「い………いえ……」
「それで?………手を引いて頂けます?割烹料亭おさないから」
「…………わ、私には分かりかねます!」
「遅くても明日以降、早くて今すぐ………貴女の権限でお願いしますね、業務提携を速水物産としたいなら……」
「失礼します!」
「あ、紗耶香さん」
「ま、まだ何か?」
紗耶香は新しく淹れられた紅茶を飲む事なく立ち上がり、応接室のドアの前迄来て、律也に呼び止められる。
「紹介しましょう……私の妻、速水 羽美です………羽美、白河酒造の白河 紗耶香さんだ。実家の料亭が懇意にしているだろう?」
「ご挨拶遅れました、速水 律也と先頃結婚しました、羽美と申します……実家は割烹料亭おさないという店を切り盛りしています……白河酒造様とは良い取引をさせて頂いております」
羽美は深々と紗耶香に頭を下げた。
「………そ、そうですか………ご結婚おめでとうございます……後日お祝いさせて頂きますわ………失礼します!」
「紗耶香さん、今夜のお誘いは如何しますか?」
「…………し、新婚ですもの……お邪魔しては失礼ですものね………無かった事にして下さいませ……」
紗耶香が応接室を出て行くと、律也と大河は爆笑をする。
「律也………やり過ぎだ……」
「まぁ、これで羽美の実家は大丈夫だろう………もしゴネるなら、録音した声を晒せばいいさ………見たか、羽美、あの女の悔しそうな顔!」
「…………見ましたけど、あそこ迄の顔をさせる意味ありました?」
「羽美さんは知らないだろうけど、彼女かなりプライド高いから、撤回する事は無いし、ズタボロにしないとまた来られちゃうからね」
「せっかく、羽美が淹れた紅茶だ、飲んで仕事に戻ろう」
羽美は、応接室に入ってからしかの状況しか知らなかったが、後から律也から、録音したボイスレコーダーの音声からは、紗耶香のプライドの高さや自信に満ちた話方、それから言葉を詰まらす様子等伺えた。
そして、翌日には羽美の実家になる店の取引が再開された、と航から連絡が入る。
『何があったんだ?羽美』
「律也さんが、白河酒造の人と話し合ったのよ」
『へぇ~、助かった、と伝えておいてくれ』
「うん、分かった」
だが、紗耶香の怒りは治まる事は無い。これからどんな事があるのかは、羽美は全く知る由もなかった。
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