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頼もしき兄

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「羽美!」
「………お兄ちゃん!」
「早く乗れ!」
「うん」

 会社へ迎えに来た航。

「警察行くぞ」
「…………うん……」

 昼休憩中、航に連絡した羽美。

『晃司が、会社に来たみたい』
『何だと!』
『警察に連れてって』
『仕事終わる頃迎えに行ってやる』

 それで、そのまま警察に直行するのだ。

「何でアイツが来るんだよ」
「分からない………後輩が言うには、会社には入れなかったからその子に話掛けてきた、て」
「でも、アイツ何でお前とその子の接点知ってんだよ、あのビルに何百人と居るだろ」

 身体を震わせながら、羽美が考えられる事を口にする。

「スマホ買い替えた時、会社でたまに自撮りしてたのを見せた事あった記憶あるの………その子との自撮りもあったから……」
「記憶無くなる迄殴りてぇ……」
「暴力沙汰はやめてよ?」
「やるかよ、願望だ………煙草吸うぞ」
「禁煙は?」
「出来るか!」

 航は羽美を悲しませる人間を絶対に許さない。航は学が無い分、荒れていた。その腹癒せで妹の羽美は虐められた事もある。それが航の怒りの矛先となり、虐めた者達へ制裁をしていた負の連鎖だ。
 それからというもの、航は羽美のナイトに徹している。彼女も居たが、羽美が何事にも優先で長続きはしない。

『羽美を幸せにする男が現れる迄は、俺は結婚しねぇ』

 と、口癖になっている。
 だからこそ、今の彼氏の律也にも、警戒心が強い。

「で?………言ってあんのかよ、あの男に」
「あの男?」
「森本だか、速水だか、名前偽証の奴だよ!」
「理由ある、て言ったでしょ?名前偽証は……籍は速水だって言ってたんだから……仕事上の名前だけよ………律也さんにはまだ言えてない……晃司の事は少し以前に話したけど」
「…………何て?」
「特に何も………付き合った男が悪かっただけ、てぐらい」
「一応話しておけよ、になるならな」
「…………お兄ちゃん……」
「会社の近くに住んでるんだろ?……ただそのだ!」

 今迄の羽美の交際相手は年齢は羽美と同じ歳か、1、2歳差。だが律也は4歳年上で、航と同じ歳だ。それだけでも包容力も考え方も違う。航が見てもチャラチャラした印象は無かったのと、羽美が律也に本気だと見えたから見守るだけだ。しかも、社会的地位もあるのは確認している。

「着いたぞ」
「うん」

 警察署に着き、ストーカー被害の件で担当と面会を求めた羽美と航。

「小山内 羽美さんね………接近禁止命令はそのままです」
「解除とか出来るのか?」
「勿論、解除になってませんよ…………出来ませんし……あれ?おかしいな……」
「おかしい、て何がだよ」
「お兄ちゃん、言葉遣い悪いよ」
「あぁ?大ッキライな警察署に来て、頭下げて被害届出しに来たんだ、それもまた来る羽目になったのが、どれだけ腹立つか分かるか!羽美」
「すいません、兄が……」
「ま、まぁ……に料理人されてますから………ですが、取り下げたい、と相談あった、とありますね」
「「え?」」

 羽美も航も身に覚え等は無い。

「そんな訳あるか!俺はそんな事しねぇ!羽美に恐怖心与えた男だぞ!」
「…………それは分かりかねますが……事実記載ありますので」
「冗談言うなよ………どれだけ禁止命令が出る迄我慢したと思ってやがる………殴りたいのも我慢して我慢して……やっと落ち着いたんだぞ………」
「取締は??」
「…………う~ん、話からでは会ってないのですよね……」

 逮捕は難しい、とその一点張りの警察。最後迄、航は抗議したが無理だった。

「クソッ!公務員は頭硬すぎて嫌になるぜ……」
「私はお兄ちゃんが暴れなくてホッとしてるけど………」
「…………暴れそうだったがな……」
「駄目」

 .•*¨*•.¸¸♬

「親父からだ………もしも~し………え?ビールと日本酒?何で、いつも配達あるじゃん、俺発注出してんぞ?」

 父からの電話だ。

「は?…………何で配達切られんだよ!………取引も切られた?他の店は!………何だよそれ!」
「お兄ちゃん?」

 電話を切る航。

「酒屋行って帰るぞ、羽美………」
「何があったの?」
「…………取引してた酒屋に取引切られたんだと」
「…………え?……まさか白河酒造?」
「…………そのまさか………何だ、羽美思い当たる事でもあるのか?」
「…………うん……とりあえず、白河酒造以外の酒屋さんで買って帰ろう、お兄ちゃん」

 嫌な予感ばかり的中するものだ。白河酒造は羽美の両親の店を妨害してきた、律也の父勝真の予想を的中した。

「ちょっと、電話するね」
「何処に?」
「律也さん」
「イチャイチャすんなら、俺が居ねえ所でやれ!」
「違うよ!白河酒造の事は会社に関係してるから報告しなきゃ」
「…………何?」
「白河酒造は令嬢を、律也さんと結婚させたがってるの………業務提携の話もあるから……それには私の存在が、白河酒造には邪魔なのよ」
「…………金持ちのやる事はえげつないぜ」
「………もしかして……」
「まだ何かあるのかよ!」
「晃司の存在も知られた?」
「…………やめろよ……そんな憶測」

 車の窓を開け、煙草に火を着けようとライターを手にした航が、空焚きして火をつけられない。

「だって……私を調べれば、晃司の事も分かるでしょう?」
「…………白河酒造がやったって言いたいのか!」
「わ、分からないけど………辻褄が………合うし……」
「呼び出せ!お前の彼氏!」

 煙草に火を着けれないので、諦めた航は煙草を折って、車内に放り投げたのだった。




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