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恋人VS兄
しおりを挟む少し遡り、律也の車の車内。
「お兄さん……シスコンか?」
「如何でしょう……昔から心配性で、私が学校で男の子と話してるの見ると、邪魔はしてきましたね」
「それがシスコン、て言うんじゃないのか?」
「………あぁ……それがシスコンと言うならそうかも………4歳違うので、中学高校は無かったですが、家の周りに彷徨く男の子達には牽制してたみたいです。両親が教えてくれましたが」
「………敵は兄貴か……」
律也はポソっと呟く。
「ん?何か言いました?」
「いや………そういえば、縄の痕は服着ていたら分からない様に結んだが、痕消える迄はお兄さんに肌見せるなよ」
「見ませんよ、見せませんし………心配させそうだし………」
そんな話をしながら、店に到着すると、仁王立ちしている航。
「お兄ちゃん!な、何してんの!あれ!」
「羽美、今熱が出てる、て事になってるんだ、元気そうに見せるんじゃない」
「あ………そうでした…」
停車すると、羽美を助手席に残し、律也がドアを外から開ける。体調が悪い振りをしなければならない羽美は、律也の言う通りにする。
「羽美!大丈夫か!」
「………あ、うん……大丈夫……」
「すいません、お兄さん……遅くなりまして」
「俺は貴方の兄じゃないんで………さ、羽美……お兄ちゃんが担いでやる」
「………それはいい……歩けるから……」
羽美も分かる程、航と律也の間に火花が見えた。
航は律也に牽制しているし、律也は律也で、糸口を探っている様だった。
「閉店間際でも、食事していっても大丈夫ですかね?」
「………羽美を連れ帰った人を追い返したら親父に怒られますから」
―――親父さんも難癖か?おい……
店内に入ると、羽美の母が心配そうに奥から出て来た。
「羽美、とりあえず座敷に座りなさい……ありがとうございます、羽美の母です」
「羽美さんの、上司で速水 律也と申します……職場では母の姓で係長をしていますが、社長である父と同じ姓では仕事に支障があり、森本と名乗っています」
「ま、まぁ……そんな方に羽美はお世話になってしまったんですね……速水社長にも度々ご利用して頂いてるんですよ………どうぞどうぞ……お口に合えば良いですが………」
「母さん!合うに決まってんだろ!親父の腕と俺の腕ありゃ、不味いなんて言わせねぇ!」
「航!またそんな口悪い事を!………すいませんね、羽美の兄の航は、羽美の事には本当に煩くて……」
座敷に座る羽美を心配してか、熱を測ろうと、羽美の額に直接額を合わせようとする航を、律也は見た。
―――な!シスコン過ぎるだろ!
「ち、ちょっと!お兄ちゃん!体温計にしてよ!兄妹でも近い!」
「熱を測るだけじゃねぇか!」
「航!手伝え!」
カウンターから、父が声を掛けてくれたおかげで、律也はホッとする。
「ちっ………分かったよ………森本?速水?どっちで呼ばせて貰えばいいか分かんないが、どうぞ」
「羽美さんは森本で呼ぶので、森本で構いませんよ」
律也は航に睨まれた気がするのは、野生の勘でもあるのだろうか、羽美に関する事には、アンテナを張り巡らせる事が出来るのかもしれない。
「お兄ちゃん!私芋焼酎ロックで!」
「羽美!熱あったんだろうが!飲ませねぇぞ!」
律也も、今日に限っては、誤魔化したいので、飲ませる訳にはいかないと思い、羽美に言う。
「小山内さん、流石に今日は飲ませる訳にはいかないね」
「…………そ、そうでした……ね……」
平日という事もあり、早くに引いたのかお客は律也しか居なかった。
律也がお品書きを見ていると、膳が運ばれて来る。
「まだ頼んでませんでしたが……」
「主人からのお礼ですよ、大事な娘を送ってきてくださいましたから………羽美はこっちね」
「え!お粥?………治部煮食べたい……お刺身美味しそう……」
「…………プッ……はい……これ好きなんだ……刺し身は病み上がりには如何かと思うので、俺が食べます……その代わり、真薯もどうぞ」
「え?………真薯は律……係長の好きな料理じゃ………」
「いいんだよ、今日は無理させたからな」
「!」
羽美は思い出したのか、一瞬硬直し律也から目線を反らし俯いた。その顔は照れて顔が赤い。
その様子をコッソリ見ていた両親。
「まさか2人は付き合ってるのか?」
「………に見えますねぇ」
「航には黙っとけよ、母さん」
「羽美の様子見たら言えませんよ」
航はその時、体温計を取りに行っていて、見ていなかった。
「羽美、体温計………何で粥以外を食ってやがる!」
箸で治部煮を啄む羽美を見て、律也の方の膳を見ると、律也の方には無い治部煮。
「だって食べたかったもん………お兄ちゃんの治部煮最高よ!」
親指立ててグーサインすれば、航は悪い気はしない様で、ブツブツ言いながらカウンターへと去って行く。
「お、おぅ………当然だろ………森本さん、ごゆっくり……」
羽美と航を見ていた律也は呆れ顔だ。
「お兄さんがシスコンになった理由が分かる気がするよ小山内さん」
「…………え?如何してですか?」
「………多分、俺と一緒の理由………兄妹で良かった……」
―――赤の他人だったら、手強過ぎるぞあの男……兄でも一筋縄ではいかないだろうが
その辺りは羽美には分からない様で、首を傾げながら、治部煮を独り占めしたのだった。
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