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電撃
しおりを挟む某クラブのVIPルーム。
カクテルを片手に、ソファで足を組み、一口口に入れる女が居た。
「悪くないわ……コレ出して」
「はい、オーナー」
テーブルにカクテルを戻し、取巻きらしき男達に囲まれ、目の前に座る男と女を見る。
「接近禁止命令取り下げようとしたからって、出来なかったのよ!何考えてるの!会いに行こうとするなんて!」
「す、すまない……」
「その日の内に確認しに行くなんて、思ってたより行動早いのね………まぁ、お店の方は手を回して、取引は出来ないままではあるけど…………ふふふ……」
取巻きを従えているのは白河 紗耶香。その前に居るのは、晃司と泉だ。
「私の獲物なんだから、横取りは困るわ………その為に、貴方にあの女を返してあげようとしてるんだから、協力してくれないと」
「ちょっと………律也は私のよ!本妻はアンタに譲るけど、本命は私なんだから!」
「泉さんも、うろちょろし過ぎじゃない?………噂も出回るの早過ぎちゃってるし……私との婚約話を先に噂を流したかったのよ?だからこそ、白河酒造の令嬢として、お淑やかに律也さんに会いに行って印象付けていたのに、貴女の印象が強過ぎて、私の印象は消えてしまったのよ?………いい迷惑だわ」
どうやら、紗耶香には腹黒い一面がある様だ。そして、威圧感により泉はともかく、晃司は萎縮気味だ。
「私は、律也さんと律也さんが次期社長になるあの会社が欲しいの………泉さんは律也さんの愛人の座、晃司さんはあの女……目的は遂行しましょうよ、だからこそ私の指示に従って貰わなきゃ上手くいかないわ……お願いね」
紗耶香は取巻きに目配りさせると、泉と晃司をVIPルームから追い出す。
「ホント………使えない人達……誰が愛人にも本命にもさせるもんですか………律也さんは私が全て貰うのよ………無茶苦茶にしてあげようかしら、あの女………ねぇ?」
「指示あるなら、やろうか?紗耶香」
「………それは、まだ早いかもね………その時はお願い……あの晃司を使ってね………ふふふ…」
❊❆❊❆❊❆❊
一方、割烹料亭おさない。
「ストーカー男だと?」
律也が店の奥で、羽美と航と話している。
羽美が電話で話して、仕事終わりに律也は車でやって来たのだ。
「俺の名前で被害届出してた………羽美じゃねぇ……そこ迄調べてやがる………誰にもその事は言ってないからな……警察に手を回される可能性もあるんじゃね?」
「すまない、羽美……午後から雰囲気変わったのを気付きながら、何もしてやれなかったな」
「いえ、仕事忙しかったですから……お店の方が心配で………白河酒造は大手でこの近辺の酒屋は、配達も断わられてしまって、買いに行くにも店の名で領収書も頼めず……」
領収書が無ければ売上経常に影響してしまう。家庭消費と、店消費とは違うものだからだ。領収書が無ければ家庭消費となってしまう。
「羽美から電話があった後……俺も親父と兄貴に話したんだが……白河酒造の紗耶香嬢と話す機会を設ける」
「アンタ、羽美と別れてその女と結婚すりゃ、この店守れると思ってんのか?」
「…………その案が一番手っ取り早いでしょうが、俺はそんな気は全くありませんよ………羽美を守る方法は他にもありますし」
「何だよ」
「…………羽美」
「はい」
律也はスーツから封筒を取り出す。区役所の封筒だ。
「………こうすれば、法的に羽美を守る事も出来る………勿論、コレは時期的に早いと思うし、羽美だけじゃない……君の家族の問題でもある………俺の家族は了承済みだ」
「…………」
羽美はその封筒から中の紙を取り出した。
「…………婚姻届……?」
「は!?何だと!」
羽美の横に座る航が羽美の手から奪う。
「な…………何だよ……アンタの名前も、承認欄も速水社長の名前書いてあるじゃねぇか!」
「航!煩いよ!静かにしなさい!お客様いらっしゃるんだから!」
店は営業中だ。暇であったのもあるが、如何しても航は羽美と律也と話す必要があると思い同席している。
「それなら羽美を守れます………重婚は法的に認められない。受理されれば当人以外10日以内でなければ受理取り消しも出来ない」
「………紗耶香さんが、律也さんと結婚しようとしても、離婚しなければ紗耶香さんの計画がスムーズにいかない……という事になりますね……」
「羽美に傷付くじゃねぇか!戸籍の!」
「離婚すれば傷付きますね」
「…………ぐっ………」
納得するが、納得したくない航。
「婚姻届が受理された後、紗耶香嬢と俺が会えばいい………それでどう動くか……諦めて貰えるなら、それでいい……俺と羽美の関係はその後改めて考えればいいし、付き合いを解消するつもりは無いから、そのままでもいいと思ってる」
「………おい………それ、羽美に対するプロポーズじゃねぇだろうな……」
「プロポーズなら、ちゃんと言いますよ、お兄さん」
「俺はアンタの兄貴じゃねぇ!」
「航!」
羽美と航の母から激が飛ぶ。
「じゃあ、航さんでいいですか?………今も言ったように、羽美の気持ちも家族の意見も重要だ」
「…………ちょっと待ってろ……親父やお袋の意見もある……店閉めてからでいいか?」
「構いません」
そして、航は店の仕事に戻って行った。
「羽美………」
「はい」
「本番は、ちゃんと言うから」
「っ!」
「俺にとっては………羽美以上の女居ないからな……それは言っておく」
閉店し、羽美の両親に再び説明する律也。
「………分かりました、それが最善策なら……」
「………えぇ……羽美も速水さんには好意持ってますし……」
「条件がある!」
「何でしょう」
「もう清くねぇかもしれないが、籍入れても、これからは清くいてもらうからな!子供なんて出来てみろ、別れた時に傷付くのは羽美だからな!」
「別れなきゃいいんじゃないですか」
「くっ!………羽美!貸せ!承認欄書いてやる!」
「お兄ちゃん……」
航は自分の名を承認者として婚姻届に記入し、羽美にペンと婚姻届を渡す。
「羽美!書け!」
「…………律也さんはいいんですか?」
「大歓迎………序に言えば親父も兄貴も万歳三唱したぐらい」
「ば、万歳三唱…………はい……書きました」
「………うん……じゃ、明日朝一で出しに行くから、羽美……」
「はい?」
「俺達の家に帰ろうか」
「何が俺達の家だ!」
「結婚するんですし、俺の家からの方が区役所近いですし、なんなら実家住まいだと、警備会社も呼べます……身の安全は俺が保証しますよ?」
「…………ぐっ……」
律也は立ち上がり、羽美の腕を取る。
「な、何も準備してませんが………」
「服も下着もアメニティも揃えてあるだろ?身1つで充分」
確かに二週間、週末は律也のマンションだ。もう直ぐ三週間目に入るのに、あれよあれよと結婚迄してしまった羽美は、既にキャパはオーバーしっぱなしだった。
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