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デート

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 その日の業務が終わったが、森本は他の社員と外回りに出ていた為、食事の約束をした手前、羽美は社内に残っていた。
 残業もする社員のサポートをしつつ、森本から連絡を待つ。

「!」

 PCの横に羽美のスマートフォンに通知が入る。

『駅前にある郵便ポストのあるコンビニで待つ』

 ―――郵便ポストのあるコンビニって……道路挟んだ反対側じゃないの……

 駅を利用する社員達も多く、目立つからだろう。駅側にもコンビニエンスストアはあるが、コンビニエンスストア内のポストの事は指してはいないだろう。
 森本は煙草を吸う。その彼が喫煙出来る場所であるならば、駅周辺は禁煙区域であるので、駅側のコンビニエンスストアは灰皿が設置していないからだ。

「お先に失礼します」
「小山内さん、ありがとうございました!」
「いえ、時間潰しにお手伝いした事なので」

 元々残業して迄手伝う事ではないのだが、手持ち無沙汰で資料作成を手伝っていただけだった羽美は、荷物をまとめ会社を出る。
 会社から徒歩5分程に駅がある。
 行き交う人混みに紛れ、会社帰りや接待や飲み会、帰路に着く者の中で、羽美は森本が待つコンビニエンスストアへと歩く。
 森本は、コンビニエンスストアの壁に凭れ、煙草を吹かしていた。

「係長、すいませんお待たせしました」
「忙しかったか?」
「あ、いえ……高田さんの契約書作成の手伝いしていただけで、そんなには」
「………高田?……あぁ、今日取ってきた案件のか……羽美が手伝ってたなら完璧な契約書になってないとな」
不備は無かったですよ」

 煙草の火を吸い殻を灰皿に押し付け消すと、背中を壁から離した。

「乗れ………車で移動する」
「車?」

 目の前に停車している車の助手席のドアを開け羽美を誘う。

「車通勤でした?」
「いや、一旦帰ってから車で来た」

 直帰だった森本が社用車ではない車の助手席のドアを開けたので自家用だろう。綺麗に洗車されて中も掃除が行き届いているのは、森本が仕事で几帳面な所から想像出来る。

「……し、失礼します」

 フレグランスもさっぱりした香りの車内だが、煙草のニオイが染み付いてはいない。
 羽美が車に乗ると、森本も運転席に乗り込む。

「何か食いたい物あるか?」
「お酒飲まなくても良さげな物なら」
「羽美は下戸じゃなかっただろ?」
「係長が飲めないのに、私が飲む訳にはいかないじゃないですか」
「気にする事は無いぞ?帰ってから飲むからな」

 森本はスマートフォンで店を探しながら、車のエンジンを掛けた。

「それでも、私だけ飲むのは気が引けますよ」
「…………」
「……?何か?」

 羽美の態度が気になったのか、森本がスマートフォンの操作を止めて、羽美の顔を覗き込む。

「………そういう所がタイプなんだよなぁ……謙虚で」

 そう言うと、羽美の髪を解く森本。

「係長!?」
「今からは、上司と部下じゃない……役職呼びは止めろ、いいな?羽美」
「………え!無理ですよ!急には……」
「………へぇ~」
「っ!」

 森本は明るいコンビニエンスストアの駐車場で、気にも止めずに羽美の頬を指で擦る。

「『律也』」
「………し、知ってます!」
「律也と呼ばないと、キスするぞ?」
「っ!」
「………5………4………3……」

 顔が羽美に近付いて来ると、コンビニエンスストアの利用客もチラホラと見て行く。それも嫌だが、『言わされる』感じも堪らなく嫌なのに、恥ずかしさから羽美は森本の名を言ってしまった。

「り………律也………さん!」
「………ちっ………飯……この店如何だ?」

 ―――今、舌打ちした?係長が?

 職場では紳士的で通している森本が、舌打ちする姿等、初めて見て羽美は驚きを隠せないまま、森本からスマートフォンで見せられた店を確認する。

「豆腐料理?」
「日本酒もなかなかいいの揃えてるぞ?」

 羽美はよく社食の付け合せで豆腐があれば豆腐を食べている。実際に好きだし、ヘルシーな料理が多いので、太りやすい羽美にはいい食材だ。

「ご存知でした?私が豆腐が好きなの」
「羽美の上司になって、1ヶ月見てれば好みは多少分かる………豆腐じゃなくても良いが?」
「………いえ、この店私もお気に入りなので」
「………じゃあ、決まりだな………」

 ナビゲーションを設定し、車を発車させた森本。運転も丁寧でミラーを確認しつつ、羽美に話掛けた。

「仕事以外の敬語は擽ったいな……止めれないか?」
「………ですが、係……いえ……律也さんは歳上ですし……」
「2歳か3歳ぐらいだろ?セックス中も敬語でいるつもりか?」
「……セッ………な、なんて事言うんですか!」
「………俺、シないつもりは全くないから」

 羽美は決して、森本と『付き合う』とは言ってはいない。告白もというだけで、交際するという流れに持って行かれてしまい、羽美はそれを断る事も出来ないのは、森本がであるからだ。はっきりとは言われていないし、羽美も言ってはいない。
 駐車場に車を停め、羽美と森本は車から降りると、目当ての店のビルへと入る。

「羽美ちゃん、いらっしゃい」
「女将さん、席空いてますか?」
「今日は2人ね?奥の席空いてるよ」
「よく来るんだな、この店」
「はい、ランチにも利用しますし、個室もあるので接待で使わせて貰ったりしますよ」

 奥に座敷があり、そこへ案内された羽美と森本は、女将からおしぼりを受取り、手を拭き取りながら、メニューを確認する。

「羽美ちゃん、つまみはいつものにするかい?」
「あ、はい!厚焼き卵焼きと、おからで……あと今日は飲まないので、ウーロン茶を2つ……とりあえずそれで」
「ウーロン茶は1つで良いです、彼女にはいつも飲む飲み物を」
「おや、彼氏さんは飲めないの?」
「か、彼……じ……」
「俺は車なんで」

 『彼氏さん』と女将に言われ、羽美は訂正しようとしたが、森本は言葉を被せて来る。

「そうなの……じゃあ仕方ないわね……少々お待ち下さいね」

 女将が厨房へ下がると、森本はメニューに目を通す羽美の手を握ると、指が絡まっていく。

「か、係ち……」
「『律也』」
「っ!………律也……さ……ん……」

 その指は羽美の指の間をやらしくなぞる。触れるか触れないか、微妙な距離間の指の手付きは愛撫をされているかの様に優しい。

「如何した?顔が赤いが?まだ酒も飲んでないぞ?」
「手………手付きがやらしいんですよ!」

 手を引っ込め様としても、捕まれる手は強く、指に触れる指の触れ方がゾクゾクとした羽美だった。



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