20 / 46
恋人VS兄
しおりを挟む少し遡り、律也の車の車内。
「お兄さん……シスコンか?」
「如何でしょう……昔から心配性で、私が学校で男の子と話してるの見ると、邪魔はしてきましたね」
「それがシスコン、て言うんじゃないのか?」
「………あぁ……それがシスコンと言うならそうかも………4歳違うので、中学高校は無かったですが、家の周りに彷徨く男の子達には牽制してたみたいです。両親が教えてくれましたが」
「………敵は兄貴か……」
律也はポソっと呟く。
「ん?何か言いました?」
「いや………そういえば、縄の痕は服着ていたら分からない様に結んだが、痕消える迄はお兄さんに肌見せるなよ」
「見ませんよ、見せませんし………心配させそうだし………」
そんな話をしながら、店に到着すると、仁王立ちしている航。
「お兄ちゃん!な、何してんの!あれ!」
「羽美、今熱が出てる、て事になってるんだ、元気そうに見せるんじゃない」
「あ………そうでした…」
停車すると、羽美を助手席に残し、律也がドアを外から開ける。体調が悪い振りをしなければならない羽美は、律也の言う通りにする。
「羽美!大丈夫か!」
「………あ、うん……大丈夫……」
「すいません、お兄さん……遅くなりまして」
「俺は貴方の兄じゃないんで………さ、羽美……お兄ちゃんが担いでやる」
「………それはいい……歩けるから……」
羽美も分かる程、航と律也の間に火花が見えた。
航は律也に牽制しているし、律也は律也で、糸口を探っている様だった。
「閉店間際でも、食事していっても大丈夫ですかね?」
「………羽美を連れ帰った人を追い返したら親父に怒られますから」
―――親父さんも難癖か?おい……
店内に入ると、羽美の母が心配そうに奥から出て来た。
「羽美、とりあえず座敷に座りなさい……ありがとうございます、羽美の母です」
「羽美さんの、上司で速水 律也と申します……職場では母の姓で係長をしていますが、社長である父と同じ姓では仕事に支障があり、森本と名乗っています」
「ま、まぁ……そんな方に羽美はお世話になってしまったんですね……速水社長にも度々ご利用して頂いてるんですよ………どうぞどうぞ……お口に合えば良いですが………」
「母さん!合うに決まってんだろ!親父の腕と俺の腕ありゃ、不味いなんて言わせねぇ!」
「航!またそんな口悪い事を!………すいませんね、羽美の兄の航は、羽美の事には本当に煩くて……」
座敷に座る羽美を心配してか、熱を測ろうと、羽美の額に直接額を合わせようとする航を、律也は見た。
―――な!シスコン過ぎるだろ!
「ち、ちょっと!お兄ちゃん!体温計にしてよ!兄妹でも近い!」
「熱を測るだけじゃねぇか!」
「航!手伝え!」
カウンターから、父が声を掛けてくれたおかげで、律也はホッとする。
「ちっ………分かったよ………森本?速水?どっちで呼ばせて貰えばいいか分かんないが、どうぞ」
「羽美さんは森本で呼ぶので、森本で構いませんよ」
律也は航に睨まれた気がするのは、野生の勘でもあるのだろうか、羽美に関する事には、アンテナを張り巡らせる事が出来るのかもしれない。
「お兄ちゃん!私芋焼酎ロックで!」
「羽美!熱あったんだろうが!飲ませねぇぞ!」
律也も、今日に限っては、誤魔化したいので、飲ませる訳にはいかないと思い、羽美に言う。
「小山内さん、流石に今日は飲ませる訳にはいかないね」
「…………そ、そうでした……ね……」
平日という事もあり、早くに引いたのかお客は律也しか居なかった。
律也がお品書きを見ていると、膳が運ばれて来る。
「まだ頼んでませんでしたが……」
「主人からのお礼ですよ、大事な娘を送ってきてくださいましたから………羽美はこっちね」
「え!お粥?………治部煮食べたい……お刺身美味しそう……」
「…………プッ……はい……これ好きなんだ……刺し身は病み上がりには如何かと思うので、俺が食べます……その代わり、真薯もどうぞ」
「え?………真薯は律……係長の好きな料理じゃ………」
「いいんだよ、今日は無理させたからな」
「!」
羽美は思い出したのか、一瞬硬直し律也から目線を反らし俯いた。その顔は照れて顔が赤い。
その様子をコッソリ見ていた両親。
「まさか2人は付き合ってるのか?」
「………に見えますねぇ」
「航には黙っとけよ、母さん」
「羽美の様子見たら言えませんよ」
航はその時、体温計を取りに行っていて、見ていなかった。
「羽美、体温計………何で粥以外を食ってやがる!」
箸で治部煮を啄む羽美を見て、律也の方の膳を見ると、律也の方には無い治部煮。
「だって食べたかったもん………お兄ちゃんの治部煮最高よ!」
親指立ててグーサインすれば、航は悪い気はしない様で、ブツブツ言いながらカウンターへと去って行く。
「お、おぅ………当然だろ………森本さん、ごゆっくり……」
羽美と航を見ていた律也は呆れ顔だ。
「お兄さんがシスコンになった理由が分かる気がするよ小山内さん」
「…………え?如何してですか?」
「………多分、俺と一緒の理由………兄妹で良かった……」
―――赤の他人だったら、手強過ぎるぞあの男……兄でも一筋縄ではいかないだろうが
その辺りは羽美には分からない様で、首を傾げながら、治部煮を独り占めしたのだった。
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
性処理係ちゃんの1日 ♡星安学園の肉便器♡
高井りな
恋愛
ここ、星安学園は山奥にある由緒正しき男子校である。
ただ特例として毎年一人、特待生枠で女子生徒が入学できる。しかも、学費は全て免除。山奥なので学生はみんな寮生活なのだが生活費も全て免除。
そんな夢のような条件に惹かれた岬ありさだったがそれが間違いだったことに気づく。
……星安学園の女子特待生枠は表向きの建前で、実際は学園全体の性処理係だ。
ひたすら主人公の女の子が犯され続けます。基本ずっと嫌がっていますが悲壮感はそんなにないアホエロです。無理だと思ったらすぐにブラウザバックお願いします。
坊っちゃまの計画的犯行
あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者?
※性的な描写が含まれます。
【完結】竿師、娼婦に堕ちる月の夜
Lynx🐈⬛
恋愛
首輪をされた女が幌ぐらい部屋のベッドの上で、裸にされていた。その女を囲む上半身裸の男達。
誰が閑静な洋館の1部屋で、この様な事が行われるのか、外からは思いもよらなかった。何故なら、この女は新しくメイドとしてやって来た女だったからだ。
主人の身の回りの世話や家事等の求人情報を紹介され来ただけである。
時は大正、西洋文化に侵食され始めた恋物語―。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる