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泉と紗耶香
しおりを挟む「あの後、律也は所沢 泉が如何したか知らないだろ?」
「興味無い」
「紗耶香嬢が所沢 泉に近付いた」
「…………マジか……」
律也が頭を抱える。
それが何が悪いのか、羽美には見えない。
「あの後、所沢泉と、紗耶香嬢は一緒に消えたぞ、律也」
「紗耶香嬢にバレるどころじゃない、白河会食にも知られ、業務提携もこっちの事を餌に、主導権取られ兼ねない」
「…………紗耶香嬢に会う必要あるじゃねぇか……泉は口が軽い……絶対に知られる」
「白河が居る事は律也は知らなかったとはいえ、あの場でキスした事で、小山内さんも白河からコンタクトがあるかもしれないんだよ」
勝真が羽美に話す。
それについて、羽美は頷いた。
「私は、もしそうなったら何と対応すれば宜しいでしょう、社長」
「肯定も否定もしない方が良いとは思うが、君の実家は割烹料亭おさないだろう?白河酒造と取引が無くても、邪魔はされるかもしれないね」
「…………あった筈です……白河酒造と」
「羽美は俺が守る………店にも手を出させない様に動く」
膝上に置く羽美の手を握る律也。
「へぇ~、律也の本気の顔初めて見たよ………大河は?」
「俺はこの前見ましたよ、常務室で見合いセッティングするな、と怒鳴られて」
「揶揄わないでくれ、親父も兄貴も」
「感心してるんだよ、小山内さんが律也を本気にさせたから……このまま婚姻届にサインしようか?承認欄に」
「いいですね、それ………それなら、万次解決じゃないですか、父さん………結婚したら紗耶香嬢も諦めるでしょうし」
「あのな!俺達は付き合い始めてまだ二週間だ!家や会社の揉め事に羽美を巻き込むな!………ただでさえ、昨日兄貴の事話した所なのに……」
そうなのだ、まだ二週間しか付き合っていないのに、羽美は律也の父や兄と顔を合わせ、結婚させられそうになっていて、律也の家庭の事情をこんなにも早くに知り戸惑っている暇もないぐらい、キャパオーバーしそうなのだ。それに律也も疲れていそうな様子が見て取れる。
「それはすまないね………小山内さんも驚いたろう?」
「それは………まぁ……はい……かなり……でも公言はしませんので!」
「…………あぁ、今すぐ抱き潰してぇ……可愛い………」
「重症だな、律也」
「恋は盲目だからね」
そのまま、昼食を一緒に、と勝真や大河に言われた羽美と律也だが、律也はさっさと逃げ出した。
「本当に、帰って来ちゃっていいんですか?久々の家族団欒とかでは?」
「構わないよ………ウザいから帰る………てか、電話で済みそうなのにわざわざ会いに来い、だなんて面倒なだけだろ」
それでも、会いに行く辺り、大事にしている関係なのだと見受けられた。本当に放置したいなら、兄の大河の心配をする事もないだろう。会社の事もそうだ。逃げて来たと言うが、それも一部は家族や会社の為の様にも見えたのだ。
「律也さんは優しいですね」
「……そうか?」
「そう思います……部下に対しても、常務のお兄さんの事にしても」
「教えてくれたのは羽美さ」
「え?」
「営業部をまとめ上げるのに、どんなに助けられてるか、考えてないだろう?羽美は」
「普段から、サポートしているだけですよ?」
「部下への指示出しも的確、営業社員のスケジュール管理、外部への気遣い………見てきたが凄いな、と思ってる……だから………まぁ……こうして一緒に過ごしたいな、と思ってだな………好きだな……と」
羽美に見つめられ、照れて来たのか吃っていく律也。
羽美は日々、律也を好きになっている気がする。セックスに関しては戸惑っているが、好きなら許せてしまいそうになってしまった。
「………離されたくないです……私……」
「…………」
「泉さん、という人からも、白河酒造のご令嬢からも」
「…………ヤバイな……抱きたくなってきた……」
「マンション迄我慢してください!」
「…………あぁぁっ!クソッ!」
「…………縛ってもらって………いいので……」
「任せろ」
やる気満々を見せた律也に早まった、と過ぎる羽美だった。
❊❆❊❆❊❆❊
金曜日の夜に遡る。
会社の前で、所沢 泉が羽美を睨むのを見ていた白河 紗耶香。
「お祖父様、今日は無理ですわ………律也さん、帰られてしまいました」
「………また逃げおったか、あの小僧……」
「私、ちょっと野暮用が出来ましたから、お祖父様は先にお帰り下さい」
「紗耶香?」
白河会長を車に乗せ帰らせ、1人羽美と律也が去った方向を一点に見つめる泉に、紗耶香は歩み寄る。
「律也さんとお知り合いですか?」
「…………何?貴女」
「私、律也さんの婚約者なんです………会社関係で繋がった……貴女は、律也さんの恋人だった方ですか?」
「だったじゃないわ!現在進行形よ!貴女こそ、何が婚約者よ!律也はね、お嬢様風の女はタイプじゃないの!」
「えぇ、ですから私は会社関係で繋がった婚約者……恋愛感情等ありませんよ?誤解なさらないで?」
泉は紗耶香を目部味する様に見ると同時に、紗耶香も泉の人間性を観察していた。
―――突っつけば直ぐに泣きそうな女だわ
と、泉が思えば、紗耶香も泉に対して。
―――頭のネジが弱そうなお馬鹿さんタイプの人ね
と、思った出会い。
「律也さんの事で伺いたい事がありますの……お時間頂けるなら、最高級のステーキをご馳走しますわ」
「…………いいわ……だけど私は律也を貴女に譲る気は無いわよ……あの女にだってね……」
―――律也さんがキスしていた女性の事も調べなければね……
泉が、紗耶香の駒になるのも時間の問題だった。
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